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芸術鑑賞の備忘録

映画『HOW TO BLOW UP』

映画『HOW TO BLOW UP』を鑑賞しての備忘録
2022年製作のアメリカ映画。
104分。
監督は、ダニエル・ゴールドハーバー(Daniel Goldhaber)。
原作は、アンドレアス・マルム(Andreas Malm)のノンフィクション『パイプライン爆破法 燃える地球でいかに闘うか(How to Blow Up a Pipeline)』。
脚本は、アリエラ・ベアラー(Ariela Barer)とダニエル・ゴールドハーバー(Daniel Goldhaber)。
撮影は、テイラ・デ・カストロ(Tehillah De Castro)。
美術は、アドリ・シリワット(Adri Siriwatt)。
衣装は、ユーニス・ジェラ・リー(Eunice Jera Lee)。
編集は、ダニエル・ガーバー(Daniel Garber)。
音楽は、ギャビン・ブリビク(Gavin Brivik)。
原題は、"How to Blow Up a Pipeline"。

 

フードを被ったソチゥ(Ariela Barer)が通りを歩いている。ナイフを取り出すと車に近付き、周囲を気にしつつ後輪、前輪とパンクさせる。「私物を損壊した理由」と題したビラをフロントガラスに置く。
スーパーマーケットでレジ打ちをしていたマイコゥ(Forrest Goodluck)がバックヤードに移動し、バッグを取り出し中身を確認する。スマートフォンに56時間後のタイマーを設定すると、棚の上に投げ込む。
清掃作業員のアリーシャ(Jayme Lawson)が邸宅の大きな窓ガラスを拭いている。イヤホンからはパキスタンの洪水で数万人が犠牲になったとのニュースが流れた。アリーシャは体調不良を装ってモニカに電話すると、今日は都合が付かないと報告する。邸内の監視カメラの映像データを削除すると、退出した。
ショーン(Marcus Scribner)がキャリーケースを引いて、ソチゥのボロボロのヴァンに乗り込む。
テオ(Sasha Lane)がトイレで便器に向かい吐いている。
教会で行われている血液癌患者の交流会。司会者がテオに話すよう促す。特に話すことはないわ。診断を受けた後とても怒りっぽくなったけど、怒りに支配されるんじゃなくて、怒りに耳を傾けるように教えてもらった。
会合を終えて教会を出たテオが錠剤をスキットルの酒で流し込む。スマートフォンを確認すると、スキットルを踏み潰す。
ローワン(Kristine Froseth)とローガン(Lukas Gage)がコカインを鼻から吸引する。ローワンがスマートフォンで時間を見て遅刻すると慌てる。ラリった2人が車に乗り込む。
ドウェイン(Jake Weary)が妻のケイティ(Olive Jane Lorraine)と食前の祈りを捧げる。
ピックアップトラックの荷台にドウェインが荷物を積む。クリスマスまでに生きて帰ってきて。手錠もなしで。ケイティがドウェインにキスする。ドウェインが妻を抱き締める。
西テキサス。曠野に立つ荒ら家。ソチゥがボルトクリッパーで南京錠を切断しようとしている。ショーンが手伝わなくていいのかと声を掛ける。大丈夫。そこへ助手席にテオを乗せたアリーシャの車が到着する。
車を降りたテオはソチゥとの再会を喜ぶ。ショーンとアリーシャは初対面の挨拶を交わす。テキサスって暑いところじゃなかったっけ? 寒いわよ。私たちも着いたばかりなの。ちょっと鍵開けに手子摺って。テオがドアを蹴り開ける。
マイコゥがバスで移動する。窓外には石油精製施設が並んでいる。西テキサスの地図を開いて位置を確認する。
ドウェインがピックアップトラックで曠野を走り抜けていると、バッグを手にしたマイコゥが歩いているのを見かけた。ドウェインが車を停める。ノースダコタから歩いてきたのか? そんなわけないだろ。
マイコゥを乗せたドウェインのピックアップトラックが荒ら家に到着する。荷物を降ろして運ぶと、ちょうどショーンが室内のガラクタを外に運び出したところだった。挨拶を交わす。ショーンがマイコゥの荷物を運んでやろうとするが断られる。
ショーンがドウェインを室内に案内する。暖炉と居住スペースだ。マイコゥは? 小屋に直接。ドウェインが室内にいた連中と挨拶を交わす。
マイコゥは小屋にカーテンや照明機器を取り付け、爆薬の製造のための器具を並べ、即席の爆薬製造工場を準備していた。
テオが農薬を取り出し、ミキサーで攪拌する。アリーシャは鉛を叩いて潰す。ショーンは廃車のハンドルからエアバッグの部品を取り外した。マイコゥは酸を作ると言って瓶に入れた液体を熱する。
ローワンとローガンの車が到着する。ヤバいな、ここ。シャブの工場か? 遅れてごめん。ローワンが馬が見たいって。あんたも見たがったでしょ。よろしくな。
ソチゥのヴァンでドウェイン、ローワン、ローガンが爆薬を設置する場所へ赴く。

