映画『クレオの夏休み』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のフランス映画。
83分。
監督は、マリー・アマシュケリ(Marie Amachoukeli)。
脚本は、マリー・アマシュケリ(Marie Amachoukeli)とポーリーヌ・ゲナ(Pauline Guéna)。
撮影は、イネス・タバラン(Inès Tabarin)。
美術は、ゾーエ・キャレ(Zoé Carré)。
衣装は、アガテ・メヌマール(Agathe Meinnemare)。
編集は、スザナ・ペドロ(Suzana Pedro)。
音楽は、ファニー・マルタン(Fanny Martin)。
アニメーションは、アリー・アマシュケリ(Marie Amachoukeli)、マリー・リエ(Marie Lyet)、ピエール=エマニュエル・リエ(Pierre-Emmanuel Lyet)。
原題は、"Àma Gloria"。
〔西アフリカ、カーボベルデ共和国に属するサンティアゴ島。グロリア(Ilça Moreno)が海の浅瀬に立ち、煙を上げる火山を見詰める。〕
パリにある眼科を6歳のクレオ(Louise Mauroy-Panzani)がグロリアとともに訪れた。クレオが検眼装置に顎を載せ額を付ける。これは眼の中を見る機械だよ。私の耳を見てくれるかな? 眼科医(Marc Lafont)がクレオに指示する。見えたかな? あんまり。頭は痛くなる? ううん。そうか。じゃあ、小さな車を目で追ってくれるかな? 眼科医が小さな絵の描かれた棒を取り出し、クレオの目に近づけ、眼球の動きを検査する。いいね。じゃあ新しい眼鏡が必要かどうか確認するからね。片方の目を隠すよ。眼科医は検眼用の眼鏡の片側を遮蔽し、もう一方にレンズを嵌める。読めるかな? K、F、T…。もう少し度の強いのを試してみよう。眼科医がレンズを取り替える。見えるようになった? Z、ゾロの。グロリアが小声でクレオに伝える。検査になりませんから教えないで下さいね。
クレオがグロリアに手を引かれて帰る。ちっちゃなくちばしがあるの。ひるまはねてて、よるはねないの。ふとってて、はねがあって、くっく、くっくってなく。
帰宅したクレオが庭を眺めている。クレオが庭に出る。クレオ、戻りなさい。3つ数えるからね。1,2,3。部屋には戻ったものの、風呂に入れようとするグロリアからクレオが逃げ回る。何とかグロリアが捕まえて風呂に連れて行く。
クレオが眠っている。グロリアが散らかった服やお絵描きの道具を片付ける。
朝。クレオの父アルノー(Arnaud Rebotini)が窓を開けて煙草を吸う。クレオは朝食を取っている。グロリアは食器を洗っている。グロリア、遅くなるよ。話しておくべきだった。悪いな。アルノーはクレオに声をかけて出て行く。
小学校。先生(Bastien Ehouzan)が16人の生徒に卵を使った料理をさせながら、算数や綴りを教えていく。16人の生徒を2つのグループに分けたら何人ずつかな? 卵の綴りは? œ、u、f。oとeをくっつける。皆が卵をバケツに割り入れる。かき混ぜて。丁寧に。慌てないで。何を入れるかな? 塩! 蜂蜜を加えよう。
授業を終えたクレオをグロリアが迎えに来る。眼鏡が小麦粉だらけね。グロリアがクレオの眼鏡や顔を拭いてやる。
クレオが公園で子供たちと遊んでいる。グロリアはベンチで他の子の母親と話し込んでいる。雲梯で遊んでいたクレオが落ちてしまう。グロリアが気付いてクレオのもとにやって来る。大丈夫? グロリアがクレオの擦り剥いた手に息を吹きかける。クレオも一緒になって息を吹きかける。グロリアに電話が入った。誰から? 構わないで。サンティアゴ島で暮らす娘のフェルナンダ(Abnara Gomes Varela)からだった。電話を終えたグロリアは沈痛な面持ち。どうしたの? 悲しいお知らせがあったの。今日、お母さんが亡くなったの。クレオも険しい表情を浮かべ、グロリアの胸に顔を埋める。
