映画『ミッシング』を鑑賞しての備忘録
2024年製作の日本映画。
119分。
監督・脚本は、𠮷田恵輔。
企画は、河村光庸。
撮影は、志田貴之。
照明は、疋田淳。
録音は、田中博信。
装飾は、吉村昌悟。
衣装は、篠塚奈美。
ヘアメイクは、有路涼子。
音響効果は、松浦大樹。
編集は、下田悠。
音楽は、世武裕子。
森下美羽(有田麗未)が走って母親の森下沙織里(石原さとみ)に抱きつく。公園でブランクに乗る美羽。部屋で沙織里に髪を三つ編みにしてもらう美羽。幼稚園で絵を描く美羽。砂浜で赤いガラスの瓶の破片を拾う美羽。畳の上で眠る。息を吐き出し唇を震わせてブルルと音を立てる美羽。手持ち花火をする美羽。噴出花火の火花を沙織里と眺める美羽。
静岡県沼津市。沼津駅前のロータリー。沙織里が夫の豊(青木崇高)とともに、3ヵ月前に行方不明になった娘・美羽の情報を求めるビラを通行人に配っている。ご協力お願いします。些細なことでも構いません。静岡中央テレビのクルーが取材に来ていた。不破伸一郎(細川岳)がカメラを回し、その傍らで様子を見守っていた記者の砂田裕樹(中村倫也)が新人の三谷杏(小野花梨)に通行人の邪魔にならないよう注意する。撤収するテレビ局員に沙織里は朝早くからありがとうございますと謝意を伝えるとともに、全国ネットで取り上げられなくなる中、静岡中央テレビは頼みの綱だと訴える。全国放送はうちのようなローカル局と違って扱うことが多いですからと砂田が受ける。
不破がハンドルを握るワンボックスカー。2週間もしたら単独で動いてもらうとラップトップに向かい作業をしながら砂田が三谷に伝える。キー局全滅でここに来たんでしょと不破が三谷に尋ねる。妥協して来た訳じゃありませんと優等生的な受け答えをする三谷に、そういうのいらないからと不破。うちは人がいないから忙しいけど頑張ってと砂田が三谷を励ます。
森下夫妻の暮らす地域の集会所。行方不明の美羽に関する情報提供を呼びかけるヴォランティアが集まっている。ビラの配布や掲出などを手伝ってくれるのだ。沙織里に方角だけも見てもらおうと占い師を紹介しようとする人もいる。自治会長は集まりが悪くてごめんねと沙織里に謝る。
静岡中央テレビ。デスクの目黒(小松和重)が、砂田の取材テープは以前に放送したのと代わり映えしないと否定的評価を下す。沙織里さんの弟、怪しい噂あるよね。それはSNSに出回っている情報です。弟さんが渦中の人物なのは間違いない。取材断られてますから。そこを何とかさ。目黒は砂田との話を早々に切り上げると、砂田の後輩記者駒井(山本直寛)のニュース素材を検討する。駒井が追うのは特殊詐欺に中浜市長の息子で、目黒は特集を組もうと熱が入る。
海岸の道を走るミキサー車。現場に到着すると、土居圭吾(森優作)が生コンを排出する。その頃沙織里は、砂田から弟の圭吾に取材したいと依頼され、圭吾に何度も連絡を入れていた。弟の応答がないため沙織里は苛ついていた。
夜。圭吾の黒い軽自動車がアパルトマンの駐車場に戻った。外階段に坐って待っていた沙織里が部屋に向かう圭吾に何度も連絡したと詰る。圭吾はテレビ局の取材を受けるのを断るが、沙織里はあんたの意向なんか関係ない、砂田さんが必要としてるかどうかだよと迫る。分かってんの、あんたが最後に美羽といたんだよっ!
砂田が不破と三谷とともに圭吾の部屋を訪ねる。静岡中央テレビの砂田と申します。お忙しいところご協力頂きましてありがとうございます。不破が勝手に乱雑なベッドを撮り、圭吾からそっちは散らかってるんでと注意される。砂田は居間でカメラの三脚の位置を決め、圭吾に付けたマイクの位置が低いので三谷に直させる。砂田がカメラの隣に坐り、向かいの圭吾に対するインタヴューを開始する。よろしくお願いします。現在の心情をお聞かせ頂いてもいいですか? はい。圭吾が黙るので不破と三谷が顔を見合わせる。…あの、心情を話して頂けますか? 心配です。そうですよね。美羽さんとは失踪直前まで一緒にいらっしゃいましたが、そのときの様子をお聞かせ下さい。様子、…まあ、普通でした。普通とは? 普通な感じでした。警察の事情聴取では白い車を見たと証言されて後に撤回されていますが。思い違いです。脚榻を積んでいたと具体的な供述をされていますよね。やっぱり見てなかったです。
インタヴューを取り終え、不破が駐車場から圭吾の部屋を撮る。三谷が不破と圭吾が怪しすぎると話し合うのを聞いて、砂田が思い込みが偏向報道に繋がると窘める。そこへ交通事故が起きたとの一報が入り、3人は現場に急行するため慌てて車に乗り込む。
砂田が不破の編集した映像を確認している。ミキサー車から海の画って意味付いちゃうでしょ。生コン会社に勤務する圭吾の犯行だと暗示する可能性があることを懸念した砂田が不破をやんわりと注意する。
静岡中央テレビの夕方のワイド番組。沼津市の森下美羽さんの失踪から3ヵ月。両親の辛く悲しい日々は続いています。スタジオの女性キャスターから、砂田たちの取材した、駅前でビラを配布する沙織里と豊の姿に映像が切り替わる。毎日行方を捜していますが手掛かりは見つかっていません。自宅とかぶとむし公園の位置関係を示す地図が表示される。午後5時30分。美羽さんは公園で遊んだ後、1人で帰るところを目撃されたのを最後に行方が分からなくなりました。公園から自宅までは300メートル。子供が歩いても5分ほどの距離です。豊さんが午後7時に帰宅して異変に気づきます。警察に通報したのは午後10時。沙織里さんが帰宅後でした。圭吾のインタヴュー映像が続いた。いつもは自宅に送られていたんですよね。あの日の晩はずっと自宅にいらっしゃった?
