可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『依存魔』

映画『依存魔』を鑑賞しての備忘録
2019年製作のベルギー・フランス合作映画。
98分。
監督は、ファブリス・ドゥ・ベルツ(Fabrice Du Welz)。
脚本は、ファブリス・ドゥ・ベルツ(Fabrice Du Welz)、ロマン・プロタ(Romain Protat)、バンサン・タビエ(Vincent Tavier)。
撮影は、マニュ・ダコッセ。
美術は、エマニュエル・ドムルメーステル(Emmanuel de Meulemeester)。
衣装は、クリストフ・ピドレ(Christophe Pidre)とフロランス・ショルテ(Florence Scholtes)。
編集は、アン=ロール・ゲガン(Anne-Laure Guégan)。
音楽は、バンサン・カエイ(Vincent Cahay)。
原題は、"Adoration"。

 

「少しばかりの想像力で、ありふれた仕草が突然不穏な意味を帯び、日常を取り巻く世界が幻想的になる。1人1人の心がけ次第で目覚めるものなのだ、モンスターたちも妖精たちも…」ボワロー=ナルスジャック
森の中、大きな木の枝にポール(Thomas Gioria)が腰掛けている。鳥の声を耳にしたポールがロープを伝って幹を下り、動けなくなっていた小鳥を手にする。小鳥には糸が巻き付いていた。どうしたの? ポケットから十徳ナイフを取り出す。可愛いなあ。小鳥の頭を撫でる。大丈夫? イタイヨ。ハズシテヨ。外してあげるよ。ハサミで糸を切っていく。僕はポール。君は? ロビー。ロビーって呼ぶよ。僕とロビー、のびのび、喜び、ってね。ママはどうしてるの? ママ? ドコニイルカシラナイ。僕のママは病院で働いてるんだ。すぐ近くだよ。
ポールは小鳥を手に自転車に跨がって病院の隣に立つ建物に帰る。自室に戻ると小鳥を箱に入れ、鳥類図鑑を開く。小鳥がズアオアトリだと分かった。窓の外から足音が聞こえる。母シモーヌ(Anaël Snoek)が帰って来た。ポールは小鳥の入った箱をベッドの下に隠すと、階下に母親を出迎えに行く。明日は病院で手伝って欲しいの。どうしてだか分かる? お互いを大事にしないといけないからでしょ。
ベッドで横になる母親のためにポールがジョルジュ・シムノンの「フルヌ市長」を読み聞かせている。「マリアはバアスの部屋の扉から漏れる光に立ち止まり、耳を澄ました。踊り場は暗く寒かった。風が吹き、雨樋が壁にぶつかり…」。ちゃんと読めてる? ポールは母親に確認すると再び読み始める。「マリアは弱々しい呻き声に気付く。リノリウムの足音はバアスに違いない。彼が寝室をスリッパで大股で歩いている。」母親は眠りに落ちた。ポールは足下に本を置くと、ベッドサイドの引き出しを開ける。そこにはバイクに跨がる男の写真があった。写真を戻し引き出しを閉めるとポールは部屋を出て行く。
森の中でポールが焚き火をしている。病院の方から少女の叫び声がする。赤い服を着た少女(Fantine Harduin)が森に向かって走って来る。彼女はポールに平手打ちを食らわせるようにしてぶつかると、ポールとともに地面に倒れ込む。ポールは目の前の少女の顔に目を奪われる。追って来た看護師のジャンヌ(Martha Canga Antonio)とルシアン(Sandor Funtek)が少女を捕まえた。少女は激しく抵抗するも、2人によって病院に連れ戻される。その様子をポールはじっと眺めていた。
ポールが病院に入ると、先ほどの少女の泣き叫ぶ声と、少女を叱り付ける男の声が聞こえた。ポールは階段を登り、上階の奥にある病室を窺う。グロリアと呼ばれる少女が放してと暴れるのを医師のロワゼル(Gwendolyn Gourvenec)が必死に宥め、看護師たちが拘束しようとしていた。鎮静剤が必要ね。病室の前に佇んでいたポールに母親が声を掛ける。来られる? 手助けが必要なの。ポールは母親とともに階段を下る。
夜。ポールは自室で赤、青、緑と色の切り替えられる懐中電灯で繁茂する植物の壁紙に影絵を作って遊んでいる。鍵を手に部屋を出ると、地下室へ向かう。そこには2羽のメンフクロウがいた。ポールはメンフクロウの頭を撫でて語りかける。新しい友達ができたんだ。向こうの木の傍でね。怪我してたのを助けたんだ。彼の名前が分かる? ロビーって言うんだ。ロビーっていい名前だよね。ポールは懐中電灯の色を切り替えながら、沢山のシーツが干してある場所へ向かい、シーツに包まれる。
ポールは病院に行き、窓の外から室内の様子を窺う。ロワゼルらとともにいた少女がポールに目を向けると、慌てて身を隠す。
ポールが森でロビーに餌をやる。もうお腹はいっぱいになった? マダタリナイヨ。ポールは幼虫を与える。もっと欲しい? モットホシイ。ちょっと待ってよ。そこへ帽子を被りサングラスをかけた少女が姿を現わし、ポールは驚いて飛び退く。何を隠したの?

