可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『アンジェントルメン』

映画『アンジェントルメン』を鑑賞しての備忘録
2024年のアメリカ・イギリス・トルコ合作映画。
120分。
監督は、ガイ・リッチー(Guy Ritchie)。
原作は、ダミアン・ルイス(Damien Lewis)のノンフィクション"Churchill's Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWⅡ"。
脚本は、ポール・タマシー(Paul Tamasy)。
エリック・ジョンソン(Eric Johnson)、アラッシュ・アメル(Arash Amel)、ガイ・リッチー
撮影は、エド・ワイルド(Ed Wild)。
美術は、マーティン・ジョン(Martyn John)。
衣装は、ルールー・ボンテンプス(Loulou Bontemps)。
編集は、ジェームズ・ハーバート(James Herbert)。
音楽は、クリストファー・ベンステッド(Christopher Benstead)。
原題は、"The Ministry of Ungentlemanly Warfare"。

1942年。大西洋。ナチス制海権を得ている海域。スウェーデン船籍の漁船を発見したナチスの掃海艇艦長(Tim Seyfi)は手勢を引き連れてボートに乗り込み検査に向かう。どこから来た? スウェーデン。アンダース・ラッセン(Alan Ritchson)が返答する。英語は話すか? スウェーデン人ダケド英語モ少シ。臨検する。ナチスの水兵が漁船に乗り込む。ラッセンがヨーコソと受け入れる。水兵は甲板や船室を捜索して廻る。なぜここに? 休暇ですよ。ガス・マーチ=フィリップス(Henry Cavill)が答える。旅券は? ドウゾ。他に乗員は? 2人だけだ。船室に乗員は? おりません! 虱潰しに探せ。ドウゾ、食ベル物沢山アリマス。汚い手をどけろっ! 水兵がラッセンに銃を向ける。お前も両手を挙げろ! 艦長がマーチ=フィリップスに命じる。マーチ=フィリップスは両手を挙げるが、そのうち笑い出す。ラッセンも釣られて笑う。大変ナ目ニ遭ッテル。悪イ子ダ。奴ヲ撃テバ100フランアゲルヨ。撃たないで! アイツハドイツ人ヲ嫌ッテル、撃ツベキダ。2人は巫山戯たやり取りをしてゲラゲラ笑う。酔っ払いめ! 艦長は旅券をラッセンに突き返すと水兵に指示を出した。水兵が甲板に灯油を撒き始める。このような状況に対処するため私は常に灯油缶を携行している。以前、臨検する私を笑った者に対して選択肢を与えた。岸まで泳ぐか燃える船に留まるか。水死と焼死、どちらを選ぶか。あろうことか両方を選んだんだ。髪が燃え皮膚が爛れてようやく岸まで泳ごうと水に飛び込んだ。1人はすぐに溺れた。しかしもう1人は素晴らしい精神力を発揮し、見事岸まで辿り着いた。彼を追いかけて偉業に報いるべく後頭部に銃弾を授与してやった。面白いだろう? 何故笑わない? 船室を捜索していた水兵が壁をこじ開けると潜んでいたヘンリー・ヘイズ(Hero Fiennes Tiffin)に銃撃された。艦長が銃声に気を取られた瞬間、ラッセンがナイフで首を掻き切った。マーチ=フィリップスも銃を手に取り、水兵を撃ち殺す。ラッセンはナイフで次々と水兵を仕留める。甲板に上がって来たヘイズも加勢する。ナチスの水兵は全て屠られた。見事だ、ラッセン。まだまだいるぞ。3人は掃海艇を見やる。ラッセンが艦長の遺体を持ち上げて掃海艇に向けてその手を振らせる。マーチ=フィリップスが望遠鏡で掃海艇を見る。気付かれてるな。大砲をこちらに向けてきた。砲弾が後方の海に着弾する。そのうち射程距離に入りますよ、船長。そのとき海中からフレディ・アルバレス(Henry Golding)が上がってきた。フレディ、憂慮すべき事態かな? 憂慮には及びません、船長。巨大な爆弾なので導線も相応のものを、便所の外に設置しました。先ほどより近い位置に砲弾が着弾する。次に打ち込まれる砲弾は命中する可能性が高い。そのとき、掃海艇で爆発が起き、船体は炎と煙に包まれた。見事だ、フレディ。ところで船長、ここで何をしているのか教えて頂けますか?
25日前。ロンドン。ウィンストン・チャーチル(Rory Kinnear)首相がコリン・ガビンズ准将(Cary Elwes)とイアン・フレミング(Freddie Fox)を執務室に招きニュース映画を見ていた。
ヒトラーが破竹の勢いで侵攻しヨーロッパの戦火は拡大。ポーランド、ベルギー、フランスが陥落し、ヨーロッパ解放の望みは英国に託された。英国よ、武器を取れ。しかし、英国単独での実現は困難な情勢だ。アメリカ参戦の期待はナチスUボートにより挫かれている。小型潜水艦は北大西洋を荒らし廻り、弾薬、食料、民間人を乗せた船を見境無く沈める。Uボートが大西洋を席巻する限り、アメリカ軍が英国に到達する見込みはない。英国はヒトラーに対し融和を強いられるのか、ヒトラーによる徹底的な攻撃を受けるのか。空襲でロンドンは燃え、魚雷で海が血に染まる。Uボートに打つ手がない現状では、ヨーロッパに平和のもたらされる日はやって来ない。
