可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 片山真妃個展『αMと遠近法』

展覧会『開発の再開発 vol.6 片山真妃「αMと遠近法」』を鑑賞しての備忘録
gallery αMにて、2024年6月29日~9月7日。

「アートの終焉」と美術において新しいことをするのは不可能と諦観するのではなく、新しさについての線形的な思考を脱し、「新しさ」を生み出す開発という概念自体を、批判的に再開発することを目論んだ、石川卓磨のキュレーションによる展覧会シリーズ「開発の再開発」。その第6回展として開催される、片山真妃の絵画展。

「αMと遠近法」と題された展覧会は、ギャラリーの空間自体をどう見せるかに意が用いられている。展覧会では入口から正面に見える壁面には一番見せたい(あるいは一番目を引く)作品が飾られることが多いが、本展では作品が飾られていない。白い壁がそのままである。絵画の不在は、絵画とともに空間自体が作品を構成していることを示唆する。余白を中心に配しているとも言えよう。
絵画作品は和田三造(1883–1967)が編纂した『配色總鑑』(1933-34)に掲載された配色パターンで構成され、かついずれも2点組である。例えば《M60P50油色海松藍萌葱色卵色》であれば、油色(暗い黄土色)、海松藍(暗い緑色)、萌葱色(緑色)、卵色(やや暗い黄色)の4色を用いたM60号とP50号の2つの画面で構成されている。それぞれの画面は左右に等分され、主たるモティーフである紡錘形(垂直)と地とが反転するように配色されている。さらに一方の画面に円状に塗った絵具を、組となる画面と重ね併せることで転写している。紡錘や円のモティーフまた組や転写は、細胞分裂や染色体など発生や遺伝といった生命を連想せずにいられない(ギャラリーという小空間(cell)自体が細胞(cell)に通じるとも言えばこじつけに過ぎようが)。作品に使われている色は、右側壁面奥の一番小さな組作品《M4P3千斎茶梅鼠檜皮色水色》から《M10P8蒸栗色空色梅鼠千斎茶》、《M25P20卵色萌木色空色蒸栗色》、《M60P50油色海松藍萌葱色卵色》へとサイズを大きくしながら一部の色を共有して連なっている。白い壁面が象徴する無から生命(有)が発生し、増殖したことを示すものとも解される。
逆に見れば、右側壁面には入口に近い方から、《M60P50油色海松藍萌葱色卵色》、《M25P20卵色萌木色空色蒸栗色》、《M10P8蒸栗色空色梅鼠千斎茶》、《M4P3千斎茶梅鼠檜皮色水色》と次第にサイズが小さくなり、かつ作品同士の間隔が狭まっていく。作品が正面奥の白い壁面に向かって吸い込まれていくようだ。白い壁面は真空(vacuum)である。なおかつ、白い壁面の左側は実際に奥の資料室(?)という空間に開かれている。
左側壁面は《P30M30栗梅常磐浅紅黒色》と《P15M15若草色肌色オリーブ納戸色》の2点が受付脇と奥の小空間近くに距離を開けて並んでいる。紡錘形が水平(《P15M15若草色肌色オリーブ納戸色》の右側画面は斜め)に描かれることで、やはり展示空間の奥へと視線を促す。横向きの紡錘形に表わされた円形が眼球の横向きの運動に見えて来る。