映画『デビルズ・ゲーム』を鑑賞しての備忘録
2023年製作の韓国映画。
106分。
監督・脚本は、キム・ジェフン(김재훈)。
撮影は、チェ・ジョンソク。
照明は、イ・ジュノ(이준호)。
音響は、イ・ジュジュン(이기준)とソン・インヘ(송인해)。
美術は、イ・ジョンウ(이정우)。
衣装は、イ・ウンギョン(이은경)。
編集は、ゴ・アモ(고아모)。
音楽は、ファン・ガンソン(황광선)。
原題は、"악마들"。
留置権のために閉鎖されたビルの1室に、蛍光塗料を塗った仮面の男たちが集まっている。台の上には女性の裸の遺体があり、一人がペイントを施している。スプレーで仕上げをすると、ナイフを取り出して遺体の腕を切断し始める。その様子を一人が撮影している。
スンヒョン(김태겸)が車を停め、電話を入れる。着きました。どこです? 運転中のチェ・ジェファン(오대환)が今向かっているところだと応じる。了解。到着を待ちます。車内じゃなく、出口を張ってろ。潜入はするな。すぐ着く。了解。スンヒョンは車を降りると、建物の中へ向かう。階段を上がり、空き部屋を抜け、ビニールカーテンが張ってる場所へ向かう。蛍光塗料で装飾された部屋で遺体を切断し撮影している連中の姿が目に入った。その光景に目を奪われたスンヒョンは背後に別の男が迫っているのに気が付かない。
ジェファンが現場に到着すると、灯りの消えた建物で閃光が目に入った。慌てて建物へ向かう。スンヒョン! 大声でスンヒョンを呼ぶ。ビニールカーテンを抜け、遺体の置かれた現場に突入すると、スンヒョンが床に倒れていた。首が刃物で切られている。スンヒョンは辛うじて4人だとジェファンに伝える。大丈夫だ、逮捕する。
国立科学捜査研究院。検視台の上に措かれたスンヒョンの遺体をジェファンが見つめている。義理の弟であることは扨置き、素晴らしい人だった。法医学者のキナム(김원해)がジェファンに声をかける。私に任せて行きなさい。よろしくお願いします。ジェファンが涙ぐんで立ち去る。
科捜研にミソン(황보라)が泣きながらやって来た。ジェファンが妹を引き留める。何してたの? 済まない。私独りでどうすればいいの…。ミソンが泣き崩れる。俺が犯人を必ず捕まえる。
ソウル市警。広域捜査隊が連続殺人事件の捜査会議を開いている。ホン・ソンウ、パク・セロム、ハン・ギョンソン…。犯罪グループのサイトにアップされている動画から判明している被害者8名の名前を若手刑事のキム・ミンソン(장재호)が列挙する。但し、公開されていない動画がある可能性があり、より多くの犠牲者が見込まれます。次々と犠牲者が出ているにも拘わらず我々は何も把握出来ていない。連中はサイトを立ち上げて我々を愚弄している。チーム長(최귀화)が捜査員を叱咤する。サイトはダークウェブで管理されていて、アクセスには特別なソフトウェアが必要です。IP追跡が不可能なために世界中でサイバー犯罪に使用されています。だから何だ? 指をくわえて見てろって言うのか? 集まってもらったのは新しいネタが入ったからです。チェ・ジェファン刑事がタレコミに基づいて防犯カメラ映像を確認し、容疑者の顔写真を入手しました。ミンソンが画像をスクリーンに映す。30代半ばの男性、身長は170cm、細身でがっしりした体型。前科者のデータベースを洗っています。会議の最中、連続殺人犯に関する通報があり、捜査員が緊急出動する。ジェファンはペアを組むミンソンに告げる。急ぐときこそゆっくりだ。何があろうと俺の前には絶対に出るな。捜査員たちは車に乗り込み、現場に急行する。
郊外の廃墟ビル。ジェファンを先頭に捜査員たちが建物内に入っていく。音楽が漏れる部屋に突入すると、蛍光塗料でペインティングされた遺体が台の上にあった。そのとき照明が落ち、目眩ましのつもりか強い光が明滅した。ジェファンは扉を出て逃げていく男(장동윤)に気付く。ジェファンが追い、ミンソンも続く。男は車に乗り込んだ。ジェファンはミンソンに車を廻すよう頼み、跡を追う。
逃走車両は蛇行運転を繰り返す。ジェファンは思い切って車で突っ込み、逃走車両を道の脇に横転させる。男は車を捨てて山林の中に逃げ込んだ。ジェファンとミンソンは山林の中で男の姿を見失ってしまう。突然ミンソンが潜んでいた男に襲われた。倒れ込んだミンソンにチーム長に応援を要請するよう告げると、ジェファンは1人で男の跡を追う。急斜面に出て男が一瞬躊躇した隙に、ジェファンは思い切って男に飛び掛かる。2人は急斜面を転がり落ちていった。
