展覧会『馬場まり子展』を鑑賞しての備忘録
コバヤシ画廊にて、2024年9月23日~10月5日。
それぞれオレンジ、黄緑、水色、山吹色、紫、ピンクの単色で塗り斑のある画面を作り、幽明境を異にするかの如き人物を同系色ないし白色の線で表した絵画6点で構成される、馬場まり子の個展。
《2024.7"人 22"》には斑のあるオレンジ色の画面に、左手で杖を突く男性、ベビーカーを押す母親、彼女の夫とも見える両手をポケットに突っ込んだ男性、ショルダーバッグを右肩にかけた女性、手提げのバッグを右手に持つ女性、車椅子に坐るマスク姿の男性が、それぞれ正面を向いて横一列に並ぶ姿が、濃いオレンジ色の線で表される。同系色で描かれるだけでなく、描線に色が塗り重ねられることで、夕陽の中に溶け込む姿に見える。
《2024.3"人 16"》には将棋の駒のような頭部をした男性がリュックを背負い歩く後ろ姿が黄緑の画面に緑の線で描かれる。《2024.3"人 18"》にはブタの人形を付けたナップザックを背負う制服姿の女性の後ろ姿が水色の画面に白い線で描かれる。両者とも此岸から彼岸へと渡るようだ。
《2024.6"人 19"》には正面向きに立つ老人の姿が山吹色の画面に濃い山吹色の線で描かれる。のっぺらぼうである。《2024.6"人 21"》には右腕を伸ばし、丸くなって横たわる女性の姿がピンクの画面にピンクの線で表される。やはりのっぺらぼうだ。実在というよりも気配を表わすようで、この世の者ではないようにも見える。
《2024.2"人 15"》には着物を着た踊る女性が薄紫色の画面に表されている。目を閉じた人物は夢遊病のようだ。幽明の境に立つような人物像である。
展示室の壁を囲う絵画は、それぞれ単色でまとめられている。とりわけオレンジや黄緑やピンクは蛍光色に近い明るい色で、光を、そして虹のイメージを引き寄せる。背景と同系色の描線を打ち消すように刷かれた色により、イメージは曖昧にされ、光の中に消失していくようである。全体として、黄泉を現出させるかのようなインスタレーションである。