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芸術鑑賞の備忘録

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』

映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を鑑賞しての備忘録
2024年製作のアメリカ映画。
109分。
監督・脚本は、アレックス・ガーランド(Alex Garland)。
撮影は、ロブ・ハーディ(Rob Hardy)。
美術は、キャティ・マクシー(Caty Maxey)。
衣装は、メーガン・カスパーリク(Meghan Kasperlik)。
編集は、ジェイク・ロバーツ(Jake Roberts)。
音楽は、ベン・サリスベリー(Ben Salisbury)とジェフ・バーロウ(Geoff Barrow)。
原題は、"Civil War"。

 

大統領(Nick Offerman)が原稿の一部を発声して国民向けの演説の配信に備えている。私たちは未だかつて無い勝利に近付いています。人類史上最大の勝利と呼ぶ者もいます…。
ニューヨークにあるホテルの1室。ジャーナリストのリー・スミス(Kirsten Dunst)がベッドに腰掛け、大統領のテレビ演説を見る。今日お伝えするのは、テキサスとカリフォルニアの西部勢力が大きな損害を蒙ったということです。テキサスとカリフォルニアの人々は不法な政府が倒され次第、米国に迎え入れられることになります。フロリダ同盟はカロライナ両州の人々を反乱に加えることに失敗したことも確認されました。アメリカ国民の皆さん、私たちは未だかつて無い歴史的勝利に近付いています。残る抵抗勢力を排除する際に、皆さんとアメリカに神のご加護がありますように。リーは画面の大統領に向けてカメラを構え、シャッターを切る。部屋の窓越しに、爆弾が炸裂するのが見えた。
ジョエル(Wagner Moura)の運転でブルックリンで起きた住民と警官隊の衝突を取材に向かう。人々は水を要求していた。多数のジャーナリストやカメラマンも既に駆け付けていた。リーはジョエルから受け取った蛍光色のベストを着用して、民衆と警官隊との小競り合いを撮影する。その最中、写真を撮っていた若い女性(Cailee Spaeny)が警棒で殴られるのを目にした。リーは彼女に近付いて支え、離れた場所へ連れ出す。彼女は助けてくれた人物がリー・スミスだと気付いた。リーは自分が身に付けていた蛍光色のベストを脱いで彼女に渡す。そのとき、国旗を持った女性が衝突の中心へと突進して行った。爆発が起き、人々が跳ね飛ばされ、倒れる。リーは瞬間的に車の影にベストを渡した助けた女性と隠れ、難を逃れた。リーはすぐさま惨劇の現場を撮影し始める。助けられた女性はリーの姿をカメラに収めた。
ホテルのロビー。大勢のジャーナリストたちがあちこちで話に花を咲かせている。リーはソファに坐り、写真を送信しようとしていたが回線が混んでいて苛ついていた。ジョエルはニューヨークタイムズのベテラン記者サミー(Stephen McKinley Henderson)と情勢について話している。7月4日に西部勢力はワシントン D.C.を襲撃する予定というが足止めを食らっているのか、補給線を失っているのか。あるいはフロリダ同盟との連繋はあるのかどうか。そのとき停電が起き、予備電源に切り替わる。写真の送信をほぼ終えたリーが会話に加わる。サミーから明日はどうするのかと尋ねられ、朝一でワシントン D.C.に向かうと答えた。リーが大統領を撮り、ジョエルがインタヴューするために。サミーは驚く。本気か? ジャーナリストは敵だと撃たれるぞ。14ヶ月1回もインタヴューに応じてないんだ。それをどうやって? 誰よりも早く駆け付けるのよ。大統領の処刑が迫ってるとでも? 7月4日、7月10日か。西部勢力か誰かは知らないが、ワシントンは陥落し大統領は殺される。だったらインタヴューしとくしか選択肢は無いさ。発表されなきゃ伝わらんだろう? 冗談だよな? どうやって行けばいいと思う? 直接は向かえない。州間高速道路が寸断されちまったからな。フィラデルフィア方面は無理だ。ピッツバーグ当たりまで西進せにゃならんだろう。ウェストヴァージニアに迂回するんだ。ルートを把握してるじゃない、サミー。俺も行こうと思ってたからな。分かってたさ。ワシントン D.C.じゃない。むざむざと殺されに行くなんてまっぴらさ。俺は前線のシャーロッツヴィルに行きたいんだ。俺がライヴァルだからって…。ライヴァルなんかじゃない。俺がニューヨークタイムズの残党なんて気にすると思うか? 俺が耄碌してるからだな。機敏じゃないから。実際、そうでしょ? その通りだ。俺に同行させて欲しい理由を言わせるのか? 最前線に向かうなら、ここにいる連中が24時間以内に向かうでしょ。俺に連中に懇願して廻れって言うのか? リー溜息を吐くと、自分の部屋で仕事を済ませると言って立ち上がる。サミーが同行したいなら構わないわ。2人で話し合って。恩に着るよ、リー。俺を悪者にするなよ、リー。