ドイツがUボートで供給網を遮断するなら、我々はUボートの供給網を遮断する。諜報員に探らせた。ヒトラーの大西洋に展開しているUボートの補給や修理は、フェルナンド・ポーを拠点とする、ナチスタグボートとイタリア船籍の補給船によって行われている。これらを沈める人員が必要だ。フェルナンド・ポーに空襲を仕掛ければ? ドイツ人は狡猾でスペイン植民地を基地にしている。フェルナンド・ポーは中立地帯だ。我々が攻撃すれば、ナチスに占領されていない国々はナチスに加わる。我々がドイツの軍門に降るのも時間の問題となる。ヒトラーが法規に従わないのなら、我々もそうするまでだ。これは無認可、非公式の任務だ。英国軍に発覚すれば投獄される。ナチスに露見すれば拷問された揚句死ぬ運命だ。
ロンドン。特殊作戦執行部本部。ガビンズ准将がリチャード・ヘロン(Babs Olusanmokun)とマージョリー・スチュワート(Eiza González)を招き、作戦について説明していた。議論の余地はあるが、私が白羽の矢を立てた男は収監されている。彼の言動は気に入らないが、豪胆で冷徹で、配下の者たちはどこまでも付いていく。これは本当に良い案でしょうか? 間違いなく良い案ではないね。それでもやらねばならない。彼を中へ。号令とともに手錠されたガス・マーチ=フィリップスが姿を現わした。立ちなさい、少佐。マーチ=フィリップス少佐が手錠を外される。イアン・フレミングが自ら名乗る。ガビンズ准将が海軍情報部にいた彼を引き抜いたと説明した。なぜ私がここに? 君に指揮してもらいたい任務がある。なぜ私に任せるんです、M? 少佐、茶を飲み給え。少佐は背後のテーブルに向かい、紅茶ではなくスコッチの瓶を手にし、グラスに注ぐ。上層部に好かれていないことは自覚してますよ。上層部が魅力的でないと考えるからこそ任務にうってつけなのだ。任務とは? ポストマスター作戦。北大西洋に展開するドイツの潜水艦を一掃する。少佐は葉巻にも手を伸ばす。どんな計画です? 潜水艦には燃料と魚雷が必要だ。空気清浄装置もね。それらが無ければ潜水も狩りも不可能だ。対象は? ドゥケッサダオスタ号。イタリア船籍だがドイツ軍が利用している。給油や魚雷の補充、空気清浄装置の補充に利用されている。西アフリカの沖になるフェルナンド・ポーという島に退避されている。この船を沈めて欲しい。漁民を装い、ドゥケッサダオスタ号を破壊する爆薬を搭載したトロール船で西海岸を航行するのだ。こちらはヘロン工作員とスチュワート工作員。島に潜入してもらう。ヘロン氏は既に商売を手掛けている。どんな商売を? カジノバーと密輸だ。儲かるのか? 上々だ。ナチスの高官は重要な顧客だ。そりゃいい。女優で歌手のスチュワート女史は2年間訓練を積んだ。ニューヨークで金の取引をしていることになっている。彼女には島の司令官ハインリッヒ・ルアー(Til Schweiger)を誘惑してもらう。有能な上に任務に動機もある。どのような動機が? 母方がドイツ系ユダヤ人だったの。すぐに殺されたわ。それはお気の毒に。あなたも立ち直れるわ。ナチスの作戦開始まで44日ある。この機を逃せば不可能だ。俺がやる以上人選は任せてくれ。彼らを嫌うだろうけどね。狂った連中だから。名前は? ヘンリー・ジェイズ。聡明な若きアイルランド人。私の親友である彼の兄がUボートに漁船を沈められ、ナチスを憎んでいる。口数は少ないが狡猾だ。航海術に長けている点でも頼りになる。大型船を沈めるならフレディ・フロッグマンだ。足を縛られても海峡を渡れるほどの泳力の持ち主だ。破壊衝動があり放火の前科持ちだが爆破の専門家だ。デンマーク人のアンダース・ラッセン。故郷でクマと戦いヘラジカを狩って育った。ナイフと弓の扱いに秀でている。ゲシュタポに兄が惨殺され、18でナチスと戦うために我が国に渡って来た。文字通りの狂犬で、殺しの手法を100通りも編み出している。最も重要なのは、ジェフリー・アップルヤード(Alex Pettyfer)。必要としていることは分かっていた。だからフェルナンド・ポーの偵察に派遣した。残念ながらナチスに捕まった。ならなおさら彼が必要だ。彼は計画立案に長けている。チェスのグランドマスターでもあり、外科医でもある。ダンケルク塹壕で2週間を過ごした戦友だ。彼がいなければ俺もここにいない。彼無しでこの作戦はあり得ない。残念ながら無理だ。何故? ラ・パルマ島のドイツ軍駐屯地に幽閉されているからだ。ラ・パルマ島はフェルナンド・ポーに向かう途中にあるだろ? 気違い沙汰だ。それについては任せてくれ。コートが1着必要だな。マーチ=フィリップス少佐はガビンズ准将からコートを頂戴して特殊作戦執行部本部を後にした。

