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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界』

展覧会『昭和モダーン モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界』を鑑賞しての備忘録
泉屋博古館東京にて、2024年8月31日~9月29日。

板谷波山の子で、日本劇場一階玄関ホールを飾ったモザイク壁画で知られる板谷梅樹(1907-1963)のモザイク作品を展観する企画。
花鳥を描き出した飾皿などモザイク作品とともに、日本劇場のモザイク壁画についての資料、制作道具、板谷波山旧居で発見された陶片やタイルなどを展示する第Ⅰ章「モザイクの世界で」(展示室1)、ネックレス、帯留、バックル、カフスボタンなど装身具や灰皿・煙草箱、ランプシェードなどを展示するさらにステンドグラスなどの第Ⅱ章「日常にいろどりを」(展示室2)の2章で板谷梅樹の世界を紹介する。また、住友春翠が購入した板谷波山の代表作《葆光彩磁珍果文花瓶》など、住友家と板谷家に纏わる作品を展観する企画「住友コレクションと板谷家」(展示室3)も併せて催されている。さらに「住友コレクションの茶道具」を紹介するコーナー(展示室4)も。

モザイクは石やガラスなどの欠片を寄り合わせて作られる装飾技法で、日本には19世紀末に本格的に伝わった。板谷梅樹は幼い頃、父・板谷波山の陶片に親しんでいたことがモザイク作家の道に繋がったという。梅樹の場合、ガラス板に図案を描いた薄紙を裏返して貼り、タイルを図案に合せて裏返しに並べ、ガラス板の裏から模様を確認し、完成したらセメントを流し込み、ガラス板を裏返してガラス板と薄紙を剥がすという工程だった。
板谷梅樹の出世作となった、「陸の龍宮」日本劇場一階玄関ホールを飾ったモザイク壁画の原画を担当した川島理一郎は、イタリアで実見したモザイクを現代に蘇らせようとした。参考図版では、「音楽」や「舞踏」と題された場面に登場する人物の衣装に見られるラピスラズリをイメージしたという瑠璃色が取り分け目を引く。
クジャクを表した《鳥》[07]やキリンと青磁の置物のような鳥とを表した《きりん》[13]などの動物が愛らしい。《魚》の双魚は吉祥文様で板谷波山《葆光彩磁双魚文皿》[S04]に通じる。
《壺》[08]に見られる唐草文様や《花》[09]の植物文様は、波山の《葆光彩磁葡萄唐草文花瓶》[S07]や《葆光彩磁唐草文細口花瓶》[S12]の影響がある。梅樹の唐草文様はモザイクであることが利いている。バラバラであるからこそ、繋ぐ必要が生じるからだ。唐草文様はモザイクという装飾技法のメタファーでもあるのではないか。

やはり板谷波山の子である板谷菊男の《彩磁小禽模様花瓶》[S11]は、鳥が渦巻の花を振り返るユーモラスな図柄である。菊男にとって、《葆光彩磁珍果文花瓶》のようなあまりに優れた作品を手掛ける父の存在は余りにも高い壁と感じられたことだろう。燦然と輝く花が父であり、鳥は斜に構える息子なのかもしれない。