展覧会『保良雄個展」くだ」』を鑑賞しての備忘録
OMOTESANDO CROSSING PARKにて、2024年8月30日~9月3日。
ソルビン酸カリウム、水、絹糸、大理石、2000年前の地層から採取した土、藍で染めた栗の木、海岸で拾った石、都内で拾った鳥の羽、電球などで構成される、インスタレーション《destilled #additives》を中心とした、保良雄の個展。展覧会のタイトルは、人間の生活を支える有象無象を管と捉えることに基づく。
《destilled #additives》は、床に6枚×8枚で並べられた正方形のガラス板に載せられた複数のオブジェで構成される。ガラス面は鏡のように反射する水面であり、海のメタファーに見える。白い大理石の不定形の平皿には天井から絹糸が垂らされ、そこを小さな水玉が伝って平皿に落ち、少しずつ水が溜まっていく。水溜まりは端的に池や湖と捉えることが可能だが、むしろ水を摂取する生命の象徴かもしれない。石に穿たれた穴にモーターが埋め込まれ、モーターに取り付けられた鳥の羽が、太陽光パネルからの電気で回転するオブジェは、岩石の象徴する地球において、太陽放射による気圧差から生じる風のメカニズムを模している。細長い楕円形に撒かれた土の上で天井から吊された電球が明滅し、天井から垂らされた絹糸を伝う水滴が落ちて土を湿らせる。土が生きているのは、太陽光エネルギーと雨水とによってである。地表のごく限られた場所に存在する豊かな土壌を象徴する。その土はガラス面の上を流れ出して行ってしまいそうに儚げだ。大小2つの藍染めの木製の球体は、入れ籠の関係を示唆する。水の惑星である地球と、鏡としての月であろうか。ガラス壁面の海が空を映すなら、そこには月が映り込むだろう。月が地球の鏡なら、月に映る地球を海は映し出すことになる。合わせ鏡のように無限にイメージは連なっていく。
《土を水で練って焼いたもの》は羽を拡げた鳥のような形の土器のレリーフで、壁面の高い位置に飾られている。土に返ることは天に昇ることに通じるなら、そこにも天地の反転がある。もう1点、ヤジロベーのような作品もある。生態系の象徴であろうか。
《cycle》は赤い"ego"と緑の"eco"のネオンサインが交互に点灯する作品。「私(ego)」の意識が脳に由来するなら、脳が腸から派生した臓器であることから、「私(ego)」は腸=管であるとも言える。腸=管の内側は外界に接続している。実際"ego"を構成する文字には外部に接続する穴が開いているではないか。他方、"eco"とは家(oikos)であり、生命にとっての家とは地球である。家も地球も決して閉じられた系ではない。その象徴が、地球が太陽エネルギーを受けていることを示す《spin, supun》(《destilled #additives》を構成する、回転する鳥の羽を取り付けた石)である。その意味でecoもまた管的である。