1942年。ナチスドイツが大陸ヨーロッパを席捲。イギリスはロンドン空襲に加え、北大西洋に展開するナチスUボートによる無差別攻撃に悩まされていた。ウィンストン・チャーチル(Rory Kinnear)首相は、Uボート兵站を担うイタリア船籍のドゥケッサダオスタ号を鎮める「ポストマスター作戦」を実施を非公式・無認可にコリン・ガビンズ准将(Cary Elwes)とイアン・フレミング(Freddie Fox)に対し命令する。"M"ことガビンズ准将が実働部隊の指揮官として白羽の矢を立てたのがガス・マーチ=フィリップス少佐(Henry Cavill)だった。マーチ=フィリップス少佐は、操船術に長けたヘンリー・ヘイズ(Hero Fiennes Tiffin)、爆破の専門家フレディ・アルバレス(Henry Golding)、殺戮兵器のようなアンダース・ラッセン(Alan Ritchson)を隊員に指名し、スウェーデン船籍の漁船を装い、ドゥケッサダオスタ号の寄港地スペイン領フェルナンド・ポーを目指す。フェルナンド・ポーに潜入してナチスに捕まったジェフリー・アップルヤード(Alex Pettyfer)をラ・パルマ島から救出する任務を自ら加えた。ナチスの掃海艇に発見され臨検を受けるが敵艦の殲滅にした部隊は、厳戒な警備態勢をとるラ・パルマ島に潜入する。他方、Mの指示で、工作員リチャード・ヘロン(Babs Olusanmokun)はフェルナンド・ポーでカジノバーの経営者として情報収集に当たり、女優で歌手のマージョリー・スチュワート(Eiza González)はナチスの現地指揮官ハインリッヒ・ルアー(Til Schweiger)を籠絡すべく、鉄道でフェルナンド・ポーに先乗りする。

(以下では、冒頭以外の内容についても言及する。)

