展覧会『横野明日香「立ち上がる風景」』を鑑賞しての備忘録
KATSUYA SUSUKI GALLERYにて、2025年3月15日~30日。
絵筆の反復運動により山や水の景観を画面に生じさせる、横野明日香の個展。
《冬の山》(970mm×1620mm)は、画面右側の下から3分の1程度の高さから画面下端中央へ緑の直線が線が走り、暗さを増した緑の線が繰り返しその下に連ねられている。その直角三角形と左右対称に、画面左隅に緑の直角三角形が配され、中央で一部重なる。2つの三角形に包まれた奥には、画面中央よりやや高い位置まで主に青い線が水平方向に重ねられる。所々絵具の垂れによって水面で有る事が、緑の線によって周囲の山を映していることが分かる。水面の横方向の線が途切れると、画面上端中央を集中点とする主に緑の線が水面から引かれ、山を形作る。山の稜線に沿って浅黄色の線が平行して走り、空を表わす。原則として直線を重ねることで抽象的に生み出された景観は、幾何学図形に寄ったモティーフと寒色により冬山の冷涼を伝える。ところどころ覗く差された朱の線がスイカに振りかけられる塩のように寒さを際立たせる。この絵画に表わされた景観は、何より、その筆の運きを鑑賞者になぞらせる。
《Like a River》(1455mm×1120mm)は、画面右側に山野斜面を思わせる緑の円錐の裾が覗き、それぞれの裾の周囲を明るい水色の曲線が囲むようにレン蔵して排される。綺麗なM字に流れる川は現実にはあり得ない。それゆえに"Like a River"と題されているのであろう。急カーヴを描く筆の動きを目で追う、想像上のライドのようなアトラクションとしての絵画が目指されていることが分かる。
《湖を歩く(夕方)》(1167mm×910mm)では、画面右端のやや上段を中心に黄色を中心とした渦が巻き、画面に拡がっている。奥(画面上段)には三角形の山も姿を見せるが、黄色い渦に身を委ねるような感覚を味わうのが醍醐味ではないか。この渦はターンテーブル、レコードのようにも見え、山吹色の色味と相俟って、メロウな音楽を堪能させる。
筆の動きをなぞるとき、鑑賞者は作家の動きに合わせて踊っている。それは、作家と鑑賞者とが心を合わせることにも繋がるのではないか。画面に描かれた風景ではなく、作家と鑑賞者とが「踊る」姿こそ、真の「立ち上がる風景」だったのだ。