可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 岡村桂三郎個展

展覧会『岡村桂三郎展』を鑑賞しての備忘録
コバヤシ画廊にて、2023年3月6日~18日。

一対の象、一対の鶴、1頭の犬を描いた5点の絵画で構成される、岡村桂三郎の個展。別室に小品21点を展示。

《白象図23-1》(2300mm×2400mm×80mm)は、縦長の3つのパネルを屏風のように角度を付けて連ねて立てた画面に、白い象をほぼ正面から描いている。画面一杯に丸く広がる体は、その背が上端で切れ、また肢や長い鼻も下端で中途から見えなくなっていることで、その大きさが強調される。赤みを帯びた白い肌は闇から熱を発するようだ。何よりその肌に文字通り刻まれた丸鱗のような円弧の連なり――鼻筋とそれ以外で向きを違えてある――が目を引く。《白象図23-1》を一対の「左隻」として、右隻に相当する《白象図23-2》(2300mm×2400mm×80mm)は白象を横から描き、左隻の象に顔を向けている。その組み合わせから、俵屋宗達が杉戸に描いた《白象図》を下敷きにしていることが分かる。宗達の太い線による切り絵のような白象が漫画のキャラクターだと評すると、作家の白象は劇画調と言える。また、宗達の白象の牙が横方向に伸ばされるのは、引手のある杉戸の横方向の動きに対応したものであろう。なおかつ白象の足は地面を踏みしめている。作家の白象の牙は宗達の白象のそれに比して下方向に向いている。床に直置きにされた画面から四肢や鼻が中途から切れていること、背景の闇の広がりが上部の方が広いことと相俟って、異界から浮上する印象を生む。

《青鶴図23-1》(2300mm×2310mm×80mm)は、3枚の縦長のパネルを繋げた画面に片脚を折り曲げ翼を拡げた鶴が右側を向く姿を表わす。羽や足の先は画面から外れている。体が右下に傾いでいるのに対し、頭は垂直に持ち上げられている。体表の鱗のような表現は、太い首や青緑の絵具がかけられていることと相俟って恐竜を思わせる。対となる《青鶴図23-2》(2300mm×2310mm×80mm)は翼を拡げ片脚で立つような姿の鶴を表わす。体が真下に向かっているのを羽の先のギザギザが強調している。先行する作品は不明。2つの壁面に角を挟む形で展示されていることから一種の双鶴図と言えるが、闇に浮かぶ鶴の姿は夫婦の和合を寿ぐものからほど遠い。

《狗図23-1》(1800mm×1800mm×80mm)の縦長の2枚のパネルを正方形に組んだ画面には、闇に狗の姿が鉤状(L字)に描かれている。右上の頭から左方向に伸びる寸胴の体は後ろ肢などが画面から外れている。また、頭の真下にある前肢は、足が組み合わされてV字となる。鱗のような肌を持つ犬の目は禍々しく、不穏な雰囲気を漂わせ、森山大道が三沢で撮影した野良犬を想起させる。

通りから階段を下った地下の展示室に飾られていることもあり、闇の中に息を潜めている生命の鼓動が感じられる。パンデミックの最中に行動を制限された人々に溜め込まれたエネルギーを象徴するようだ。