可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『破墓 パミョ』

映画『破墓 パミョ』を鑑賞しての備忘録
2024年製作の韓国映画
134分。
監督・脚本は、チャン・ジェヒョン(장재현)。
撮影は、イ・モゲ(이모개)。
照明は、イ・ソンファン(이성환)。
美術は、ソ・ソンギョン(서성경)。
衣装は、チェ・ユンソン(최윤선)。
録音は、ク・ジョンリュル(구종률)。
音響は、キム・ビョンイン(김병인)。
編集は、チョン・ビョンジン(정병진)
音楽は、キム・テソン(김태성)。
原題は、"파묘"。

 

飛行機の機内。窓の外を眺めていたイ・ファリム(김고은)はキャビンアテンダントから間もなく到着ですとワインのお代わりを勧められる。いいえ、結構です。私は韓国人です。日本語で尋ねられたファリムが流暢な日本語で応じる。失礼しました、どうぞごゆっくり。隣の席のユン・ボンギル(이도현)が目を覚まし、スナックを囓る。
ロサンゼルス。大富豪パク家の家宰(박지일)が車を運転しながら、現当主ジヨンが代表を務める企業は韓国での不動産事業を主軸にアメリカで投資事業も行っているとファリムとボンギルに説明した。
セント・ジョセフ・メディカル・センター。病室の入口でジヨンの妻(정윤하)は怪しげな人間を連れて来る前に私に相談するべきだったと家宰に不満を訴えた。近くのベンチで待つファリムとボンギルにもその声は届いている。
病室に入ったファリムとボンギルは赤ん坊に対面する。ファリムが口笛を吹きながら赤ん坊の反応を確認する。今は薬で落ち着いているが、生まれた時から泣き止むことがなく、名医に診せても医学的に何の問題も無いと匙を投げられたことを家宰は2人に説明した。ファリムは私たちだけにして欲しいと家宰や母親らを病室から出す。ボンギルが呪具を赤ん坊の上に載せ、経文を唱える。ファリムが赤ん坊の様子を確認する。ジヨンの妻と家宰を招き入れたファリムは、父親や祖父が同じ症状を呈していないか尋ねた。2人は顔を見合わせる。夫と義父のことを言っているのかしら? そのようです。
【第1章 陰陽五行】
家宰の車でファリムとボンギルがジヨンの屋敷へ向かう。
疑いから驚きへ。いつも明るい場所に暮らし、明るい場所だけを見る人。世界は光に包まれていなければならず、目に見えるもの、触れられるものだけを信じる。尤も人々は光ある世界の裏に存在する闇を知っていて、様々な名で呼んできた。幽霊、悪魔、鬼、妖怪。それらの存在は常に明るい場所を求め、嫉妬している。だから時に光と闇との境界を乗り越えて来ることがある。そんなとき人々は私を訪ねる。陰と陽、科学と迷信、その境界に存在する、私は巫堂のファリム。
応接間。家内から連絡を受けたとパク・ジヨン(김재철)がファリムに自己紹介した。兄が精神病院で自殺した後、自身が発症し、今は生まれたばかりの息子が犠牲になっているとジヨンは言った。その症状とは、目を閉じると誰かの叫び声がして、首が締め付けられるというものだという。最初は遺伝病を疑い、家相の問題として引っ越しまでする。この家に来たときから影が見えた。祖父の影でしょう。「墓の反乱」です。墓の居心地が悪いと暴れているのです。確かですか? 100%。私は何をすれば…。人を雇う必要があります。私だけでは不可能です。専門家の手を借りないと。畜生、連中の顔が思い浮かぶ。
墓を掘り返した穴の中。棺の傍で地官のキム・サンドク(최민식)が赤土を僅かに手に取り口に含む。葬儀師のコ・ヨングン(유해진)が近くに控える。遺族たちは穴を取り巻いて様子を伺う。サンドクの合図でチャンミン(김태준)ら作業員が破墓と叫ぶ。ヨングンは遺族たちに直視しないよう下がらせる。サンドクとヨングンが棺の蓋を外す。棺の中には水が入り込んでおらず綺麗な状態が維持されていたが、金属類も含め副葬品が多かった。ヨングンは故人に迷惑だと嘆く。サンドクはキム会長(홍서준)にこれまで親族の墓を全て任されてきたが、家内安全・商売繁盛の望みは叶えられているか尋ねる。会長はあなたのお蔭だと応じた。やはりここは明堂だね、40年見てきた中でも最良の土地だよ。五行が調和している。だから心配には及ばない。再度埋葬するのが正解だ。先生の言うとおりなのでしょうが、気になるのは亡き母が子供たちの夢に現われ、最近では妻も同じことを言っていることです。サンドクはヨングンにまだ終わらないのか、腹が減ったと声をかける。ヨングンは棺から取り出した遺骨をシートの上に綺麗に並べていた。サンドクは遺骨に入れ歯が無いことを指摘し、誰が持っているか遺族に尋ねる。会長の息子サンヒョンがしゃくり上げ、祖母の形見として入れ歯をとっておいたことを認めた。サンドクは、お祖母さんはいつも傍にいるよと泣くサンヒョンを慰める。
血族は死んでも逃れられない。肉体と精神とを共有しているからだ。肉体は活動を終えると土に返る。その土を飲み、地を踏んで、生死を繰り返している。土地は全てを繋ぎ循環させている。迷信だの詐欺だのとほざく者は地獄へ落ちればいい。韓国の上位1%にとって風水は宗教であり科学だ。私は地官だ。生者と死者のために土地を探し土地を売る。風水師のキム・サンドクだ。

