可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『フリークスアウト』

映画『フリークスアウト』を鑑賞しての備忘録
2021年製作のイタリア・ベルギー合作映画。
141分。
監督は、ガブリエーレ・マイネッティ(Gabriele Mainetti)。
脚本は、二コラ・グアッリャノーネ(Nicola Guaglianone)とガブリエーレ・マイネッティ(Gabriele Mainetti)。
撮影は、ミケーレ・ダッタナージオ(Michele D'Attanasio)。
美術は、マッシミリアーノ・ストゥリアレ(Massimiliano Sturiale)。
衣装は、マリー・モンタルト(Mary Montalto)。
編集は、フランチェスコ・ディステファノ(Francesco Di Stefano)
音楽は、ミケーレ・ブラガ(Michele Braga)とガブリエーレ・マイネッティ(Gabriele Mainetti)。
原題は、"Freaks Out"。

 

第二次世界大戦中のイタリア。街の広場に立てられたサーカスのテントを前にイスラエル(Giorgio Tirabassi)が口上を述べると子供たち、大人たちが人垣を造る。ようこそ紳士淑女の皆様。私はイスラエル、奇妙奇天烈なキャラクターたちの織り成す幻想世界へとお連れします。大成功を収めたヨーロッパ巡業から帰って来たばかり、記憶に残ること請け合いの驚異的な技を持つ者たちを是非目にして頂きたい。想像の世界を現実にするのはメッツァピオッタ・サーカスだけですぞ。目にするもの全て現実ではない。
テントの中で火の粉が舞うように無数の蛍が飛び回る。目を見張る観客。アルビノのチェンシオ(Pietro Castellitto)の合図で蛍は飛び方を変え、光を消す。イスラエルが蛍の動きに合わせ楽器で効果音を入れている。チェンシオは口の中からサソリを出す。サソリに顔や身体を這わせていたチェンシオは、続いてバッタを身体から飛び立たせると、小人の道化師マリオ(Giancarlo Martini)の頭に留まらせる。台車を引き摺って登場したマリオは台車を飛び越そうとして失敗、把手に身体をぶつけ台車をひっくり返し、カトラリーをぶちまける。ぎこちない動きを子供たちが笑う。上着を脱いで金属の上に俯せになったマリオの身体は磁石のようにナイフやフォークを引き付けた。後からスプーンが1つ飛んできてマリオの額を打つ。そのとき遠吠えが布の掛かった檻から聞こえてくる。驚いてカトラリーを落としたマリオは逃げ出す。檻を揺さぶり布が落ちると毛むくじゃらのフルヴィオ(Claudio Santamaria)が現れる。檻の鉄格子をねじ曲げ檻から抜け出し、吠えて威嚇しながら客席を回ると、イスラエルからライフルを投げ渡される。客たちに銃口を向けて脅かしたフルヴィオが銃を曲げて見せると拍手喝采。客席から薔薇を放り込まれたフルヴィオが天井に向かって投げると、マティルデ(Aurora Giovinazzo)が受け取り、ロープを伝って降りて来る。マティルデは箱に入った電球を1つ手に取り口に咥えると点灯する。続いて両手に電球を持ち点灯させる。袖口から顔を覗かせたチェンシオが蜂をマティルデに向かって飛ばすと、蜂はマティルデの身体に接触した途端に黒焦げになった。マティルデは電球を口に咥え両手に持ったまま踊り、天井に電球を投げつけて砕き、火の粉を降らせる。他の3人とともにマティルデがお辞儀すると拍手が湧き起こる。突然、爆発音とともに客が吹き飛ばされる。テント内は阿鼻叫喚。広場の上空を戦闘機が飛び、次々と爆弾が落とされていた。血だらけになって倒れた人、怪我人や子供を抱えて運ぶ人。広場に面した塔が爆撃を受けて倒壊し、広場は瓦礫と煙とに呑み込まれる。誰もいなくなった広場にメッツァピオッタ・サーカスの看板が落ちていた。
ヒトラー肖像画が壁に掛かり、ピアノが鎮座する部屋。いくつものデッサンが並べられ、そこにはゲーム機や月面着陸、ドローンやスマートフォンが描かれている。戦いの場面や、光の中に4人の人影が浮かび上がる絵などもある。部屋の奥では、薬瓶などが並ぶテーブルの脇でフランツ(Franz Rogowski)が死んだように眠っている。イリーナ(Anna Tenta)が彼を起こそうと声を掛ける。出番よ。観客が待ってる。ローマの半分があなたの演奏を聴きに来たのよ。…僕は未来にいたんだ。まだ寝ぼけたフランツが呟く。麻酔を使うのを止めないと。見付けたら止める。奴らは並外れた力を持ってる。総統への贈り物にするんだ。フランツはイリーナに支えられ立ち上がり、服を着せてもらう。分かってるだろ、戦争に勝つ唯一の望みなんだ。戦争に勝者はいないわ、敗者だけよ。奴らはどこにいる? フランツは控えていたガス(Eric Godon)にジャケットを掛けられ、帽子を手にすると、部屋を出てサーカスのステージに向かう。
イスラエルがマティルデを隣に手綱を取る2頭立ての馬車が廃墟と化した街を抜ける。

