可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 堀内悠希個展『カンタム テレポーテーション』

展覧会『堀内悠希「カンタム テレポーテーション」』を鑑賞しての備忘録
駒込倉庫にて、2023年1月14日~2月5日。

堀内悠希の個展。遠く離れた場所に一瞬で未知の量子情報を転送する「カンタム テレポーテーション」の概念を手掛かりに、焼き物、映像、絵画によって、眼前の事象の複眼的な見方を提示する試み。

会場は道路に面した狭い間口から奥に延びる「うなぎの寝床」型で、入口の設けられている道路側の壁面は前面ガラス張りになっている。そのガラス壁面の右下に展覧会のタイトルが記されており、そこから覗くことができるように、9点の蝋燭を模した、白やクリーム色の釉のかかった焼き物《Shadow of Candle》が置かれている。1本の炎を点した蝋燭(あるいはその影)、5本の蝋燭のうち2つだけ火の点った形など、床に置かれたり壁に立て掛けたりした1枚の陶板のタイプの作品と、1本の炎を点した蝋燭とその影、5本の点った蝋燭とその影など、2つの陶板を組み合わせたような形の自立するタイプの作品とがある。
会場入ってすぐ左手(《Shadow of Candle》の一部作品が立て掛けられている壁の反対側)の壁面には、高い位置に右に向かって歩む(?)人物を模した陶板《Traveler》と4分の1の円に近い形のオレンジや赤などのマーブルのような色が入れられた《コメット》と題された陶板が横木に立て掛けられている。
入口付近の《Shadow of Candle》と《Traveler》・《コメット》から離れた会場の奥の壁には《Candle Flames》と題された映像作品が映されている。室内の窓の近くに設置された5本の蝋燭に火が灯されていくことで始まるフィルムで撮影されたと思しき作品で、途中から複数のイメージが(合成処理により? 多重露光的に)重ね合わされ、1本の蝋燭なのか複数の蝋燭なのかが曖昧にされていく。なおかつ、蝋燭の背後の真っ暗な窓にも蝋燭が映り込んでいる。1本1本の蝋燭が時間を象徴することはもとより、合成される個々の映像がそれぞれの時空間を表わす。映像作品全体は複数の時空を俯瞰できる五次元的な結節点なのかもしれない。
翻って、蝋燭を模した陶板作品群《Shadow of Candle》は、実は映像作品《Candle Flames》の写しだったことが分かる。とりわけ2枚の陶板を組み合わせたような自立型の作品は、蝋燭とその影とを表わしたものに見えるが、当然のことながらどちらも蝋燭ではなく、その影であり、イメージである。洞窟を思わせる「うなぎの寝床」型の会場の奥に映像を流すことで、プラトンの「洞窟の比喩」を演出してみせたのである。「実体」ではなく「影」を見ているのに過ぎないと。もっとも、ガラス壁面から射し込む光は、そのイメージ(=焼き物)の影を作り出す。それならば焼き物自体は「影」ではなく「実体」を見ているということにるかと言えば、《Shadow of Candle》というタイトルがその理路を封じてみせる。さらに《Shadow of Candle》を会場の外側からガラス越しに見せることは、スクリーンやモニターなどの画面(映像)を見ている「現実」のメタファーになっている。
それでは、壁面に立て掛けられた《Traveler》と《コメット》とは何か? 鑑賞者の現実世界を象徴する《Shadow of Candle》と、複数の時空を俯瞰できる五次元的な結節点《Candle Flames》とを、何も展示物の置かれていない空間(space)(=ブラックホール)を通じて連絡する乗り物(vessel)=宇宙船(space/craft)なのだろう(なお、会場2階に、折り紙で作った船を描いた陶板を継ぎ合わせ、あるいは小さな穴を開けた《おりがみ船/折り目》があるが、複数の次元の重ね合わせと、それらの間を行き来する宇宙船の思考実験と考えられる)。

主に2階会場で展示されている洒脱な水彩画や陶板絵画も極めて魅力的である。