展覧会『真鍋由伽子個展『Observe every water droplet』
ヨロコビtoにて、2024年7月10日~28日。
つるんとしたゼリーが美術館の展示室に設置されている様を思い浮かべ、あるいは、この瞬間、宇宙にいることへの気付きを促す、銅版画、リトグラフ、ドローイングで構成される、真鍋由伽子の個展。
《踊る山》はエンボス(凹凸のみ)で表わした峰を連ねる山の下に、エッチングで向かい合って互いに相手の背に手を回して踊る女性の首から腰を表現した作品。2つの峰が並ぶ姿に踊る姿を見ている。男体山・女体山、あるいは夫婦岩のような想像力が働いている。
《ゼリーの彫刻》は電話機を載せる台のような背の高い木製の台の上に大きなゼリーが鎮座している展示室を描く。近くの壁には斜めの光線が差し、小さな題箋が付されている。ゼリーを黄緑でその他を緑の濃淡で表わした銅板画。
《踊る山》ではマクロからミクロへ、《ゼリーの彫刻》では逆にミクロからマクロ、それぞれ「見立て」を行っている。想像力を駆使して、異なる世界を繋げている。
《犬に日陰をつくる》は鉢植えの傍にいる犬に翳された腕を描いた絵画作品。反転したL字状に画面上端と右端とが暗く表わされ、暗い右下に木の植えられた緑の鉢があり、そこに暑さを避けようと犬が頭を寄せる。犬の姿は右下から左上の対角線上に描かれている。犬の頭から背にかけて左腕が伸ばされ、犬のいる日向で色が明るく変じる。腕以外に人の姿は描かれず、「犬に日陰をつくる」主題に絞られる。
《森のささやきⅡ》は森の中の水辺に左手を浸す様子を描いたリトグラフ。木々の緑を映し出す水を緑と黄緑とが入り交じる模糊とした方形で画面下部に表わし、そこに上から左手が挿し込まれる。水中に入った指先は金色の線に変わる。
《Come closer》は緑色の服を着た男性が黄の縞の服の女性に向けてカメラを向けている場面を描いた絵画。左側に立つ男性正面左方向に体を向け、ファインダーを覗くために顔の前に両手でカメラを構えているために顔が見えない。正面やや左向きに男性に正対する女性は背を向けているため髪の脇から横顔が僅かに見える程度で表情は全く窺えない。これ以上近付いたら、最短撮影距離を超えてしまうだろう。男女が巫山戯合っている場面だろうか。あるいは、カメラ越しにしか見ない(非接触の)男性との関係を詰めて、親密な関係を築こうとしてることのメタファーなのであろうか。
《犬に日陰をつくる》や《森のささやきⅡ》では境界を跨ぐ(越える)ことの容易さとその素晴らしさを示唆する一方、《Come closer》においては境界を跨ぐことの難しさを心理的な問題として提示してるとも解される。いずれにせよ、境界、思考の枠組みに囚われず手を伸ばすこと、あるいは一歩踏み出すことの重要性が訴えられている。
《UNLUCKY》は仰向けに倒れた人物の胸に流れ星がぶつかり、地面に血が流れる様を描く絵画。5つの突起の星(☆)から伸びる尾が紫、赤、オレンジ、青、ピンクなど表わされる以外は全て黒で描かれている。箒星は大気圏を突破して地上に落ちて来る。宇宙と生活圏とは繋がっている。世界を理解するために作られている種々の境界を超えてみよ、全ては繋がっている。そのようなメッセージを作家は発するのではなかろうか。星が刺さって流れ地面に拡がる血もまた黒であるが、それは私たちの周囲に拡がる宇宙を示すのである。