ダミアン・ルイス(Damien Lewis)の書籍"Churchill's Secret Warriors: The Explosive True Story of the Special Forces Desperadoes of WWⅡ"に加え、2016年に公開されたウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)関連文書で明らかにされた、Uボート兵站を断つための秘密作戦をモティーフとしたフィクションで、コメディ、アクション満載のエンターテインメント作品である。
Uボートによる無差別攻撃とロンドン空襲(さらにはダンケルク大撤退)などで政府首脳がヒトラーナチスドイツに宥和の態度をとり続ける中、ヒトラーが中立国を隠れ蓑に攻撃してくるなら英国も手段を選ばないとチャーチル首相が腹を括り、ガビンズ准将に非公式無認可の秘密作戦を命じる。作中、ガビンズ准将が"M"と呼ばれるなど、イアン・フレミング(Ian Fleming)がジェームズ・ボンドを主人公とした小説を着想したことが示唆される。
大西洋上に浮かぶ漁船ののんびりした雰囲気から、臨検のドイツ水兵に対する漁民の突然の大立ち回り。実は、ナチスに対し追い込まれたイギリスがUボート沈没のために漁船を装い爆薬を運んでいたことが明らかにされる。以降、船舶、鉄道、港町で緊迫した展開が持続する。
凄まじい肉体を持ちナイフと弓を器用に操るアンダース・ラッセンの殺陣、また、マージョリー・スチュワートとハインリッヒ・ルアーとのヒリヒリした頭脳戦などが見せ場。主人公ガス・マーチ=フィリップスが何故部下から絶対的な信頼を受けるのか、あるいはどういう経歴の持ち主か(1940年のダンケルク大撤退から生還したことは明かされる)などについてはもう少し丁寧な描写が望まれる。マーチ=フィリップスが頭脳として絶大な信頼を寄せるジェフリー・アップルヤードの活躍(頭脳を生かす場面)がなく、かえってマーチ=フィリップス戦友を救出するために隊員を危険に晒すことになったように見える(むしろそこにマーチ=フィリップスの狂気を見せているのかもしれないが)。

アメリカにおいて近時、ジョン・F・ケネディ大統領暗殺事件に関連する秘密文書の公開が進んでいる。

 「20世紀最大の謎」とも呼ばれる1963年のジョン・F・ケネディ(JFK)大統領暗殺事件。公衆の面前で白昼に大国のトップが銃撃された事件だが、動機など全容はいまだに解明されていない。
 (略)
 機密情報を含む事件に関する文書は92年に成立した「JFK暗殺関連資料管理法」に基づいて国立公文書記録管理局に保管されている。その分量は約600万ページ。順次公開されてきたが、法が義務づけた「25年以内の全記録の公開」はされず、一部は非公開のままとなっていた。
 理由は「安全保障に深刻な危害を与える可能性がある」というCIAなどの要請だ。しかし、「ディープステート(影の国家)が世界を影で操っている」という陰謀論をあおり、CIAなどの情報機関に批判的なトランプ大統領は、残る8万ページとされる機密文書を3月18日から公開し始めた。(略)
 (略)
 中でも興味深いのは、JFKの補佐官を務めていたアーサー・シュレンジャー・ジュニア氏のメモだ。〔引用者補記:JFK暗殺事件の研究者で弁護士のラリー・〕シュナプ氏によると、CIAに不信感を抱いたケネディ氏が、その再編を考えていた時期のものだという。(略)
 メモは、ケネディ氏が大統領に就任した時点で、世界の米国大使館に勤務していた政治担当官のうち47%がCIAの工作員、つまり「スパイ」だったと明かしている。(略)
 外交政策の中心的な役割を担うのは国務省だが、出先機関の大使館はCIAが大量の工作員を送り込んで半分指揮下に置いていた。(略)
 (略)
 CIAを研究している南フロリダ大のアルトゥーロ・ヒメネスバカルディ准教授(国際関係論)は、「これまで『うわさ』レベルであったCIAなどの情報機関による他国の内政への干渉について、揺るぎない証拠がいくつも出てきた」と語る。(西田進一郎「機密文書公開『JFK暗殺』に光?」毎日新聞2025年4月6日日曜日6面)

陰謀論に傾くのは危険だが、秘密作戦が常に展開されているのは間違いない。