 

近未来のアメリカ合衆国。独裁的な大統領(Nick Offerman)が率いる連邦政府を打倒するため、テキサスとカリフォルニアが西部勢力を結成して首都に向けて進軍していた。戦地の取材で輝かしい功績を挙げてきた写真家リー・スミス(Kirsten Dunst)はロイター通信の記者ジョエル(Wagner Moura)とともに、14ヶ月もの間一度も取材に応じていない大統領に単独インタヴューを敢行すべく、ニューヨークから首都に向かおうとしていた。自殺行為だと懸念するニューヨークタイムズのベテラン記者サミー(Stephen McKinley Henderson)は、西部勢力の前線基地であるヴァージニア州シャーロッツヴィルに連れて行くよう求め同行する。さらにブルックリンで発生した住民と警官隊の衝突事件でリーと知り合った駆け出しの写真家ジェシー・コリン(Cailee Spaeny)がジョエルの車に乗っていた。リーに憧れるジェシーにジョエルが籠絡されたのだった。フィラデルフィア方面の道路が寸断されていたため、ピッツバーグまで西に迂回する1400キロの旅が始まった。道路には車が打ち棄てられ、所々に検問が設けられていた。給油できるときに給油すべきだとガソリンスタンドに立ち寄ると、自警団にふっかけられたリーは、カナダドルで首尾良く交渉をまとめた。ジェシーは何かが見えたと洗車場に向かう。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

アメリカ合衆国の分断を内戦(civil war)として象徴的に描き出す。同国の歴史で最もトラウマティックな出来事と言える南北戦争(The Civil War)をタイトルに冠していることも強い諷刺であることが示されている。
高速道路に打ち棄てられた自動車、ガソリンスタンドの戦場に吊される人々、百貨店の駐車場に墜落したヘリ、役所らしき建物での反政府勢力による政府軍掃討作戦とその後の処刑。日常が戦場に転換している。
打ち棄てられた移動遊園地では、兵士たちは相手が誰かを認識することもないまま相互に撃ち合っている。一見すると戦争などどこか別の世界のように思える町でも、屋根の上には狙撃兵が守備に当たっていた。そして、リーたちはあることをきっかけに、遺棄される大量の死体に遭遇する羽目になる。
アメリカ(的)とは何なのか。自らのアメリカのイメージに当てはまらない存在を排除する男。彼の存在こそ、アメリカの破綻の象徴であろう。
戦闘は局地的に行われており、戦地を回避すれば秩序は比較的保たれているようだが、連邦政府が倒れた後の視界は不良である。
リー・スミスからジェシー・コリンへのジャーナリズムの継承がもう1つの柱ではあるが、後景に退いてしまう。
Jesse Plemonsが強烈な役を演じている。彼が主要キャストを務める『憐れみの3章(Kinds of Kindness)』(2024)もお薦め。