〔暗い海をグロリアが舟を漕いで進む。海は荒れ、稲光がして、激しい雨が叩き付ける。〕
グロリアがクレオを風呂に入れる。湯船に浸かるクレオの頭をシャワーで洗う。鯨は何て言うの? バレイア。バレイア。故郷にはたくさんいるわ。亀は何て言うの? タルタるーガ。タルタルーガ。違う。巻き舌で「る」。クレオが巻き舌ができないのでグロリアが思わず笑う。
お絵描きするクレオ。クレオ、故郷の島に帰らなければならなくなったの。お母さんをお墓に入れるためにね。私も家族にもとても大事なことなの。子供たちの面倒を見ないと。分かる? クレオが頷く。いつかえってくる? もう帰っては来ないの。またあえる? もちろん会えるわ。いつ? すぐに。やくそくする? 約束するわ。じゃあつばをはいて。どうして? 良くないことよ。やくそくするならつばをはく。つばをはくかしぬか! グロリアが唾を吐く。2人が笑う。
パリ。6歳のクレオ(Louise Mauroy-Panzani)は幼児のときに癌で母親を亡くし乳母のグロリア(Ilça Moreno)が母親代わり。クレオはグロリアといつも一緒だった。ところがグロリアの母サロメが癌で亡くなり、グロリアは西アフリカのカーボベルデ共和国、サンティアゴ島に帰ることになった。娘フェルナンダ(Abnara Gomes Varela)や息子セザール(Fredy Gomes Tavares)の世話をするため、もう戻らないという。グロリアはアルノー(Arnaud Rebotini)に夏休みにクレオを遊びに来させて欲しいと頼んで出て行く。悄気るクレオに折れ、アルノーはクレオをグロリアに会いに行かせることにする。グロリアはクレオが大きくなったと言って再会を喜び、海で獲れたての魚を食べたり、泳ぎを教えて貰ったりする。だがセザールは母親を奪ったクレオに対し冷淡で、フェルナンダがサンティアゴを産むとグロリアは孫の面倒に追われる。クレオはグロリアを取り戻したいとの思いを募らせる。
(以下では、作品の結末についても触れる。)
幼児の頃に母親を癌で亡くしたクレオは乳母のグロリアが母親が代わりで、ずっと一緒だった。ところがクレオが小学校に上がった間もなく、グロリアは娘フェルナンダや息子セザールの面倒を任せていた母親サロメを失い、カーボベルデ共和国のサンティアゴ島に帰ることになった。グロリアのいない生活に悄気ていたクレオは夏休みにサンティアゴ島を訪ねてグロリアに再会し、歓喜する。ところが間もなくフェルナンダがサンティアゴを出産すると、グロリアは孫の面倒で忙しくなる。クレオはサンティアゴに強い嫉妬を抱く。
冒頭、グロリアが視力検査で答えをクレオに教えるところなど、グロリアがクレオに甘く接していることが窺える。
クレオが小学校に上がることに加えて、眼鏡が合わなくなること、雲梯から落ちることなどによって、クレオの成長とグロリアとの別れが示唆される。グロリアがクレオに泳ぎを教えるのは、グロリアなしに生きていく術をクレオに身に付けさせようとしていることを象徴する。クレオは文字通りグロリアの元から旅立つだろう。
クレオの乳幼児の時代やグロリアの心情を表わす絵本のようなアニメーションが作品によく調和していた。顔の表情なしに、サンティアゴ島の海や火山などの景観を描写することで見事に心情を映し出す。重要なモティーフとなるグロリアの金のペンダントの意味がアニメーションによってより強く印象付けられることにもなった。
クレオがサンティアゴに対して激しい嫉妬に駆られるが、グロリアはそれを理解する。グロリアは離れ離れで幸せにならなければならないとクレオに諭す。それは未だ幼いクレオにとって不可能なことではない。グロリアにとっても辛いことであっても。
セザールはグロリアを独占していたクレオが許せない。だがサロメの墓参りでクレオが実の母親を亡くしていることを知って、クレオに仕方なくも理解を示す。そのセザールの振る舞いも胸に迫るものがある。
鑑賞者を問わずお薦めできる佳作。原題とは離れた邦題『クレオの夏休み』と日本公開の時期(2024年7月)も作品に見事に嵌まった。