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芸術鑑賞の備忘録

映画『花嫁はどこへ?』

映画『花嫁はどこへ?』を鑑賞しての備忘録
2024年製作のインド映画。
124分。
監督は、キラン・ラオ(किरण राव)。
原案は、ビプラブ・ゴースワーミー(बिप्लब गोस्वामी[)。
脚本は、スネハ・デサイ(स्नेहा देसाई)。
撮影は、ビーカス・ノゥラカー(विकाश नौलखा)。
美術は、ビクラム・シン(विक्रम सिंह)。
衣装は、ダルシャン・ジャラン(दर्शन जालान)。
編集は、ジャビーン・マーチャント(जबीन मर्चेंट)。
音楽は、ラーム・サンパト(राम संपत)。
原題は、"लापता लेडीज"。

 

2001年1月。ニルマル・プラデーシュ州の農村。新婦プール(नितांशी गोयल)の生家で祝言が執り行われている。プールは叔母(खुशबू चौक बीदर)から夫の安全と幸福のお守りを授けられた。なくさないでね、いい? 隣に坐る新郎のディーパク(स्पर्श श्रीवास्तव)がプールを見詰める。母親(सविता मालवीय)がプールに赤いヴェールを被せる。お婿さん、出発よ。
ティーパクを先頭に婚礼の参加者が列を成して家を出る。プールが蹴躓く。怪我はない? ヴェールを被ったら下を見るのよ。プールは母親から助言を受ける。プールはディーパクとともにオートバイに乗せてもらう。ごく近しい親族だけが黄色い三輪トラックで付いていく。農道を抜け、川の渡し場に到着した。プールは家族と別れの挨拶をする。プールがディーパクとともに渡し舟に乗った。
プールとディーパクがバスに乗ろうとする。車内は満席のため運転手が梯子で屋根の上に乗るように言う。ディーパクは混んでいる場所では不用心だからとプールに装飾品を外させて預かる。僕らの村にはこんな諺がある。盗難は怖いが、警察の取り調べはもっと怖いってね。
農地を抜ける道の途中でバスを降りた2人は畦道を歩いて線路脇に人々が群がっている粗末な駅に向かう。列車が停まり、駅員が梯子を乗降口に設置する。待っていた人たちが続々と列車に乗り込む。
列車は満席だった。吉日だからって祝言を挙げた夫婦がまた来たぞ。永遠の幸せが保証されてるのかね。プールとディーパクを見た男(सुजीत कुमार)が軽口を叩く。ディーパクは、軽口男と一緒に坐っていた男に席を譲ってもらい、プールを坐らせる。プラディープ(भास्कर झा )の方が上等だね。プラディープの母親(रंजना तिवारी)がディーパクのスーツを触って言った。持参金に何を貰ったんだい? 最近はオートバイが一般的だよ、と軽口男。乗り合わせた別の新郎(शांतनु पांडे)がガソリン満タンでオートバイを貰ったと口を挟んだ。プラディープの母親はオートバイと、1万5千ルピー、それに携帯電話も貰ったと自慢した。ケータイを持ってても繋がるとは限らないだろ。プラティープは赤いヴェールを被った新妻ジャヤ(प्रतिभा रांता )に携帯電話を手渡す。それであなたは何を持参金で手に入れたの? ディーパクは答えない。ちょっと変な人みたいね。
列車は進む。途中でディーパクも席に坐ることができた。隣の客の拡げた新聞には結婚詐欺の記事が載っていた。ディーパクはプールに次の駅に着く前にトイレに行ってくると席を離れる。駅に到着し、一組の夫婦が降りた。別の乗客がやって来て、席を詰める。駅を出てからディーパクが戻ってきた。席を詰めて貰って坐る。
日が暮れ、夜になる。ディーパクが目を覚ますと、列車はムルティ駅に到着していた。ディーパクは慌てて赤いヴェールの花嫁の手を取り、列車を降りる。急がないとバスに乗り遅れる。列車が駅を出て行った。ディーパクは花嫁とともにバスの乗り込む。
ディーパクが花嫁を伴って到着するのを待っていたビラス(समर्थ मेयर)が、グンジャン(दाउद हुसैन)とラグー(प्रांजल पटेरिया)に、来月結婚する予定だが初夜が心配だからディーパクに尋ねてみなくちゃと打ち明ける。なかなかバスが来ないので待機していた楽隊の連中が帰っていいかと言い出すのを、グンジャンが留める。バスが来た! 楽隊が演奏を始め、3人が音楽に合わせて踊って出迎える。ディーパクが派手な出迎えを喜ぶ。
楽隊を伴った一行がディーパクの家へ到着する。ディーパクの甥の幼いバブルー(अबीर जैन)が新しい叔母さんが来たと叫ぶ。ディーパクがバブルーを抱き上げる。父親(पंकज शर्मा )が遅かったじゃないかと言う。インドで時間通りに動くものなんてないだろ。ディーパクは母親ヤショダ(गीता अग्रवाल शर्मा)と、続いて祖母(बलराम जी)と挨拶を交わす。祖母がギーを灯してお祝いしようと言うとヤショダは難色を示す。ディーパクは寝たきりの祖父(कीर्ति जैन)
に声をかける。夜警をしていた祖父はお決まりの「ご用心!」と大声を上げた。義妹プナム(रचना गुप्ता)がお盆を運んでくる。ビンディを巡ってヤショダと祖母との間で一悶着あるが、ヤショダがディーパクにビンディを付けることに。ヤショダが続いて花嫁にビンディを付けようとヴェールをあげさせると、プールではなく、見知らぬ女性であった。呆然となる一同。バブルーが違う叔母さんが来たと囃し立てるのだった。

