可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『M3GAN ミーガン』

映画『M3GAN ミーガン』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のアメリカ映画。
102分。
監督は、ジェラルド・ジョンストン(Gerard Johnstone)。
原案は、アケラ・クーパー(Akela Cooper)とジェームズ・ワン(James Wan)。
脚本は、アケラ・クーパー(Akela Cooper)。
撮影は、ピーター・マキャフリー(Peter McCaffrey)。
美術は、キム・シンクレア(Kim Sinclair)。
衣装は、ダニエル・クルーデン(Daniel Cruden)。
編集は、ジェフ・マケボイ(Jeff McEvoy)。
音楽は、アンソニー・ウィリス(Anthony Willis)。
原題は、"M3GAN"。

 

ファンキ社のコマーシャル映像。犬を飼ってたの、たった一人の友達。なのに天国に旅立って、また一人ぼっち…。愛犬と微笑んでいた少女が墓の前に嘆いている。気が晴れるんじゃないかと思ってさ。父親が娘に白い毛に覆われた目の大きな妖精のようなロボットをプレゼントする。「パーペチュアル・ペッツ」。本物のペットにそっくり。でも、話しかけると答えてくれるところが違うんだ。ペッツは6種類。みんな性格が違って自分から反応するよ。8つの言葉を話せるんだ。写真だって撮れちゃう。アプリを使って餌だってあげられるよ。与えすぎには注意! アプリは常に更新されるから何でも一緒にできちゃうよ。ヴィデオを見たり、雑学を学んだり、ゲームをしたり、ペットのためのアクセサリーも買えるんだ。君はペッツと何する?
家族でスキー旅行に向かう車中。後部座席に坐る9歳のキャディ(Violet McGraw)が隣のペッツにタブレットのアプリを使って餌を与える。ジェリービーンズは最高だぜ。放屁したペッツが喋るのを聞いて、キャディが笑う。キャディ、見てご覧、もう山の頂上よ。助手席の母ニコル(Chelsie Florence)が娘に声をかける。ホテルが見える? なるほど面白いなぁ。他に何か面白いことないの? キャディではなくペッツが反応する。タブレットは1日30分に制限しなきゃって思ったのに。ニコルがハンドルを握るライアン(Arlo Green)に言う。なんで俺に言うんだ? 俺が渡したんじゃない。空気を読まないペッツはあれこれ喚いている。キャディ、音量を下げてくれる? ルールを作ったら守らなきゃ。タブレットが無かったら静かにしてないだろ。娘が坐って玩具に餌を与えるのがいいわけ? キャディ、音量を下げて。もう下げたよ。ジェマは何のつもりだったの? 姪の誕生日にプレゼントをやらなきゃ、だろ。彼女の会社の製品でしょ。たぶん送料さえ払う必要なかったわよ。iPadが必要な玩具って何が目的なの? これが未来の形なんだろ。慣れるしかないさ。そのときハンドルを取られ、車が大きく揺れる。何なの! 大丈夫だ。チェーンを着けておくべきだったのよ。10分前まではそんなこと考えてなかったろ。俺のせいみたいに言うなよ。再びハンドを取られ、車体が大きく揺れる。ペッツが座席から転がり落ちる。ちょっと真剣に! 俺にどうしろってんだ? 何でゲートで四駆だなんて言ったの! 四駆っぽいからだよ。キャディが床に転がったペッツを拾う。キャディ、何してるの! シートベルトをして! 激しい雪で視界が遮られる。何も見えないな。だったら車を駐めてよ。車道の真ん中で駐まってるわけにはいかないだろ。視界が戻ったら車を駐められる場所に駐めて、除雪車が除雪するのを待ちましょう。どれくらいかかるんだ? そのとき真正面に大きなトラックが現れる。
シアトル。ファンキ社。コール(Brian Jordan Alvarez)が箱を抱えてやって来る。エレベーターに乗り込むまでの間、そこかしこで子供たちの玩具で遊ぶ様子を観察し、あるいは自ら玩具を試している社員たちの姿が目に入る。
