展覧会『長田奈緒「Surface/」by Maki Fine Arts』を鑑賞しての備忘録
CADAN有楽町〔Space S〕にて、2024年8月6日~25日。
ストローや菓子などの包装、あるいは乾燥剤をシルクスクリーンなど版画技法でプラスティックやガラス板に刷りだした作品で構成される、長田奈緒の個展。
《Straw wrapper(double straw)》(195mm×270mm×22mm)は、飲料に附属するストローのパッケージをガラス板にシルクスクリーンとガラスエッチングによってガラス板に直接刷りだした作品。プラスティック(PET以外)のリサイクルマークの隣に「ダブルストロー」と名称の入ったストローの絵、さらに絵の下の「ストッパー付です。ここまで伸ばしてお使いください。」との注意書きを、ビニールの歪みにより文字が歪んでいるところまで含め、恐らくは本物に忠実な青色で再現している。文字の欠けなどはあるものの、3段に繰り返し描かれている。パッケージを展開すれば3つも印刷されているのだろうか。おかき(米菓)の個包装を表わした《Food Packages(KINOKUNIYA rice crackers)》(270mm×195mm×22mm)、飴玉の個包装を表わした《Food Packages(KINOKUNIYA salt candy)》(270mm×195mm×22mm)も同じ技法による。花卉や果物、食器などを描く静物画の系譜に連なると言えるだろうし、シルクスクリーンによる量産品をモティーフとしている点ではアンディ・ウォーホル(Andy Warhol)のキャンベル・スープの缶などを彷彿とさせる。ストローやおかきや飴玉が取り出されて空いた包装である点で、より直截に空虚を訴えたヴァニタス(vanitas)と言えよう。
「Multiple states(SILICAGEL)」シリーズは、乾燥剤「シリカゲル」をポリスチレンに死ルクスクリーンで表わした作品。陰影表現などにより恰も中にシリカゲルが入ったような膨らみや凹みを感じさせるが、あくまでもプラスティック板に印刷された平板な作品である。"SILICAGEL"、"DESICCANT"、"THROWAWAY"、"DONOTEAT"、"PCP&DMFFREE"と黒のゴシック体で記載されたパッケージの文字は、屏風の虎を彷彿とさせ、恰も公案のような禅画の趣と言ったら言い過ぎだろうか。正方形のフレームに額装された4点は、中央、右上、左下などそれぞれ位置が異なり、4点並べられることで動きが強調される。食品など湿気が生じないように封入される乾燥剤を主題とした作品は、表通りに面したギャラリーの複数の展示空間のうち、裏手にある狭小空間に展示されて入れ籠の関係性が際立つ。
知っていると思っているもののほとんどは、実はディスプレイの平面越しに見ているものだ。作家は、私たちの知覚の現実を突き付けるのである。