映画『リトル・ワンダーズ』を鑑賞しての備忘録
2023年製作のアメリカ映画。
114分。
監督・脚本・編集は、ウェストン・ラズーリ(Weston Razooli)。
撮影は、ジェイク・ミッチェル(Jake Mitchell)。
美術は、メグ・キャベル(Meg Cabell)。
衣装は、アリビア・マチェット(Alivia Matchett)。
音楽は、ステファン・ジャンク(Stéphane Junk)。
原題は、"Riddle of Fire"。
小川の岩に腰掛けて空を見上げる少女(Lorelei Mote)。ようせいのやまへつれてって。うたわれるからさわとかさのあるべにたけをぬけていこう。まほうのつるぎのじゅもんにだけはきをつけて。アナ=フレイヤがやってきてむくいをうけるかもしれない。ゆうきをだしてつるぎをてにとれば、すべてはうんさんむしょうするはず。ここではてんくうでどうるいのたましいがとわにおどる。
静かな森の道を轟音を響かせてオフロードバイクが走って来た。目出し帽を被ったアリス(Phoebe Ferro)が、やはり目出し帽のヘイゼル(Charlie Stover)とジョディ(Skyler Peters)の兄弟と落ち合う。ギャング「不死身のトカゲ団」を構成している幼い3人は、空気銃の弾丸を交換し合い、装填する。3人は奇声を上げると、倉庫へ向かう。スマートフォンのスコープのアプリを用いて、倉庫の入口の状況を確かめる。アリスの合図でバイクを降りた3人が入口へ向かい、扉にかけられた鎖を切断する。倉庫内の高い棚の列には大小の箱が並んでいた。その中にヴィデオゲーム機メーカー「オートモ」の段ボール箱があった。ヘイゼルが棚を上り、箱を開封すると「オートモ」のゲーム機「エンジェル」の箱を取り出す。ロープを結わえて下に降ろしていると、口笛を吹きながら作業員(Chuck Marra)がやって来た。3人は彼が出て行くのを待ち、再び箱を下ろすが、作業員が戻って来る。アリスは高い位置の箱を空気銃で撃ち落とす。箱は作業員に見事命中。作業員は通路に立っているジョディを発見する。お前は何者だ? どこから入った? ジョディは黙ってグミキャンディを差し出す。作業員が受け取ると、慌てて逃げ出す。箱を抱えたヘイゼルとアリスも一緒に駆け出すのを見た作業員が待てと3人を追いかける。作業員が扉を出た時には、3人はバイクの走行音だけを轟かせて走り去っていた。作業員はグミを頬張る。
森の中では少女がライターを拾い、クローバーを摘み、集めたものを木の切り株に並べる。少女は所々に赤いきのこの生える森を走り抜ける。
ワイオミング州リボン。山中の高台にある一軒家にバイクの乗った3人が到着する。で兄弟の家へ向かう。リヴィングに入るなり、3人は奇声を上げて跳ね回り、歌う。死人の隠した金塊で、積み荷はいっぱい、宴会だ! 3人は白い箱から「エンジェル」の青い立方体状の筐体を取り出し、ケーブルでテレビに繋ぐ。テーブルに沢山の菓子を並べると、3人はカウチに坐ってコントローラーを取り出す。3人はそれぞれやりたいゲームを主張する。いざテレビの電源を入れると、パスワード入力画面が表示された。お母さんがパスワードを設定したの? テレビに? 知らないよ、こんなこと初めてだから。ヘイゼルが適当な言葉を入力するが失敗する。何やってんの! 僕にやらせて! いろいろな言葉を試すが全て失敗に終わる。頭を抱える3人。
ヘイゼルとジョディは飲み物を手に、アリスは2人の後に付いて階上の母親の寝室に向かう。病気の母親のジュディ(Danielle Hoetmer)はベッドで眠っていた。
ワイオミング州リボン。夏休み。アリス(Phoebe Ferro)は、ヘイゼル(Charlie Stover)とジョディ(Skyler Peters)の兄弟と「不死身のトカゲ団」を結成。物流倉庫に侵入し、作業員(Chuck Marra)に気付かれるも、「オートモ」のゲーム機「エンジェル」を盗み出すことに成功する。兄弟の家に凱旋した3人はいざゲームを始めようとして当惑する。テレビにパスワードが設定されていたのだ。体調を崩して寝ている母親ジュディ(Danielle Hoetmer)は3人の懇願に根負けし、2時間だけゲームを許可するが、その前に病で床に伏すときにかつて食べさせてもらったブルーベリーパイを買って来るように頼む。3人はパン屋に買いに出かけるが、シリア(Colleen Baum)は病気で職場に顔を出していなかった。店に飾られていた写真を手掛かりに、3人はシリアの自宅へ向かう。ブルーベリーパイを作る気など無いとシリアに断られた3人がせめてレシピを教えてくれるよう頼むと、氷より冷たいものと交換だと条件を付けられた。アリスのペパーミントガムは却下されたが、ジョディの捨てられていた人形は寒気がすると受け容れられ見事レシピを手に入れた。いざブルーベリーパイを作ろうとスーパーマーケットに向かうのだが、一瞬の差で最後の卵をカウボーイ風の男(Charles Halford)に取られてしまった。3人は卵を手に入れようと男の跡を付ける。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
アリス、ヘイゼル、ジョディの少年ギャング「不死身のトカゲ団」は、ゲーム機、ブルーベリーパイ、レシピ、食材と、次々と入手を迫られる。全ては「オートモ」のヴィデオゲームで遊ぶためだ。だが、その過程自体がロールプレイングゲームの構造となっている。そして母親の望み通り、3人は家でテレビゲームをするのではなく屋外を町を果ては山野を駆け巡るのだ。
ギャング団「魔法の剣団」を率いる魔法使いアナ=フレイヤ・ホーリーホック(Lio Tipton)の登場はファンタジーの要素を加える。そもそも「不死身のトカゲ団」は、目出し帽を被りながらオフロードバイクにはでかでかと名前の記載されたプレートを取り付けたままだった。店の襲撃では目出し帽自体被らない(倉庫に侵入した帰りに捨ててしまった…)。レシピと関係のない蟹の爪を夕食が豪華になると盗んだり、砂糖を味見してみたりと子供っぽい甘さではあるが、それ以上にファンタジー要素のあるゲームとして映画の世界を構築する狙いがあるからだろう。
登場人物はスマートフォンを駆使しながらも、ゲーム画面やヒッピー的な「魔法の剣団」の生活スタイルなど、美術がアナクロな印象を高めている。そして、ファンタジーの世界の構築に最も寄与しているのがフィルム撮影による映像である。
世の中にはいろんな魔法がある。魔法なんかにかかる訳がないと笑う者――そういう者こそ実は危ない――もあるだろうが、あらゆるできごとは魔法にかかった結果と言えなくもない。「魔法の剣団」によって象徴される、犯罪もまたそうだ。組織の中で人は魔法にかかってしまうものだ。
この映画の世界に嵌まった人もまた、この映画の魔法にかかってしまったと言える。それはとても幸せなことではなかろうか。