展覧会『しりあがり寿個展「十五羅漢S」』を鑑賞しての備忘録
art space kimura ASK?にて、2024年10月28日~11月15日。
1500mm×500mmの画面に、動物や幽霊などにも比せられる様々な漫画的なキャラクターとして手を合せる尊者を描き出す「羅漢」シリーズ15点を中心とした、しりあがり寿の個展。
画面の中央に擦れた太い墨の線を縦に引いて身体ないし衣装を、その上部に細い筆で右に傾けた楕円で頭部を表わし、身体の上部右側に合掌する手を小さく描き込んだ、マッチ棒のような《羅漢 1》。画面中央の菱形の両腕の線を引き、中心に太く濃い縦線で合掌する手を表現し、両腕に呼応するようにΩで表わされた両脚が胴を表わす縦の擦れた線で繋がり、三頭身の頭部には∞のように連ねた丸に点を配して目、その下に丸に2つの点を並べて鼻とする《羅漢 2》は、頭頂部の左右に残る髪が荒木経惟を彷彿とさせる。合掌する手の周囲に浮ぶ円は法輪だろう。頭頂部が2つに割れて長い耳に見える《羅漢 3》は、尻尾の存在からも兎と知られる。正面向きながらも敢て重ねた手を正面に向けて描いているのも、足とともに兎の特徴を示すためだろう。観想するかのように目を閉じているのが印象的である。顎を上げた大きな顔や太く黒い線を連ねて大きく描き出した首回りなど上半身の量感に比して、1本脚に見える薄い墨線の脚が頼りないが、太い線で描き入れられた足が辛うじて身体を支える《羅漢 4》は、顔の向きと合掌する手が身体の線と相俟って左上へ向かう運動を呼び込む。唐辛子のような輪郭の先端の凸部に5つの線ないし点で顔を表わした《羅漢 5》は、足先が窄んだ表現になっていることもあって浮遊感が漂い、幽霊のような印象である。《羅漢 6》は画面上半分に林檎の実のような髪の毛を1本生やした禿頭を画面から切れるほど大きく表わし、左頬の当たりで合掌する。他の作品とは異なり劇画調(?)で表わされた顔、また右脚を上げて飛び出さんばかりの姿勢が力強い。蓑を着たような《羅漢 7》の頭部は画面上部3分の2を占め、そこには倒立した八の字の太い眉、2つの点の目、滲ませた墨による鼻には目よりも遙かに大きな鼻の穴、さらに障子のような口が配される。大きな目鼻の表現は呼吸の強調であり、気ないしエネルギーの流れを表現する。4本の線で表わされた足は合掌する両手と併せると6本となり、昆虫のイメージも引き寄せる。山手線の路線のような歪なハート型の身体を太い墨線で描き、真ん丸の頭部が載っている《羅漢 8》は、上方に視線を投げる様子から古語の「ながむ」の表現のように思われる。《羅漢 9》は擦れた墨線で脚の長い身体を表わし、裸身のように見える。顔の目の前の高い位置で合掌し、伏せた目と相俟って祈りに集中している様が伝わる。《羅漢 10》は2つ卵を重ねたように頭と胴体とを表わす。大きな目と頬の赤味の表現が愛らしさを強める。《羅漢 11》は画面中央に太い刷毛で僅かに揺れながら引かれた線で身体を表わし、頭部と小さな手を添えている。《羅漢 1》のヴァリエーションと言える。すっくと立つ姿を横向きで捉えた《羅漢 12》は、ほぼ輪郭のみで構成され、わずかに目や手が描き加えられている。平べったく伸びた頭部が人間離れしている。髪や髭が伸びた《羅漢 13》は2頭身で、丸い目、丸い鼻、丸い口に愛嬌がある。太い刷毛で表わされた身体は外側に見える擦れた線により震えているようにも見える。《羅漢 14》は大きな鼻、食いしばる歯を見せる大きな口、大きく膨らんだ腹が印象的などっしりした姿。大黒天や布袋尊を連想させる。描き込みの多い顔や手などの上部と輪郭線だけの大きな胴体の下部との均衡が絶妙である。《羅漢 15》は淡い墨線を刷くことで袈裟(?)を表現し、その上に丸い頭が載る。潤んだような瞳が上を見上げ、おちょぼ口、袈裟の先から僅かに覗く手などが愛らしい。
賓頭盧など特定の羅漢を表わしたものではないようだ。十六羅漢としなかった理由も分明でない。