展覧会『うるしのかたち展2024』を鑑賞しての備忘録
東京藝術大学大学美術館 陳列館2階にて、2024年8月18日~29日。
東京藝術大学漆芸研究室の研究成果展。
大西長利《乾漆朱塗筥「ほほえみ」》は楕円体の中央に小さな楕円体が被さった形の朱塗りの容器。上側の小さな楕円体が蓋の役割を果すのだろう。丸みのある形が穏やかで愛らしい佇まいを見せる。蓋が作る下に凸の曲線が笑う口の形を連想させ、「ほほえみ」との題に納得させられる
小椋範彦《乾漆蒔絵合子「雨後」》は黒漆の半球状の丸みのある器の表面に蒔絵で葉を表わし、水滴を表わす夜光貝を貼り付けた作品。黒漆と蒔絵に映える、白っぽく見える夜光貝の水滴は、凹みや歪みのある球状で、大きさも様々。雨が上がったばかりで、風に戦ぐ葉から転がり落ちる水滴の運動を示唆する。
青木宏憧《漆黒鏡かぶとむし》は、甲虫の頭部を左右両端に配した台座の上に黒漆の円盤を設置したもの。甲虫の夜行性のイメージが、円盤の文字通り漆黒の闇を強調する。また、線対称の甲虫の頭部は鏡像であり、鏡を連想させる。艶やかな黒い鏡は、目を瞑って外界を遮断し、自らの内部に沈潜することを示唆する。
新井寛生《乾漆螺鈿蒔絵箱「流水」》は黒漆の手箱。蓋は暗い水のようで、透明の皮膜の奥に底知れない深さの漆黒が広がる。水深は外側に向かって浅くなるようで、端には流れを表わす縞が見える。箱の側面には溝のような線が連ねられ、蓋面から流れ落ちる水が表わされる。室内に湧水をもたらす。
小林このみ《螺鈿蒔絵風景「さんさん陽光」》は、海に浮ぶ島の上を瑞鳥が舞う漆絵。4つの峰を持つ抽象化された島は蓬莱であり、図案化された5羽の瑞鳥は陽光のメタファーであろう。燦々という言葉に比しては暗く落ち着いた画面であるのは、この後に陽光が燦々と降り注ぐことの吉兆としての作品だからではないか。
藤墳真由子《犬のもの》は、愛らしい犬張子を模した黒漆の作品。マットな表面は漆芸というより素焼きを連想させる。その素朴さは安産祈願のような人々の変わらぬ思いを伝えるのに似つかわしい。
野田怜眞《潜佇》は、ゲンゴロウを表わした作品。木目を水紋に見立てた台座に、接した前肢一点で倒立するようにゲンゴロウが取り付けられている。急傾斜の姿勢はゲンゴロウが水を切って進む様子を伝える。前肢とは反対に後肢は拡がり、ゲンゴロウに働く水の浮力を表現するのに一役買う。
小川名樹《scene-01》は、凹凸で波の立つ海面を表わした板状の作品。木の枠で囲むことで、海面をそのまま切り出してきたような錯視に陥らせる。
王欣然《夏の思い出》は、緑色の四つ足の獣とその背中を這う青虫の置物。獣の下部には月や植物、あるいは家やラップトップなど、自然と人工の様々なモティーフが描き入れられている。全ては陽光で成り立っていることをクロロフィルのような緑の器が伝える。