展覧会『吉永朋希個展「情景描写」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY b.TOKYOにて、2024年11月11日~16日。
造成地に立ち並ぶ建売住宅を定型に意匠化し、小さな円を並べて着彩したパネルを並べることで周囲の空間を埋めた絵画「情景―民家―」シリーズなどで構成される、吉永朋希の個展。
縦長の直方体の外側から内側へ次第に明るくなるように灰色の小円を並べて埋めた空間(背景)、さらに塗り方を違えた(直方体のパーツを用いない)黒い地面、地面の両脇の隙間を埋めるように配された植栽を表現すると思しき縦長の直方体に緑色の小円で並べたものが基本パターンであることが、冒頭に掲げられた題名の無い作品(182mm×257mm)で示される。空間部分は2つの円弧により3つに分けられ、光の明度が微妙に変えらることで、陽光が表わされる。会場で最初に目に入る《情景―民家―》(1030mm×728mm)では、その基本構成の地面の部分に盛り土らしき黒が塗られ、その上に屋根、窓の形のパーツで意匠化された黄土色の2階建ての住居が配される。円形画面の《情景―街路樹―》(Φ500mm)なら支柱を取り付けた樹木を、六角形の画面の《情景―車―》(340mm×395mm)なら赤い車を、正方形の《情景―ポスト―》(273mm×273mm)なら赤いポストが基本パターンに配される。ありふれた光景の意匠化は量産される既製品により世界が充ちていることを明らかにする。家の形だけを並べた「情景―民家―」シリーズ(ベージュ、青緑)では、郊外の造成地に立ち並ぶ建売住宅の群れが恰も青海波のように表現されている。パーツを並べていく手法はプレハブ的とも言えよう。青海波や千鳥格子のように作家は家並をパターンとして表わす。定型の美、あるいは美の型を卑近な世界に見出そうとするのだ。ところで、離れて見たときには機械的に見えた画面が、近付いてみると手描きによる小円の不均質さが明らかになる。そこではたと気付くのは、生命も含め、あらゆる物質を微視的に観察すれば、細胞、さらには原子や素粒子といった基本要素が現われるということだ。型とその複製による絵画は生命の似姿でもあったのである。