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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 自立と統合(後期)』

展覧会『ポーラ ミュージアム アネックス展 2023 自立と統合(後期)』を鑑賞しての備忘録
ポーラ ミュージアム アネックスにて、2023年3月17日~4月16日。

秋山美月、佐藤幸恵、永井里枝の作品を展観。

秋山美月はインスタレーション2点を出展。
《What makes us Nature》は、高さの異なる3本の丸太の樹皮部分を黒く塗り込め、切断面には松脂を塗布し、1本ずつ白い石を丸く敷いた上に並べて置いた、一見すると石庭のような作品。丸太は下に窄まっているため、上下反転して立てられているのが分かる。切断面の年輪の中央には孔が穿たれ、松脂が溜まっている。そこには何か光るものがあるが判然としない。松脂に固められた樹木は琥珀の生物化石のようであり、タイトルの"Naure"を介して"Nature morte(静物)"を連想させる。立てられた樹木は、二足歩行の人間(us)であり、死を想え(memento mori)と訴える。
《Afraid to look》は、洋梨(人体のメタファー)や卵(誕生のメタファー)のような形のガラス器に鍵を沈め、透明なエポキシ樹脂を流し込んだ作品。形や色味、鍵の種類や数が異なる100個が、ガラスが無色に近いものから青味を帯びたもの、緑色を呈するものなどを経て、不透明に近い濃い藍色のものへ変遷するように並べられている。仮に日の入りの際のブルーアワー(Heure bleue)の表現であるとすれば、やはり夜=死の訪れを突き付ける作品と言える。答え(=鍵)は目の前にありながら、それを直視することができず、見たいものだけを見てしまう。

永井里枝は人気の無い夜の街の姿を描いた作品を5点出展している。
出展作品中最大の《Blueprint》は、横に長い画面に、飛び立つ飛行機や出発案内板、エスカレーターなど空港の景を人気の無い青い夜の中に溶け込ませるように描くとともに、満月やパイプ(?)などを黄色で浮かび上がらせた作品。とりわけ画面を横断するパイプは生きもののようにのたうつ。人のいない時間帯でも配管や電線が脈打つことで空港の活動は維持されている。タイトルは青い画面であることと配線や配管のモティーフが設計図(blueprint)のイメージを呼び起こすためであろうか。
《0:02 a.m.》は、ファストフード店(?)の客席をガラス越しに捉えた作品。誰もいない店内がマゼンタで表わされている。鏡に映る白い靄らしきものはゲニウス・ロキの形象化とも考えられる。
大勢の人で賑わう場所を、人の姿を表すことなく描き出す。人の不在が人の存在を呼び起こす。死を想うことで生を意識する"memento mori"同様の反転が認められる。

佐藤幸恵は、ガラス器に金属部品や木の実などを組み合わせた「気色」シリーズ13点と、土器や化石の断片にガラス器で延長部分を想像で付け足した「残片」シリーズ10点を出展。
「気色」シリーズでは、花器を想わせるガラス器には螺旋などが刺さり、また針金や真鍮の線が電気回路のように延びてコルクや木の実、鉱石などと接続されている。とりわけ針金などが鉱石などを巻き付ける様子は、電気などエネルギーが流れるイメージを呼び起こし、歯車が駆動したり灯が点ったりする様を想像させる。花器は外部からエネルギーを摂取して生きている人のメタファーであろう。
「残片」シリーズは、縄文土器や化石の断片にガラスで作った延長部分が継ぎ合わされている。土器のように人の手によるものにせよ、化石のように自然が生み出したものであるにせよ、残されたものに何かを付け加えていく行為は文化そのものである。また、土器や化石と異質なガラスの延長部分との接続は、地球という閉じた環境の中で生命が複雑化・多様化したに過ぎないこと、すなわち同源であることを訴えるようでもある。