 

ポール(Thomas Gioria)は森の中にある建物で、隣の精神病院に勤める母シモーヌ(Anaël Snoek)とともに暮らしている。鳥を愛するポールは、自分が設置した巣箱の傍に、糸が絡まって動けなくなったズアオアトリを見付ける。ポールは糸を切ってやり、ロビーと名付けて飼うことにした。ポールが森で焚き火をしていると、病院から飛び出して来た赤い服を着た少女(Fantine Harduin)に衝突された。彼女の美しさに目を奪われる。彼女は抵抗も虚しく看護師のジャンヌ(Martha Canga Antonio)とルシアン(Sandor Funtek)によって連れ去られた。病院で医師のロワゼル(Gwendolyn Gourvenec)の治療を受けるのだ。ポールは少女のことが気になって仕方がない。森でロビーに餌をやっていると、彼女が目の前に姿を現わした。グロリアと名乗る少女は、逃がしてやらないと鳥は死んでしまうと言う。ポールは鳥についての知識をグロリアに熱心に披瀝して自分が飼うにふさわしいことを訴える。グロリアは看護師に病院に連れ戻されるが、ポールは自転車にグロリアからの手紙を見付ける。友達になれると思うという言葉とともに、大きなハートマークが描かれていた。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

人里離れた精神病院の隣で暮らすポールには友達がおらず、ずっと孤独だった。美しいグロリアから友達になろうと告げられたポールは、グロリアの虜となる。彼女に近付いてはならないという母や医師からの命令は、ポールのグロリアに対する気持ちを却って高めることになる。
ポールは傷ついていたズアオアトリにロビーと名付け世話するが、グロリアは逃がさないと死んでしまうという。ポールは自分の愛情と知識でロビーを救えると考えているが、ロビーは死んでしまった。箱にしまって飼っていたロビーは精神病院に連れてこられたグロリアの象徴であり、ポールはグロリアを殺さないためには病院から逃がす必要に思い至る。
母親がポールにグロリアが自分より可愛いかどうか執拗に尋ね、それを否定しないと激昂する。ポールもまた囚われた存在であった。
グロリアは亡くなった両親の遺産を狙う叔父(Laurent Lucas)と医師との策略で精神病院に連れて来られたと言う。だが、(逃げる発端になった出来事を別としても)グロリアの異常さは徐々に明らかになっていく。まずはポールが森で手に入れた果物の食べ方であり、食料を手に入れるためにポールに家宅侵入を促すことである。感情の表し方も極端だ。とりわけ鶏が叔父の監視に用いられたものだという辺りからは、妄想であることがポールにも分かっただろう。
ボートは、流されていくポールの象徴だろう。
鳥は最後まで重要なメッセージを与え続ける。
森とその中に立つ古い洋館を舞台に、どこか古びた効果のある映像により、当初は古い時代の話かと思ったが、現代が舞台。
顔のクローズアップや、ブレなど、人の視線や覗き見る感覚がカメラによって生み出されている。