地下の研究室。ジェマ(Allison Williams)がテス(Jen Van Epps)とともに廉価版のロボット玩具をテストしている。なんでこんなことしてるわけ? やらなきゃいけないからよ。開発段階のを彼に見せれば…。あなたが準備が整うまでは駄目だって言ったのよ。コールがやって来て箱をジェマに示す。私が考えてるものかしら?
研究室の奥にはチタン製の身体を持つ人の形をしたロボットが複数のコードを挿して吊り下げられている。コールが持ち込んだシリコン製のマスクを頭部に装着すると、ロボットは俄然、人らしくなる。支払いに見合った代物だといいけど。じゃあ、始めようか。コールが「幸せ」や「悲しみ」と声をかけるとロボットはその表情を変える。「狼狽え」と言ったところ、不敵な笑みを浮かべるのでジェマがストップをかける。何故あんな表情を? さあ、ジェマ、君のプログラムだろ。分かってるわ、私のプログラムだって、だけど狼狽える表情じゃないでしょ、狂ってるわ。どうして欲しい? 皮膚を返却しようか? 反応してないもの。コールがマスクを剥がそうとするが癒着して剥がれない。気を付けて、破かないでよ。そこへデイヴィッド(Ronny Chieng)が秘書のカート(Stephane Garneau-Monten)を伴って現れる。IDを翳してもドアが開かずデイヴィッドがいらついてる。テスが慌てて解錠する。デイヴィッドは、3人が開発中のロボットを見て、怒りを抑えつつ尋ねる。何なんだこれは? これが研究室を移転した理由か? 隠し通せるとでも? とんでもない、この件についてはお話しました。ペッツの新製品が出来るまで保留だって話はついていたろう。一体これにいくら注ぎ込んだんだ? 他社が売り出したファージーズは知ってるだろう? すいません、何のことですか? デイヴィッドはカートの手にしたタブレットでコマーシャル映像を見せる。ファージーズはペッツの類似商品だった。気にする必要なんてあります? 剽窃ですよ。そうだ、パクリだよ。我が社のやったことをそのままにな。しかもうちの商品の半値なんだよ! デイヴィッドはタブレットを投げ捨てる。より簡素にしてくれと頼んだよな、半年前に。50ドルで売り出せる廉価版をお願いしますと。取り組んでいます、保証します。ですが、ライヴァルを出し抜くには先進的で盗用できない玩具を開発するしかありません。ペッツの技術が必要以上に複雑に見えることは承知していますが、それはより壮大な計画を実現するためのパイロット版だからです。ペッツには子供の会話パターンを取り込むための聴覚機構を組み込みました。聞いてないぞ。「彼女」がペッツからはかけ離れた外観なのは分かりますが、ミーガンの能力を少し披露させてもらえれば、私たちの取り組みについてご理解頂けるかと。ミーガン? "Model 3 Generative Android"、略してM3GAN(ミーガン)です。ジェマはテスにミーガンでデモを行う指示を出す。ミーガン、デイヴィッドに挨拶して。ジェマがミーガンに話しかける。上司に対するように? お父さんと呼ぶべきじゃないかしら。私のワームホールについて少し話をさせてね。帽子を被って生まれて沢山キャベツを食べたのののの…。ミーガンに不具合が生じる。起こるはずの無いことが起きてしまって、少々お待ちください。恐らく単なる競合状態です。修正に1分ほどかかります。ジェマ、競合状態じゃない。樹脂の癒着を防ぐ装置を入れ忘れたんだ。ミーガンの樹脂のマスクが熱で膨らみ始める。テス、電源を落として。無理! ミーガンの頭部が爆発し、炎を上げる。テスが消火器を使って即座に鎮火する。ペッツの試作品を金曜までに提出して欲しい。怒りを押し殺しながらデイヴィッドがジェマに告げる。それからこの人形を倉庫の奥深くに仕舞ってくれるかな。このドアの鍵もよこしてくれ! 捨て台詞を吐いてデイヴィッドが立ち去る。慰めにならないかもしれないけど、「彼女」は本当に魅力的だよ。沈痛な面持ちのジェマに一言告げてカートが足早に研究室を出て行く。
研究室でジェマが一人ミーガンの損壊した頭部を仕舞っていると、スマートフォンが鳴る。オレゴン救急医療センターからだった。