放送後、自宅のPCに沙織里が向かう。美羽の情報を求めるための掲示板には心ない書き込みが溢れていた。ライヴ狂いの母親、自業自得だって、絶対許さないからな、コイツ。
静岡県沼津市、沼津駅前。森下沙織里(石原さとみ)が夫の豊(青木崇高)とともにビラを配り、3ヵ月前に行方不明になった6歳の娘・美羽(有田麗未)の情報提供を呼びかけている。静岡中央テレビの砂田裕樹(中村倫也)が、カメラマンの不破伸一郎(細川岳)、新人の三谷杏(小野花梨)とともにその姿を取材に来ていた。全国ネットで取り上げられなくなる中、地元テレビ局の砂田は沙織里の頼みの綱だった。デスクの目黒(小松和重)は前回と代わり映えがないからと、沙織里の弟・土居圭吾(森優作)のインタヴューを撮るよう砂田に命じる。圭吾は美羽と公園にいたがその日に限って美羽を家に送らなかった上、ずっと自宅にいたと不自然な主張をしていたため、ネットで犯人説が流れていた。砂田に頼まれた沙織里は圭吾にインタヴューを無理矢理承知させる。圭吾は砂田の質問に不承不承答える。静岡中央テレビの夕方のワイド番組で放送されると、BLANKのライヴで家を空けていた沙織里に対するバッシングが再燃した。それでも1件、美羽の目撃情報が寄せられた沙織里は豊を説得して愛知県蒲郡に向かう。放送後の圭吾は勤務先の生コン会社の社長から煙たがれるようになるのみならず、顔が割れたために街で変態だと絡まれたり、車のライトを割られたり散々な目に遭った。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
沙織里は美羽の行方不明になった晩、BLANKのライヴ会場にいた。豊が何度も連絡したものの繋がらず、結果、警察への通報が沙織里の帰宅後の午後10時にずれ込んだ。沙織里は自責の念に苛まれている。失踪から3ヵ月が経ち、メディアは関心を失い、寄せられる情報もほとんどなくなっていた。そんな中、地元・静岡中央テレビの砂田は沙織里の頼みの綱だった。砂田から弟・圭吾にインタヴューしたいと申し出を受けた沙織里は、弟に無理矢理インタヴューを受けさせる。
圭吾は美羽と公園で一緒にいたが、その日に限って自宅に送ることはなかった。しかもその後ずっと自宅にいたと言い張った。なおかつ、警察の事情聴取では、当初脚榻を載せた白い車があったと言って、後に撤回していた。圭吾のインタヴューが流れた後、圭吾は勤務先の社長から煙たがられ、街では変態だと揶揄われ、車のライトが割られるなど散々な目に遭う。
沙織里は心ないSNSの書き込みに激昂し、豊や圭吾に対して八つ当たりし、ときに暴力まで振うに到る。沙織里は我を失ってしまう。人格が崩壊していく沙織里の姿は、社会の姿でもある。
砂田は美羽の発見に資するべく事件を継続的に取り上げたい。しかもそれがセンセーショナルな報道になることを避けたい。だが砂田は、取材者対象にのめり込んで事実の切り取りになっていないかと目黒デスクらから指摘されたり、沼津警察署の刑事・村岡(柳憂怜)から面白おかしく報道するから愉快犯が現われると非難される。あるとき不破から事件を追う目的を問われた砂田は、美羽の発見と答えなかったことから不破に意外だと言われる。いつしか砂田は自らを見失っていた。
沙織里を演じた石原さとみは、不安・重圧・怒りなどに過度に襲われた人の「普通」を表現した。過剰な演技とは異なるリアリティが、作品の凄みを生んでいる。
美羽が浜辺で拾った、波に洗われた赤いガラス壜の破片は、美羽とともに、人間の持つ美しさの象徴でもある。行方不明になっている(missing)のは、美羽だけではない。人間性でもある。