 

2001年1月。ニルマル・プラデーシュ州の農村。新婦プール(नितांशी गोयल)の生家で祝言が執り行われる。プールは叔母(खुशबू चौक बीदर)からお守りをもらい、母親(सविता मालवीय)から赤いヴェールを被せられ、新郎のディーパク(स्पर्श श्रीवास्तव)とともに生家を跡にする。オートバイで川の渡し場に行き、川向こうから出るバスに乗る。不用心だからとディーパクがプールから貴重品を預かった。バスを降り、列車に乗る。混雑する列車には、プラディープ(भास्कर झा )と新妻ジャヤ(प्रतिभा रांता )やプラディープの両親(रंजना तिवारी、अर्जुन सिंह)、別の新郎・新婦(शांतनु पांडे、प्रणाली उगले)も乗り合わせ、花嫁は皆赤いヴェールで顔を覆っていた。プールがパディラ駅で目を覚ますと、夫の姿が無い。慌てて列車を降りるが、ディーパクの姿は無かった。やむを得ず駅で夜を明かすことにする。翌朝、途方に暮れるプールをチョトゥ(सतेंद्र सोनी)が駅長(विवेक सावरीकर)の下に連れて行く。一方ディーパクはそれより前にプールと思い込んだ花嫁と一緒にムルティ駅で下車していた。彼女は何も言わずディーパクに付き従った。一緒にバスに乗り、バス停でビラス(समर्थ मेयर)、グンジャン(दाउद हुसैन)、ラグー(प्रांजल पटेरिया)と楽隊の歓迎を受けた。帰宅した2人は、母親ヤショダ(गीता अग्रवाल शर्मा)、父親(पंकज शर्मा )、祖母(बलराम जी)や祖父(कीर्ति जैन)、義妹プナム(रचना गुप्ता)らから歓待される。ヤショダがビンディを施そうとして初めて別人であることが明らかになった。甥の幼いバブルー(अबीर जैन)が違う叔母さんだと囃し立てる。ディーパクは警察署で署長のマノハル(रवि किशन)に捜索を願い出るのだが……。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

プールは実家で祝儀を挙げ、新郎のディーパクの家に向かう途中で、夫とはぐれてしまう。吉日であったために車内で3組の新婚夫婦が乗り合わせることになり、夜、赤いヴェールで顔を覆ったジャヤをプールと勘違いしたディーパクがムルティ駅で下車してしまったのだ。残されたプールはパディラ駅で列車を降り、トイレで一夜を明かし、翌朝、駅を根城にするチョトゥに駅長に紹介されるが、プールは自分の村や夫の名以外にほとんど何も知れない。チョトゥはプールをマンジュ(छाया कदम)の軽食スタンドに連れて行く。マンジュは2人に軽食を与える優しさを見せるが、プールは何も知らない愚か者に育てられたと指摘する。プールは否定するが、マンジュは愚か者であること自体が恥なのではなく、愚か者であることに誇りを持つことが恥ずべきことなのだと諭す。プールに"fraud"という言葉を知っているか尋ね、女性たちは男にずっと騙され愚か者にされてきたのだと言った。
マンジュは行き場の無いプールに仕事を手伝わせ、家に招く。マンジュは自らを食い物にするどころか暴力を振った夫や息子を追い払い、一人暮らしをしていた。プールはスタンドで調理補助を務めるだけでなく、得意の菓子カラカンドを作って売り出すことにする。ジャヤは高校をトップで卒業し、大学で農学を学ぶ強い意志を有していた。農地を切り売りする生活を立て直したかったのだ。ところが母親(अपर्णा उपाध्याय)から嫁がないなら私の葬儀を出すことになると脅され、プラディープと結婚することになった。プラディープは子供が出来なかった前妻を焼死で失っていた。ジャヤは「プシュパ」と名乗り、ディーパクに間違われたことを奇貨としてプラディープから逃れたのだった。
ディーパクはプールの捜索のために警察署に向かう。父親から腕時計のような金目の物を持っていかないよう忠告される。実際、署長のマノハルはいきなりディーパクに金を要求し、金が無いと署員のベラ(कनुप्रिया ऋषिमम्)に殴らせる。グンジャンが議員に知り合いがいると言って何とか話を聞いてもらえることになった。事情を把握したマノハルは次回はプシュパを連れて来いと言い付ける。ダベイ(दुर्गेश कुमार)からディーパクを略取で逮捕できるとの進言を退けたマノハルは、プシュパこそが金になるとほくそ笑む。

取り違えられた花嫁プールとジャヤ=プシュパが魅力的であるが、人情味溢れるスタンドの店主マンジュや老獪な警察署長マノハルが忘れ難いキャラクターである。

実はコメディタッチのインド版『82年生まれ、キム・ジヨン(82년생 김지영)』(2019)とも言える内容。鑑賞者を選ばない優れた作品。プールは、チョトゥから、脚を失った男アブドゥル(रवि कपाड़िया)を引き合いに、人は見かけによらないと言う。その言葉が利いた、爽快なエンディングが待っている。