 

ソチゥ(Ariela Barer)は、大学でショーン(Marcus Scribner)らと環境保護活動に携わっていた。カリフォルニア州ロングビーチに住む母親が熱波で亡くなり、ダイベストメントを訴えるデモ程度では埒が明かないと焦燥に駆られたソチゥは、ショーンとともに西テキサスの石油パイプラインの破壊を計画する。ノースダコタ州パーシャル
マイコゥ(Forrest Goodluck)はインディアン居留地で石油会社に立ち向かおうと、石油会社の社員に喧嘩を売って過ごしていた。母ジョアンナ(Irene Bedard)から捨て鉢な行動を諫められるが、石油会社に一矢報いてやろうとの気持ちは燻ぶるばかり。地元のスーパーマーケットで働くようになったマイコゥは、仕事の傍ら爆発物の実験をして動画を公開していた。動画を見たソチゥがマイコゥに接触した。テキサス州オデッサ近郊。石油会社に土地を収容され、父祖から引き継いだ家を追われたのみならず、土地を汚染されてしまったドウェイン(Jake Weary)とケイティ(Olive Jane Lorraine)の夫妻をショーンが取材に訪れ、パイプラインの爆破計画に引き入れた。ソチゥの幼馴染みで、石油精製施設による汚染のために慢性骨髄性白血病となり余命わずかのテオ(Sasha Lane)がパイプライン爆破計画に加わると、テオの恋人アリーシャ(Jayme Lawson)も渋々行動をともにする。刺激を求めてドラッグや衝動的な破壊行為に手を染めていたローワン(Kristine Froseth)とローガン(Lukas Gage)のカップルもソチゥらの計画を面白がってメンバーになった。土地勘のあるドウェインの綿密な調査を元に、地中を走るパイプの最上部と、炭鉱があるために地上に露出する部分の2箇所に爆弾を設置することにした。計画実行のため、メンバーが西テキサスの曠野に立つ荒ら家に集まった。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

熱波で母を失ったソチゥはダイベストメントを訴えるデモ程度では社会は変わらないと、パイプライン爆破計画を大学時代の友人ショーンと計画する。西テキサスを走るパイプラインで実行することになり、石油会社に土地を収用された土地勘のあるドウェイン、インディアン居留地で爆弾の製造実験をSNSにアップしていた爆弾製造担当マイコゥに加え、石油会社の汚染物質に曝されて白血病になったテオ、テオの恋人アリーシャ、さらに鬱屈したカップルのローワンとローガンが計画に加わった。
冒頭、ソチゥが自動車の前輪と後輪のタイヤをパンクさせるシーンで始まる。2箇所の破断で走るのを止めるのは、パイプライン爆破計画のメタファーとなっている。また、爆弾設置のために土を掘り返すシーンがソチゥの母親の埋葬に、マイコゥが小屋でで爆破した白い煙がマイコゥの故郷の雪景色に、というように、爆破計画を実行する現在と、登場人物それぞれの過去のエピソードが接続され、バラバラだったピースが次第に像を成していく趣向となっている。
環境問題に対する即座の取り組みを促すためにパイプラインの爆破に至った若者の姿を描く。爆破計画は社会に対するインパクトを与えつつ、爆破による人的被害や石油流出による環境被害が生じないように配慮されたものである。もっとも、パイプライン破壊がテロリズムであることは言を俟たない。計画に参画したメンバーの動機をその置かれた環境とともにスケッチすることで、言わば彼らに対する情状酌量の余地を示している。「テロとの戦い」は報復という対症療法に過ぎず、報復の報復としてのテロリズムがいずれ繰り返されるだろう。小さな声が政治や社会制度を動かし、あるいは少なくとも動かし得る可能性を示すことで、原因療法を模索しなくてはならない。テレビドラマ『新宿野戦病院』に登場するヨウコ・ニシ・フリーマン医師の「平等に人の生命を救う」医療方針は、社会問題の解決においても重要な指針である。