可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ヨシタケシンスケ個展『ヨシタケシンスケ展かもしれない』

展覧会『ヨシタケシンスケ展かもしれない』を鑑賞しての備忘録
そごう美術館にて、2024年7月23日~9月2日。

ヨシタケシンスケの絵本が生まれる過程をアイデアスケッチなどで紹介する企画。絵本原画、アイデアスケッチ(原本と拡大印刷したもの)、常に持ち歩いてスケッチするメモ、人形や書籍などのコレクションに加え、体験型の展示物も並ぶ。

「ほんとうの会場はこっちかもしれない」と段ボールでできた宮殿が入口付近に設置してあるなど、あちこちに仕掛けが用意されている。
もともと現代美術の作家であり、「カブリモノシリーズ」でそごう横浜店で展示を行ったこともあった(1997年)。現代美術作家時代には、建物の隅っこに隠れるために背中に装着する翼を手掛けていた。飛翔するための翼を隠れ蓑に用いる発想はネガティヴな転換であるが、それを反転する能力を開花させて、今があるようだ。
否、必ずしも反転させていないのかもしれない。大学のデッサンの授業では、「オマエよくこんな絵で大学入れたな」と言われ実物を見ながら絵を描くのを止めたという。見ないで描けば似ていなくても問題無いことに気付いたのだ。また、絵本作家としてデビューすることになった『りんごかもしれない』(ブロンズ新社/2013)では、着彩はデザイナーに委ねることになったという。苦手なものは避け、できる人に委ねることも必要なのだ。できないことでできることがあるし(『みえるとか みえないとか』アリス館(2018))、『ものは良いよう』(白泉社/2019)なのだ。
絵本『りんごかもしれない』の制作に当たっては、編集者から1個の林檎で遊ぶ方法について22通りのテーマを設定され、考えさせられたという。作家は「分類する」、「使い方を考える」、「『実は○○かも』と想像する」と3つのテーマに絞ってアイデアを提示し、『りんごかもしれない』が誕生することになった。
絵本のアイデアを書いたOA用紙の原本がジップロック(ファスナー付きのプラスチック・バッグ)に入れられて展示されている(別途、拡大したものも展示)。保存や食品を連想させ、なおかつ見た目もOA用紙よりも華やかになる。一手間で作家のスタイルを鑑賞に堪える形に変換しているのが見事である。
そのような一手間を可能にするのが、日々の積み重ねなのだろう。作家は日々気付いた些細なことをコツコツとスケッチに残してきた。そのうち2,500枚が彎曲した壁に整然と並べられて壮観である。メモも積もればアートワークになる。
イデアのスケッチは、作家が気になった事柄ではあるが、極めて些細なことに過ぎない。それでも引っ掛かることはメモしておくのだ。それがいつの日か大きなアイデアや作品に繋がっていく。すぐには答えの出ない問題に対して解決策を模索する、いわゆるネガティブ・ケイパビリティ(Negative capability)を発揮する作家であることが、人気の源泉であることが明らかにされている。

作家の奮闘により、無事展覧会場を後にすることを格好良い作家に感謝しなければならない。
「おどるカウンセラー」になるかもしれない。