ソウル特別市とキョンギドで連続殺人事件が発生。犯行グループは遺体を切り刻む様子を撮影した動画8本をダークウェブで公開していた。ソウル市警広域捜査隊の刑事チェ・ジェファン(오대환)はタレコミをもとに閉鎖中のビルに向かう。ジェファンと組むスンヒョン(김태겸)が先に現場に到着したため、逃走しないよう出入り口で張るよう頼む。ジェファンが到着すると、暗い建物に閃光が見えた。ジェファンが建物に突入すると、蛍光塗料でペインティングされた遺体が放置されるとともに、首を切られたスンヒョンの姿があった。スンヒョンは辛うじて4人組だとジェファンに告げると事切れる。国立科学捜査研究院の法医学者キナム(김원해)にスンヒョンを委ねた。夫スンヒョンの急死に取り乱す妹ミソン(황보라)に、ジェファンは必ず犯人を捕まえると約束する。ジェファンは防犯カメラ映像を徹底的に解析し、主犯格(장동윤)の姿を特定する。通報をもとに捜査員が郊外の廃墟ビルに向かうと、再びペインティングされた遺体があった。画像の特徴に一致する男が逃走するのを目撃したジェファンは若手刑事のキム・ミンソン(장재호)とともに追走する。山林で潜んでいた男に急襲されたミンソンにチーム長(최귀화)に応援要請するよう頼むと、ジェファンは男を追って山中に消えた。大規模な捜索活動が行われるが、ジェファンの帰りを妻ジンスク(왕지혜)と娘のヒョナ(신수연)が祈るようにして待つが、2人の行方は摑めない。連続殺人事件の11人目、12人目の被害者が出るに及び、1ヶ月に亘る捜索は打ち切られることになった。それから程なくしてソウル市警の庁舎に自動車が突っ込んだ。運転していたのは行方を晦ましていた連続殺人事件の主犯格チャ・ジンヒョク、助手席に乗っていたのはジンヒョクを追っていたチェ・ジェファンだった。
(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)
入院したチャ・ジンヒョクは捜査員の取り調べに対し、キム・ミンソンになら話してもいいと言う。ミンソンは何故自分が指名されるのか訝るが求めに応じる。ジンヒョクはミンソンに自分こそジェファンであり、ジンヒョクとジェファンの体が入れ替わったと言う。荒唐無稽だが、確かにジンヒョクの言葉はジェファンの助言と違うところが無かった。中身がジンヒョクのジェファンを家に帰してはジンスクやヒョナに危険が及ぶと訴える。他方、ジェファンは、精密検査の結果異常は見つからなかったものの、ここ1ヶ月ほどの記憶がないという。
ミンソンは兄貴と慕うジェファンをジンヒョクの中に見出す。拘置所で自傷行為に及んだジンヒョクは救急搬送の途中に救命士と刑務官に暴行して逃走、ミンソンに接触して共犯者を摑まえるから泳がして欲しいと訴える。ミンソンは半信半疑ながらジンヒョクに協力することにする。その結果、連続殺人犯の1人であるイ・ジェチョル(손종학)を逮捕するに至った。ミンソンはあり得ないことながらも、ジンヒョクの体にジェファンが閉じ込められているとの思いを強くする。
(以下では、中盤以降の内容についても言及する。)
ミンソンは、ジンヒョクがジェファンであり、ジェファンこそジンヒョクなのだという信念を高めていく。ミンソンとともに鑑賞者もまた同じ思いを共有していくだろう。だがミンソンは、冒頭、国立科学捜査研究院の法医学者キナムに映画のような入れ替わりは科学的にあり得るのかと質問して言下に否定されている。
犯人逮捕という目的のためにはどんな捜査も許されるのか。目的が正当であるなら、あるいは結果に価値があるなら、その実現のための手段は何であっても許されるのか、が本作の主題である。
原題が「悪魔(악마)」ではなく、「悪魔たち(악마들)」とされるのは、猟奇的な殺人集団が「悪魔たち」というだけではない。木乃伊取りが木乃伊になる危険を訴えるためであろう。
ジェファンは同僚であり義弟でもあるスンヒョンを殺されることで正義の実現、秩序の回復に復讐目的が付加され、手段を選ばない捜査に訴えていくことになる。