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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ヴォルフガング・ティルマンス個展『Moments of Life』

展覧会『ヴォルフガング・ティルマンス「Moments of Life」』を鑑賞しての備忘録
エスパス ルイ・ヴィトン東京にて、2023年2月2日~6月11日。

フォンダシオン ルイ・ヴィトン所蔵作品で構成される写真家ヴォルフガング・ティルマンス(Wolfgang Tillmans)の個展。

《Osaka, still life》は、ホテルの窓辺を捉えた写真。。カーテンを左右に寄せて開き、パッケージに入った桃や蜜柑、おかき、ブラシ、団扇、書類などが置かれた窓台を斜め上から撮影している。桃、蜜柑、円形のトレイ(?)、団扇などの円(球)と、窓(窓枠)、送風口(?)、向かいの建物の窓などの四角形が繰り返される。団扇が映り込んでいること、また俯瞰構図であることもあり、アナクロニズムかもしれないが、ジャポニスムを連想しないわけにはいかない。実際、窓越しの白い建物を背景に観葉植物を見上げて撮影した《Flatsedge》、背後に木陰が覗く庭らしき場所で屈む男性の上半身と腕を右側から捉えた《Torso》などの大胆なモティーフの切断もジャポニスムの特徴に通じる。

《Stadium》は、1つだけ点灯した2つの電球がぶら下がる暗い部屋と、日が沈んだ戸外を見せる窓に映り込んだ電球の明かりとを写す。電球によるオレンジの色味の室内と青く沈んだ戸外とは対照的だが、窓に映った電球を含め3つの電球が直列することで両者が接続されている。それは、光が窓を介して往き来することを象徴する。
《Still life, Bourne Estate Ⅱ》は、奥にある窓の下部、その手前の台の上に置かれた水晶を含む数点の鉱物やカタツムリ、ルーター(?)、台の手前のヒーターと、画面の一番手前に位置する縛られたビニール袋と茎の先に葉を拡げる観葉植物とを斜め上から捉えた写真。動物、植物、鉱物が閉じた環境に共存する。そこでは光によって与えられるエネルギーの循環がある。
《end of winter (a)》は、白から黒へ下に向かい暗くなる抽象的な写真を貼ったパーテーションを中心に、その周囲に乱雑に置かれた多数の瓶、壁際に置かれた何脚もの椅子、天井から垂下がる紙の飾りなどを捉えた室内の光景。飲む、坐るといった人の存在を訴えるものが溢れることによって、部屋に誰もいないことが強調される。右側の窓の存在を示す床の光が、寒さから閉じ籠もっていた人々が陽光を求めて外へ飛び出し(spring)たことを示唆する。
展示作品に窓が繰り返し現れるのは、窓が光(のエネルギー)の往還を可能にする装置だからだろう。そして、作家は生命(life)を構成するのは、動植物に限られず、鉱物など無機物をも含むと考えているのではなかろうか。森の中で地面を踏みしめる人物の左足の赤いスニーカーを大きく捉えた《shoe(gounded)》は、土が鉱物のみならず、有機物や生物を含めた混合物であり、それが生命(life)の基盤であることを訴えているようである。

個々の作品の魅力だけでなく、異なる時期に撮影された様々なサイズの写真を大きな壁面に並べる構成も見事。