展覧会『新世代への視点2024 山部杏奈展』を鑑賞しての備忘録
Gallery Qにて、2024年7月22日~8月3日。
窓に掛かるカーテン越しの光の様々な彩りを窓台に置かれた植物とともに描き出す日本画(岩絵具、水干絵具、胡粉)で構成される、山部杏奈の個展。
《ある部屋の光》(1620mm×162mm)の画面のほとんどを占めるのは窓である。左右の端に僅かに壁が、下端には窓台が覗く。窓に掛けられるのはレースカーテンか、白っぽい薄手の生地のカーテンで、明け方か暮れ方か、ブルーアワーの空のような青が襞により明暗の縞となっている。白味の強い青(両脇に一部青緑)の縦縞で構成される抽象絵画のようだ。中央やや下の位置に設えられた棚には花卉がぼんやりと姿を現わす。窓台に設置され、窓とカーテンとの間に位置するが、その位置は揺らいで判然としない。《漂う光と部屋》(1435mm×1505mm)、《青い狭間の窓》(910mm×727mm)、《密かな光の窓》(910mm×727mm)でもカーテンを引いた窓辺に置かれた植物がシルエットで描かれるが、やはり植物の位置はカーテンの前後で曖昧にされている。
《夜の近くの窓》(910mm×727mm)では右側と下側に"」"状に壁を配してそれ以外の部分に窓を表わしている。薄手のカーテンが窓の左側に半分ほど引かれ、白っぽい青の縞となっている。窓の露出してる部分(ガラス)も同様の色彩で、カーテンと窓(ガラス)との区別は曖昧である。もっともカーテンのかかっていない部分の窓枠(及び窓台のには夕陽のようなオレンジが"」"状に配されている。右下の花瓶に活けられた植物がオレンジの線によって切り取られる。
《蜜柑と部屋》(1435mm×1505mm)の上半分は薄手のカーテンがかかる窓で、淡い黄と青との縞を構成しているが、下半分は窓台と壁、窓台に置かれた一枝の植物とが他作品と比べはっきりと描かれている。
陽光は繰り返し射し込みながらも時間や季節ごとに一様ではない。光を反射する物の存在によっても変化する。光の多様な現れが主題であることは疑いない。カーテン(窓)という卑近な物に顕現する崇高さへの静謐な讃歌とも言えよう。また、いずれの作品にも空調を用いる気密性の高い現代建築の窓辺の景観が描かれている。無機質な感覚を受けないのは、カーテンの襞の柔らかさ、添えられた植物、何より白味の強い柔らかな光の表現による。さらに、カーテン(一部窓ガラス)という仕切りが視界を遮断しつつも光を透過させる二面性を有していることに着眼し、内外の曖昧さを強調してもいる。絵画は窓に擬えられつつ、飽くまでも完結した小宇宙を構成する西洋流の絵画に対し、内外を曖昧にするのが日本画(の窓)だと言わんばかりである。窓辺に配された花卉は、部屋の内外を反転させる装置であろう。すなわち光は内にも外にも融通無碍に遍照する、そのことを訴える窓=絵画なのだ。