 

地官として40年の実績があるキム・サンドク(최민식)は大統領の葬儀を担当したこともある著名な葬儀師コ・ヨングン(유해진)と組み、富豪の墓地の選定や改葬などに当たっている。巫堂のイ・ファリム(김고은)から、韓国系アメリカ人パク・ジヨン(김재철)の幼子が原因不明の病気に悩んでいるのは「墓の反乱」であると、韓国にあるジヨンの祖父の改葬を依頼される。サンドクはジヨンから棺は開かずに火葬することと一切を秘密にするよう念を押された。江原道北部の山奥にある墓所は、韓国中の明堂を渉猟してきたサンドクが知らない悪地で、山頂に塚と緯度経度だけの墓標があった。サンドクは手を引くと宣言する。サンドクは、サンドクの娘ヨンヒ(은수)の妊娠・結婚を引き合いに、どうしても息子の命を救って欲しいとジヨンから懇願される。頑ななサンドクを、ファリムが改葬と同時に供物に影が移るよう儀式を行うと提案し、説得した。ファリムと弟子のユン・ボンギル(이도현)が儀式を行う中、サンドクとヨングンの指示でチャンミン(김태준)ら作業員が墓を掘り返す。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

サンドク、ヨングン、ファリム、ボンギルの4人の主要登場人物が、それぞれの職能を発揮するのに説得力があり、必ずしも清廉潔白でなく人間味があるのもいい。その他のキャラクターも暗く重々しい世界を構築し、不可解なオカルトの世界へと観客を引き込んでいく。
地官のサンドクが土を口にし、土地を踏みしめることに象徴的に描かれているように、人間は土を介して生死を繰り返しており、生活の基盤である土地の重要性が訴えられる。問題解決に土を掘り返すのは、隠された歴史を明らかにする試みである。20世紀前半の日本統治時代(일제강점기)さらには16世紀末の壬辰倭乱(임진왜란)へと時代を遡ることになる。
息子が原因不明の病に冒されたアメリカ人実業家パク・ジヨンは、風水を疑似科学として否定するのではなく、医学的知見の尽きた先で縋ってみる。スピリチュアルな解決策は、一種の偽薬効果にも比せられることは可能かもしれない。近時は無知学的からの「非科学的」な知識の再評価も進んでいるところであるが、映画を始めとした藝術作品にはパラダイムとは異なる視点を提供する点に醍醐味がある。