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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 谷穹・宮林妃奈子二人展『機知の佇まい』


展覧会『谷穹・宮林妃奈子展「機知の佇まい」』を鑑賞しての備忘録
日本橋髙島屋 本館6階 美術画廊Xにて、2024年7月31日~8月19日。

陶芸作家・谷穹と画家・宮林妃奈子の二人展。谷の信楽の茶碗や壺と、宮林の絵画に加え、谷の陶板などに宮林が描画した共作も併せて展示される。

会場の奥には、谷穹の信楽のでっぷりとした白い壺が床に直に置かれている。口から首なしに肩へ、胴が張って腰は窄まっている。匣(さや)を用いて白い肌が保たれているが、一部火に当たって赤茶けた部分がある。恰も白パンのようである。近付くと、表面の罅が目に入り、とりわけ上から見下ろしたときには、大きな餅のように見える。神社に奉納される巨大な鏡餅といった観を呈する。鏡餅なら蛇身の形象である。だが、別に蹲(うずくまる)があるように、器はやはり人に擬えられるものである。
でっぷりとした白い壺の手前には、赤茶けた薄い円盤のような焼き物がやはり床に直に置かれている。中央ではなく極端に端に寄った口がある。壺である。「鏡餅」に対し、平べったい煎餅の印象を受ける。2つの壺を、平餅と焼いて膨れた餅とに見立てることも可能であろう。「煎餅」は、火の当たらなかった白い縁の部分が床から僅かに浮いて、"flying saucer"にも変じうる。

2点の壺の傍の壁面には、谷穹の焼いた陶板に宮林妃奈子が絵を描いた共同作品が3点並べて掛けてある。3点のうち1点は《うつわの鏡》と題され、谷穹の壺に対する鏡餅への連想も強ち的外れでは無いと思わせる。

共作のうちの1点が、食み出して貼り付けた赤味のある紗が印象的な《花の坂上》である。これに連なるのが、近くの壁面に飾られた、宮林妃奈子の《寒椿の夕立》である。ベージュの画面上部には松葉を連想させる緑の曲線が3つ4つ散らされ、画面右端には寒椿を思わせる赤い花が覗く。画面左側には茶、白、赤、青などを刷いた比較的短い線が重ねられ、動きを伝える。ほとんど抽象画といった趣である。夕立は寒椿の花期にそぐわない。寒椿の花瓣が舞い落ちるのを驟雨に擬えているのではあるまいか。画面左側に入れられた筆触の激しさはその表現とすれば腑に落ちる。
宮林妃奈子の《めくれない向こう》は木のパネルに黄土や緑の紙片を貼り、さらに木目が透ける薄い紙を皺を入れつつ貼り重ね、その上から描画した作品である。木や紙のそれぞれが持つ表情と、それが重ねられるときの見え方が探究されている。装束の襲(かさね)に通じるものがある。また、描画の支持体の装飾として捉えるなら、料紙装飾的とも言えよう。

谷穹の素朴な焼き物と宮林妃奈子の装飾的な絵画とは一見すると懸け離れているようでもある。もっとも、浮遊感を生む信楽の膨らみや反りと、景観を画面に掬い取る手付きとは、「軽み」において共通する。