可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会『日本のアートディレクション展 2024』

展覧会『日本のアートディレクション展 2024』を鑑賞しての備忘録
ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて、2024年11月1日~11月30日。

東京アートディレクターズクラブ(ADC)の全会員が審査員となって行われる年次公募展「日本のアートディレクション展」。2023年6月1日から2024年5月31日までに発表、使用、掲載された約6000点の応募作の中から選出された受賞作品と優秀作品とを展観。

ADCグランプリ受賞作品と、ADC会員賞受賞作品との4点が並んで展示されている。その連関に痺れる。

多摩美術大学オープンキャンパス2023」のポスターは、赤い地に白で漫画のギザギザの吹き出しのようなシンプルでありながら力強いイメージ。よく見ると赤い地は直方体の形をしており、箱が爆発し、穴が開いた様を表わしているのが分かる。「美によって時代に大きな穴を開け、新しい時代を切り開く」がテーマで、穴は「美」を象ったものでギザギザは「美」の字の出っ張りに対応している。作者の大貫卓也が「時代が変わっても大きな影響力を与えるためのコアはたった1枚のポスター表現ともいえる」とのコメントを寄せているが、納得である。

榎本卓朗の手掛けた大塚製薬カロリーメイト」のコマーシャル受験生応援シリーズ第10弾「光も影も」篇は、ブロックタイプのカロリーメイトを囓りながら勉強する生徒の姿をデッサンしたモノクロームのポスターがキーヴィジュアル(ゼリータイプを握り締める手だけを描き出したものも並ぶ)。「光も、影も、栄養にして。」との言葉が踊るが、「消しゴムは間違いを消すものではなく、光を与える道具なんです」という美術教師の言葉に触発されたものという。CMでは、美大を目指す女子生徒(伊東蒼)と理工系志望の女子生徒(野内まる)との会話に登場する。光を生み出すのは影であり、影が濃いだけその分光も強くなる。消すことで生まれる光。それは、受験生を求める「多摩美オープンキャンパス2023」の赤い箱を内破させた爆発の閃光だ。

三澤遥はクリエイションギャラリーG8で行われた個展「Just by | だけ しか たった」において、ただ切るだけ、ただ折るだけ、ただ塗るだけなど1つの動作を重ねることで制作した作品を壁に取り付けた木材の陳列台に展開した。赤青鉛筆を削り出して赤と青を頂点とする円錐を底面で組み合わせた「彫刻」の写真が取上げられている。光と闇、鉛筆、削る行為=消す行為は、「カロリーメイト『光も影も』篇」に連関し、なおかつ穴を穿つだけという点では「多摩美オープンキャンパス2023」にも通じよう。

ADCグランプリ受賞作品は、クリエイションギャラリーG8で開催された岡崎智弘の個展「STUDY」及びそこで上映されたコマ撮りの手法によりマッチ棒が自在に動き廻る映像作品である。マッチ棒による表現の可能性を追究すべく、2023年6月時点で720本にも及ぶ作品が制作された。マッチ棒の自在な動きを可能にしているのは、静止画像と静止画像との間に行われる作業の時間である。だがその作業の時間が映像に現われることはない。映し出されない影によってこそ映像という光が存在するのであり、それを象徴するのが(消しゴムを用いるのと同じ動作である)擦って燃焼(爆発)させるマッチ棒なのだ。マッチ棒だけで、マッチ棒しか用いず、たったマッチ棒で、表現の豊かさが探究される。「今あなたの見えている目の前の映像よりも、これからつくろうとしている指先と時間のほうに、このプロジェクトの主体がある」とは岡崎智弘の談であるが、生まれるべき空白への眼差しが、時代に風穴を開ける爆発力の源泉だろう。