可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 葉緑素為吉個展『Loophole』

展覧会『葉緑素為吉「Loophole」』を鑑賞しての備忘録
ギャラリイKにて、2025年2月10日~15日。

床に黒いテープを貼り合せて「正七角形」を作り、頂点から「正七角形」の一辺に等しい長さの線分で別の「正七角形」とを繋ぐことで、床から壁へと「正七角形」を増殖させたインスタレーションを提示する葉緑素為吉の個展。

「正七角形」の一つの内角は5π/7ラジアン(128と4/7度)となり、正三角形(内角60度)や正方形(内角90度)、正六角形(120度)のように頂点の周りの内角の合計を360度にできないため、敷き詰めて並べることができない。そのため、頂点から「正七角形」の一辺に等しい長さの線分で別の「正七角形」とを繋ぐことで、「正七角形」を並べているのである。

 7は、非常に多くの地域や宗教に大きな影響を及ぼしているが、その影響の一部は、もともと月の神秘によるものであるにちがいない。月の各相は、約7日間続く。一日の時を刻む時計が登場する以前は、月の各相は、日数や満月から満月、新月から新月までの日数をかぞえることによって、人は時の経過を知った。そして、1年を通して満ち欠けを繰り返す月に名前をつけて野や海に降り注ぎ――あるいは見えなかったりし――、収穫期の長い夜を青白く照らし、夜に影を作る、月の光のもとで暮らしてきた。
 1週間は、月の相のように7日間だが、いつの時代もそうだったわけではない。面白いことに、古代エジプトと、革命暦という独特の暦を採用していたころのフランスでは、1週間を10日とかぞえていた。1週間が7日になったのは、さまざまな物事と同じく、メソポタミアからだった可能性が高い。7日ごとのリズムは、月からとったものだ。そして7日のそれぞれ(曜日)は、大昔の天文学者たちが地球のまわり、われわれのまわりをめぐっていると考えた7つの天体を称えるものだった。(略)
 曜日の名前はさまざまなものからもたらされたが、欧米では大半はラテン語に由来する。とりわけロマンス諸語ではそうだ。また北欧神話に由来する場合もあり、ゲルマン系統の言語や古期英語を経るあいだに変化した名前もある。
 ラテン語では、日曜日は「太陽に日」を意味するDies Solisだった。それが古期英語ではSunnandaegninariになり、現代英語のSundayとなった。英語のMonday(月曜日)は「月の日」という意味で、古期英語のMonandaegに由来する。ドイツ語ではMontagで、ラテン語では「月の日」を意味するDies Lunaeだった。これがフランス語のLundi(月曜日)につながっている。
 (略)
 そしてまた日曜日がめぐってくる。7日が過ぎ、新たな週が始まるのだ。
 われわれは、月ととの満ち欠け、太陽、惑星のもとで、こうした7日のリズムに合わせて暮らしている。ならば、7が昔から、幸運な数というだけでなく魔法の数とまで見なされているのも、驚くにはあたらない。(バニー・クラムパッカー〔斉藤隆央・寺町朋子〕『数のはなし――ゼロから∞まで』東洋処理院/2008/p.151-153)

「正七角形」を1週間のメタファーとするなら、「正七角形」を敷き詰めることができずにできる隙間は、7日を繰り返す日々の中に、収まり切らない抜け穴(loophole)となる。
ところで、虹は(日本では)7色で構成されると言われる。

 たとえば虹は7色で、外側から赤、橙、黄、緑、青、藍、紫となっている。一番内側のほうの色は見分けにくいため、単に青や紫とくくられてしまうこともある。それでも、虹の七色を順番に記憶するフレーズはいろいろある。(略)
 ギリシャ神話では、虹は、この世と天国を結ぶ使者である女神イーリスが通った道とされている。中国の神話によれば、虹は空に空いた穴を、女媧という女神が五色の石で塞いだものだという。(バニー・クラムパッカー〔斉藤隆央・寺町朋子〕『数のはなし――ゼロから∞まで』東洋処理院/2008/p.142-143)

会場の床に放射状に拡がっていく「正七角形」の2つをぎゅっと寄せると、正五角形が現われる。女媧が五色の石で塞いだ穴に見立てられよう。日常は常に不測の事態によって破られる。