展覧会『ネイネイ「0.000001倍のいきおい」』を鑑賞しての備忘録
MEDEL GALLERY SHUにて、2024年7月19日~31日。
剪紙を思わせる力強い描線を用い大首絵のような構図でアニメーションから飛び出して来たような当世風の少女「東京少女」を描いた作品で構成される、ネイネイの個展。
《僕は君だ》(1620mm×1303mm)の銀箔を貼った画面には、膝に犬を載せてしゃがむ少女の頭頂部から膝頭までが描かれる。切り出した(あるいは彫り出した)ような角のある太く黒い線で輪郭などが表わされているために、剪紙や浮世絵(木版画)を連想させる。犬の顔に添えられた少女の手には写楽の大首絵などを彷彿とさせよう。力強い輪郭線には、少女には緑や青など、犬には黄と青などをスプレーしてマスキング処理したようなカラフルな線が添い、鮮やかながらも落ち着いた印象を醸す。少女の目と唇にはアイシャドウや口紅のようにオレンジ色を加え、また、少女と犬の目には二連星の瞳が点じ、銀箔と呼応したキラキラとした世界を構成する。とりわけ少女の目は太い上のアイラインと細い下のアイラインに、わずかに睫毛の線が添えられ、アニメーション・キャラクターのような無国籍な顔を形成するのに貢献する。浮世絵では着物(の柄)により描かれた人物の役割や個性などが賦与されるが、本作の少女の衣装は犬とその影によって表現されていないに等しい。着衣表現が無いのである。それでも描線とそれに添えられた緑系の線がシックな衣装の存在を認識させる。服のデザインの回避が抽象度を高め、アニメーション・キャラクター的な顔と相俟ってボーダーレスな大首絵となる。否、犬こそ浮世絵の衣装同様、少女のアイデンティティを示すのだろう。すなわち「君(犬)」=「僕(少女)」なのである。
《僕は君だ》以外の作品でも、無国籍な少女が描かれるが、顔と手、あるいは顔だけが描かれる。とりわけツインテールの少女はハーレイ・クインのような印象を受ける。
右側に傾けた顔の傍に"C"字状にした手を構えた《ほんの少し》(455mm×455mm)、右手の人差指を咥えてウインクする《容赦なく》(455mm×455mm)、舌を出して両手でハート型を作る《いらっしゃる》(455mm×455mm)、右頬近くに拡げた右手を添えた《ご遠慮なく》(455mm×455mm)の4点は2段2列に並べられている。傾いだ顔、流れる髪、瞑る目などによって動きが感じられる。
《笑おう》(727mm×1000mm)にはツインテールの少女が口を両手で横に開き舌を出す。ツインテール、両手の横方向の動きが、作家に特徴的な翼のような目と呼応して、飛翔する印象を生む。
《おにぎる》(530mm×530mm)の舌を出す少女の緑の髪の毛が風に舞う姿は柳(の枝葉)を思わせるためか、幽霊のような印象を受ける。