可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 近藤亜美個展『untitled』

展覧会『近藤亜美「untitled」』を鑑賞しての備忘録
KATSUYA SUSUKI GALLERYにて、2024年10月19日~11月3日。

景観を幾何学的な相似形やパターンに変換し、単色の塗り潰しや太い線を用いて力強い印象を生む絵画で構成される、近藤亜美の個展。

《メロンとハンモック》(1120mm×1455mm)には、草原と遠方の赤い山を背に、2本の樹木に吊されたハンモックと、その手前の手エーブルに置かれたメロンとが描かれる。画面の左右両端には焦茶色の木がほぼ垂直に立ち、僅かに枝葉を伸ばす。その2本の樹木の幹に渡された菫色と焦茶の縞のハンモックがやや歪な半円状に垂れている。前景の左側には紫に青の格子の布がかかったテーブルがあり、8分の1に切り分けられたメロンが瑞々しい山吹色の果肉を晒している。黄緑の草地、赤い山肌、藍色の空などがほぼベタ塗りで、ハンモックやテーブルクロスの模様が太い線で半ば幾何学図形的に表わされるのに対し、メロンの描写は果肉だけでなく皮の網目模様なども含め精緻に描き込まれ、メロンの存在が浮き立つ。なおかつそのメロンはハンモックと半円の相似を成すことで調和する。メロンの果肉の山吹とテーブルクロスの紫やハンモックの菫色、あるいは野原の黄緑と山影の赤はそれぞれ補色に近い関係で相互に引き立て合う。切り分けられたメロンの切断の印象が、太い線で構成されるハンモックに画面切断の効果を賦与する。棘のように伸びる枝もハンモックを刺すようだ。キレのある作品である。
《メロン》(727mm×910mm)は、海を背に、赤いレジャーシートに俯せになる女性と皿に載せられたメロンとを描く作品。草地と思しき深緑の上に敷かれたレジャーシートは赤と薄い赤との格子模様。その上に藍色に群青の格子のノースリーブのワンピースを身に付けた女性が肘を付いて俯せになる。顔から先と足先とは画面から切れている。背後にはやや暗い青い海と群青の空とが広がっている。女性の背後には切り分けられたメロンと相似を成す形が覗いているが、それが何であるかは判然としない。むしろメロンと相関するのは女性であろう。ワンピースと海と空との暗い寒色との対照で、女性の白い肌(実際はクリーム色)は一際明るく映る。それは網目に包まれた瑞々しい肉体という意味で、メロンの果肉に擬えられるのである。単純化された他のモティーフに対し、唯一描き込まれたメロンが生々しさを生み出すのに効いている。
《部屋とスイカ》(1167mm×910mm)は、夕暮れに窓辺のテーブルに置かれたスイカを前にした女性を描いた作品。画面の下側(前景)には窓からの弱い陽差しが差し込み、窓枠の十字をくっきり映っている。左手前の白い皿には切り分けられたスイカが二切れ並ぶ。その奥に座る女性はテーブルに左肘を突いているが、顔は画面から切れて見えない。上半身は白い肌と薄紫の衣装とが格子を成している。窓の外には夕空を背景に緑の山が二等辺三角形として姿を見せている。窓の右側には藍色の壁に赤と青のチェックのカーテンが縛られて下がっている。2切れのスイカ、窓枠の十字と窓、女性の格子と窓やカーテンなどがそれぞれ相似の図形である。また、皿の上のスイカと夕景の山とが赤と緑とで部屋の内外を繋ぐ役割を果す。
《部屋とイス》(727mm×606mm)には、暗い納戸色の床と緑の壁の部屋に置かれた椅子から立ち去る女性の姿が表わされる。薄紫の座面を持つ木製の椅子だけが陰影や木目などを含めて精緻に描き込まれ、他のモティーフは平板に塗られている。女性は画面左端からスカートと右脚(?》を覗かせている。緑の壁に赤いチェック柄のスカートと、白い肌とが映える。緑の靴下を穿いた踵が持ち上げられ、爪先が床から離れるところである。足先、腰から足までの傾斜に対する僅かに覗く左脚の線、さらには左に向けて置かれた椅子が、女性が椅子から立ち上がり出て行く状況を伝える。
《帽子とネクタイ》(727mm×910mm)は、暗い納戸色の床と若草色の壁の部屋に置かれた帽子掛けの帽子とネクタイとを描く。焦茶色の帽子掛けには赤茶色のリボンが巻き付いた茶色のバケットハットと、群青と薄紫のネクタイが掛かっている。テーブルないしラグ、床、壁へと帽子かけの影が延び、実体と影とが相似を成している。

比較的地味な色遣いだが、相似や色彩の対照・連関などによる共鳴、あるいは思い切った図案化と力強い線とがスカッとした世界を立ち上げ、思いの外見ていて爽快になるのが不思議な作品群である。