映画『助産師たちの夜が明ける』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のフランス映画。
100分。
監督は、レア・フェネール(Léa Fehner)。
脚本は、カトリーヌ・パイエ(Catherine Paillé)とレア・フェネール(Léa Fehner)。
撮影は、ジャック・ジロ(Jacques Girault)。
美術は、トマ・グレーゾ(Thomas Grézaud)。
衣装は、マリーヌ・ガリアノ(Marine Galliano)。
編集は、ジュリアン・シゴ(Julien Chigot)。
音楽は、ジョゼ・フェネール(José Fehner)。
原題は、"Sages-femmes"。
サイレンを鳴らして救急車が到着する病院。ソフィア(Khadija Kouyaté)が駆け出す。ルイーズ、急いで! ルイーズ(Héloïse Janjaud)は交際相手と電話で揉めていた。…冗談でしょ? 一緒に住もうって言ったじゃない! …よくも私を傷つけること言えるわね、初日なのに。2人は駐車場脇にある職員通用口から入る。エレヴェーターを待てず階段を使う。産科病棟の入口でソフィアが新入りの助産師だと告げて解錠してもらう。
産科ではひっきりなしに赤子が取り上げられていた。助産師たちがようこそと赤ん坊に声をかける。
ソフィアとルイーズが制服に着替える。ルイーズの涙をソフィアが拭き、励ます。あの男のことは忘れて。笑って。
ソフィアとルイーズがマルシュカ(Marushka Jury)に伴われて産科病棟へ。部屋に空きがないとか、機器が故障しているとマルシュカに次々と報告が入る。マルシュカがマリリン(Marine Gesbert)にルイーズをベネディクトのもとへ連れて行くように頼む。マリリンは、擦れ違った医師が主任のグレゴリー(Richard Le Gall)で、若く優秀だと教える。ここのみんなは若い。ここじゃ30過ぎたらもたないの。マリリンはベネディクト(Myriem Akheddiou)にルイーズの研修を頼んで立ち去る。ベネディクトはマルシュカのもとに行き手一杯だと抗議するが、人手が必要だと却下される。無責任よ。ベネディクトは憤慨する。マルシュカはソフィアに産前教室を担当させることにして部屋に連れて行く。ベネディクトはルイーズに貯蔵庫、保育室、中絶室など産科の設備を案内して廻る。途中、気分の悪そうな妊婦に遭遇し、ベネディクトが呼吸の仕方を伝える。ベネディクトがルイーズにSTANの仕組みについて説明し、NICUとその隣にある未熟児などの専用の部屋を示す。ルイーズのスマートフォンが鳴る。電話はロッカールームに置いて来ること。
ようやく初日の仕事を終えたソフィアとルイーズが病院を後にする。最悪な1日だった。私も一番退屈だった。産前教室なんて私に向いてない。
ソフィア(Khadija Kouyaté)とルイーズ(Héloïse Janjaud)は新人助産師。同じ病院で働くために勤務地近くに同居した。初日にルイーズは恋人から同棲の約束を反故にされ、失意の中勤務に入る。産科は医師のグレゴリー(Richard Le Gall)とアントワーヌ(Simon Roth)、師長のマルシュカ(Marushka Jury)、ベテランのベネディクト(Myriem Akheddiou)、レダ(Tarik Kariouh)、マリリン(Marine Gesbert)、シャルロット(Lucie Mancipoz)、キャプシヌ(Fleur Fitoussi)らが引っ切り無しに妊婦を受け容れ、赤子を取り上げ、異常のある新生児に対処し、ときに中絶する、トイレに行く余裕もない「戦場」だった。ソフィアは分娩ではなく産前教室を担当させられ意気消沈。ソフィアは人手不足を聞きつけると名乗りを上げて分娩に従事する。ルイーズはベネディクトから感情を露わにして妊婦を不安にしてはならないと叱責される。研修医のヴァランタン(Quentin Vernede)はおっちょこちょいで、ソフィアやルイーズにさえ揶揄われる始末。産科内に鋭い警報音が鳴る。ソフィアは自分が担当した妊婦(Clara Cirera)の分娩で緊急事態が発生したことを知り、駆け付ける。激しい痛みを訴えていたが、STANで監視しているから問題無いと言い置いて別の妊婦の麻酔処置に廻ったのだった。新生児は無呼吸で、人工呼吸器の酸素濃度を上げ、マッサージを繰り返すが、出産から4分半を経過しても自発呼吸が見られなかった。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
産科には引っ切り無しに妊婦が運ばれ、分娩が行われ、ときに新生児の異常に対処する。トイレに行く余裕もなく働き詰めのスタッフは疲労困憊している。残業続きでろくに休みも取れず、仮に休めても激務に比して極めて低廉な賃金ではヴァカンスなど夢のまた夢。ベッドや産室はすぐに一杯になり、機器のメンテナンスが不十分で、妊婦に対応出来ない事態も頻発する。いつか大惨事になるとストライキを提案するスタッフもいるが、命を救わなければとの強い使命感・責任感の前に、綱渡りで妊婦や新生児に対応する日々が続く。
熱意を持って仕事をしていたソフィアは、自分が担当した妊婦が無呼吸状態の新生児を産んだことにショックを受け、新生児に対して過剰な処置を講じるようになり、強制的に休暇を取らされることになる。
新人のソフィアとベネディクトを通じて戦場のような過酷な産科の職場を描き出す。迫真の描写で緊張感のある展開で冒頭から引き込まれる。
レダの妹スアド(Souad Arsane)が颱風のような猛烈な母(Malika Zerrouki)を伴って襲来する。産科全てを呑み込んでしまうようなスアドとの掛け合いに圧倒される。
レダの母とは対照的に寡黙ではあるものの、複雑な事情を抱えたマリアム(Toulou Kiki)の個性も相当なもの。
初産で死産だったエレーヌ(Zelinda Fert)が不安いっぱいで迎える分娩。ソフィアがルイーズら同僚に励まされて担当することに。無事に出産できるようにと祈らずにいられない。
重い描写が続く中、ヴァランタンが道化として活躍。
誰よりも長く真摯に産科で献身してきたベネディクトのある決断は、スタッフに言葉を失わせる。その瞬間のために物語が紡がれてきたとも言える。
原題"Sages-femmes"は「助産師(たち)」を意味する。『助産師たちの夜が明ける』という邦題には、助産師たちの困難な状況が改善され、命が守られるようにとの願いが籠められている。