 

第二次世界大戦中のイタリア。イスラエル(Giorgio Tirabassi)率いるメッツァピオッタ・サーカスには、虫を操るアルビノの少年チェンシオ(Pietro Castellitto)、磁石のように鉄を惹き付ける小人の道化師マリオ(Giancarlo Martini)、獣のように毛深く怪力のフルヴィオ(Claudio Santamaria)、身体から電気を発する少女マティルデ(Aurora Giovinazzo)の4人が所属する。ある街の広場で公演中、空襲を受ける。テントを失い窮地に陥ったイスラエルは新天地アメリカで一旗揚げようと提案する。サーカス以外に生きる術を持たない4人は同意して渡航費用を託すが、イスラエルは仲介者に話を付けに一人馬車で出て行ったまま戻らない。大金を巻き上げられたと憤慨する仲間を宥め、マティルデは3人とともにイスラエルを探しにローマの街に向かう。
フランツ(Franz Rogowski)はピアノの卓越した才能によりベルリン・サーカスで評判を得ているが、6本指を理由に徴兵検査で失格となったことに鬱屈していた。フランツは麻酔を吸引することで未来を幻視し、劣勢に立つナチス・ドイツの起死回生策には4人の傑出した異能者を集める他ないと確信する。ベルリン・サーカスに志願した風変わりな連中から選抜した人材を人体実験にかけては役に立たないと殺害していた。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

いずれもメッツァピオッタ・サーカスの団員である、虫を操るアルビノの少年チェンシオ、鉄を惹き付ける小人の道化師マリオ、毛深く怪力のフルヴィオ、電気を放つ少女マティルデは、サーカス以外に生きていく術がない。空襲でテントを失った一座は団長のイスラエルの発案で渡米を目論むが、資金を集めて仲介者に交渉に向かったイスラエルは戻らなかった。団長を信じるマティルデは仲間とともにローマでイスラエルを探すが見つからない。ナチスによるユダヤ人狩りを辛くも免れた後、マティルデのみがイスラエルの捜索を続け、残り3人はメッツァピオッタ・サーカスを見切ってベルリン・サーカスを頼る。
フランツは兄アモン(Sebastian Hülk)のような将校になりたかったが、6本指であることから徴兵検査で失格となった。ピアノで傑出した才能を有し、大勢の聴衆を魅了していることも彼の慰めにはならない。総統の自死を含めたナチス・ドイツ崩壊を幻視するフランツは、自ら選抜した異能者軍の力をもって帝国を立て直し、自らの力を誇示する野望を抱いている。
4人とフランツとは同類であるが、前者がサーカスという閉鎖空間の中で自足するのに対し、後者はそれに飽き足らない。徴兵検査が象徴する自らを排除する規範に自らを当て嵌め、自己を否定し続ける。フランツは指の切断によって「将校」となるが、その実、兄の軍服を奪い取って身につけたに過ぎない。自らを差別した規範に適合したのではなく、自己否定を完成させたのである。フランツに自らの未来の幻視は不可能である。むしろイリーナこそ、戦争には敗者しかいないとフランツの「わが闘争」の行く末を見抜いていた。
マティルデは放電の力を秘めて使おうとしない。それは、過去に大きな過ちを犯したという悔悟があるからだ。Gabriele Mainetti監督は、『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ(Lo chiamavano Jeeg Robot)』(2015)同様、超能力が善悪どちらにも利用されることを描き出している。