展覧会『田中鈴花個展「オーバーラップ、オーバーライド」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY b.TOKYOにて、2024年9月30日~10月5日。
デフォルメされた身体をモティーフとした焼き物で構成される、田中鈴花の個展。
陶彫作品《REFLECTION》(260mm×200mm×400mm)は、左手を頬に当てた人物の胸像。釉薬により明かるい茶色や赤茶、クリームなどを呈するが、背面は素地のベージュがそのまま残されている。華奢な体つきだが見開かれた大きな目は古語の「ながむ」に当たる外界を眺めつつ、その実、内省していることを表す。おそらく手捏で、面取りによる力強い造型が印象的であるが、微塵も具象性を損なわない。立体である陶には不適当な譬喩かもしれないが、ある種のキュビスム絵画を連想させる。ウンベルト・ボッチョーニ(Umberto Boccioni)の絵画や彫刻、アレクサンダー・アーキペンコ(Alexander Archipenko)の彫刻を流れを汲むと評すべきかもしれない。
陶彫作品《GRLOOOOPV》(250mm×250mm×300mm)は、俯せに寝そべりながら足を折り曲げて上げ、背後を振り返る人物を表す。釉薬によりクリーム色を呈する、ヌードである。目や爪など藍で描き込みがある。何より目を引くのは、右脚に比して極めて大きく表された左脚である。左脚(左足)を高く掲げるために、左脚(左足)以外の全てが台座として奉仕するようだ。
陶彫作品《ABOUT: FACE》(250mm×300mm×300mm)は、背後に頭を逸らしつつ、立てた右膝を抱えて坐る人物像。右の膝頭を抱える腕が大きく引き伸ばされて肩と腕のラインが三角形を作る様は、アンリ・マティス(Henri Matisse)の《夢(Le rêve)》を連想させる。身体は顔(頭)を支える台座として存在する。
キービジュアルに採用された最大サイズの作品《ロコモーション》は、右の脇腹を接して横たわる人物の全身像。頭を擡げ、大きな右手で支える。寝そべりながら運動(locomotion)と題されるのは何故か。恐らく右手でスマートフォンないしマウスを操作することで、様々な欲求を実現できる社会を象徴するのである。その意味では、機械の登場を作品に反映させた未来派(Futurismo)に通じるものがある。IT社会のフトゥリズモは、右手のロコモーションをこそ賛美するのだ。ならば小品「BODY & SOUL」シリーズでデフォルメされた巨大な足から切り離された身体は、足を使わずして電脳空間で世界を跨ぐ人間像であろう。