 

シアトルのファンキ社。アプリを使って遊べるペットのロボット「パーペチュアル・ペッツ」がヒットした。開発の中心人物であるジェマ(Allison Williams)は、CEOのデイヴィッド(Ronny Chieng)から「ペッツ」の廉価版の開発を急ぐよう求められていた。他社が類似商品を半値で市場に投入し、ペッツの販売に影が差していた。だが、ジェマは価格競争では他社を出し抜くことはできないと、少女の姿をしたアンドロイド「ミーガン(M3GAN)」の開発をテス(Jen Van Epps)やコール(Brian Jordan Alvarez)とともに秘密裡に進める。ジェマはもともとペッツをミーガンのプロトタイプと位置付け、子供との自然な会話を可能にするデータ収集に利用していた。その最中、ジェマは姪である9歳のキャディ(Violet McGraw)を引き取ることになる。キャディは家族でスキー旅行に向かう最中、自動車事故で母ニコル(Chelsie Florence)と父ライアン(Arlo Green)を同時に失ったのだ。一人暮らしでロボットの開発に没頭してきたジェマはこれまで通りに仕事に打ち込みたい。そもそも幼いキャディにどう接していいか分からない。学生時代に制作したロボット「ブルース」にキャディが関心を示したのをきっかけに、ジェマはミーガンにキャディの世話をさせるべく、その開発に打ち込む。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

冒頭では、キャディの一家がスキー旅行へ向かう車中が描かれる。キャディがペッツに夢中になるのは、母ニコルと父ライアンが諍いを起こすためである。戯言をほざき続けるペッツは、両親の口論に対しマスキング効果を発揮する。そして、雪の中を進み、立ち往生し、惨事を引き越す車は、そのまま一家の姿を象徴する。
ジェマは学生時代からロボット研究に没頭してきた。ジェマに対する親族ニコルの評価は低い(誕生日に会社の製品である電子ペットをプレゼントした点が難じられるが、それだけが理由ではなさそうだ)。また、隣家のシリア(Lori Dungey)との関係も、シリアの愛犬ドゥーウィを原因として、ギクシャクしている。さらに、会社では、ミーガンの開発を秘密裡に進めるためではあるが、研究室を地下に移転させることで孤立する。孤独なジェマを支えるのはロボット研究や玩具のコレクション(セラピストのリディア(Amy Usherwood)が棚に並ぶコレクションをジェマに遊ばせないことに非難の視線を向けられ、自棄になって箱を破くシーンは印象的)、そして自宅を管理するAIのエルシー(Ellen Dubin)である。AIのみと近しい関係を築いている点でジェマとキャディとは似た者同士と言える。
ジェマは保護者と友人とを兼ねたミーガンをキャディに与える。キャディとのやりとりで(も)学習するミーガンは、キャディに似るだろう。キャディ――ロボット「博士」と言えるジェマはキャディと似た者同士であり、第2のユーザーでもある――がジギル博士なら、ミーガンはハイド氏である。とりわけ、キャディが眠る夜、ミーガンが動き出す描写が二重人格(あるいは解離性同一性障害)的である。
ジェマの家の塀には穴が開いていて、シリアの愛犬ドゥーウィが入り込み(あるいはシリアが汚水を垂れ流し)、ジェマを悩ませている。壁に空いた穴はセキュリティの脆弱性を象徴する。セキュリティシステムをアンドロイドに委ねるが、急拵えで完成させたアンドロイドにはいわゆるフレーム問題を抱えている。例えば、侵入する者が存在するなら、「デリート」(=殺害)してしまうことが解決になるのである。
ミーガンを演じるのはAmie Donald(声はJenna Davis)。突然ロボットないし少女らしからぬ動き(少なくとも一部はホラーの古典的な描写を踏まえている)をする様子が恐怖を搔き立てる。