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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 國分莉佐子・斉木駿介・德永葵三人展『はたからみる』

展覧会『國分莉佐子・斉木駿介・德永葵「はたからみる」』を鑑賞しての備忘録
新宿眼科画廊〔スペースM〕にて、2023年2月24日~3月15日。

國分莉佐子、斉木駿介、德永葵の3名の作家の絵画を展観。

〔德永葵の作品について〕
德永葵《たこやき》(910mm×1167mm)は、大勢の人が行き交う露店が立ち並ぶ参道で、たこやきの屋台の前で佇む少女を描いた作品。画面左端に寺の本堂らしき建物が覗いている。屋台の垂れ幕は防水のビニールの反射で参道側の表記が見えない。たこ焼きの鉄板は参詣客で見えない。見えるのは、垂れ幕のサイドの表記と、キャベツの山である。作品を特徴付けるのは、何より人物の表現である。写実的な景観の中に、それぞれ微妙に色味の異なる白い紙に人の姿を描いて切り抜いたものを並べたかのように描いている。人形劇であれば、反転しても見えるように両面にキャラクターを描かれるであろうが、この絵画のキャラクターは表だけに描かれ、背面に裏移りしている。主人公であるマスクにマフラーの少女は表を向いているが、他の5人の参詣客は寺院に向かい背面を見せている。それぞれのキャラクターは折り目が入れられているのも――露店の人物は紙を折り曲げることで屈む動作が示される――、景観の中に実際に紙の人形を配したイメージであることを強調している。そして、紙のペラペラとした感じは、左奥の寺(本堂?)に向かって立ち並ぶ屋台、たこやきの屋台からブルーシートや木立越しに見える駐車場(?)の車の奥行きとの対照により際立たされている。背景を描いた上に人物を描いた紙を貼り付けるという手法も、あるいは実景の中に紙製の人形を置いて撮影した写真作品として提示する手法もあり得たろうが、そのような手法は取られなかった。露悪的にペラペラの人形を挿入することで絵画のフィクション性を浮き立たせるとともに、1つの画面に描き込むことでペラペラの人物達が生きられる世界――写実的な描写の背景が書割に転じる舞台――を起ち上げている。紙人形の手触りは画面に封じ込められることで失われ、鑑賞者は却って失われた触覚に思いを致すことになる。マスクをしたキャラクター(なお、《バス》(530mm×455mm)や《登校》(455mm×380mm)では本作の主人公と同一と思われるマスク姿の少女だけが描かれる)によって象徴されるパンデミックの時代に失われた感覚に対する冀求こそが主題であった。