映画『マリア・モンテッソーリ 愛と創造のメソッド』を鑑賞しての備忘録
2023年のフランス・イタリア合作映画。
99分。
監督・脚本は、レア・トドロフ(Léa Todorov)。
撮影は、セバスティアン・ゲプフェール(Sébastien Goepfert)。
美術は、パスカル・コンシニ(Pascale Consigny)。
衣装は、アニエス・ノーデン(Agnès Noden)。
編集は、エステル・ロウ(Esther Lowe)。
音楽は、エミール・ソルナン(Émile Sornin)。
原題は、"La Nouvelle Femme"。
ローマ近郊の農村。マリア・モンテッソーリ(Jasmine Trinca)を乗せた馬車が畑の脇を抜ける。農家に預けているマリオに会いに行くのだ。
息子よ。私が唯一の母親よ。あなたは私の英雄、愛するのはあなただけ、あなたは私の全て。私の生涯で成し遂げるもの全てはあなたのためのもの。
マリアは泣くマリオを抱き、あやす。マリオを残し、マリアは農家を後にする。
1900年。パリのとある劇場。脚を大胆に露出した衣装のリリ・ダレンジ(Leïla Bekhti)がピアノの伴奏に合せ歌い踊る。♪ほらほら、バラが咲きます/ほらほら、若葉が萌えます/ほらほら春が来ました…。観客はセクシーなリリに釘付け。舞台に繋がれたロバが歌に合せるように鳴くと客席から笑いが起こる。
リリがウサギを抱き抱えて楽屋に引き上げる。クラリス(Agathe Bonitzer)が出迎える。素晴らしかったわ。ありがとう。実入りは良かった? ええ、花が引っ切り無し。ユリ? 軍人さん。将官? 中佐ってとこね。平和で昇進のチャンスが無いのよ。ラン? 頬の赤い可愛い男の子。実家暮らしだけど、あなたのためなら全てを抛つでしょうね。私のことを愛して、ゆくゆくは足蹴にするようになるわ。彼か母親が。もっと魅力的な申し出もあるわ。バラ? あなたのために衣装を届けてくれたの。今晩あなたに絶対に会いたいって。また? 今回は何かしら? 私を落としたいのね。リリがウサギをクラリスに渡して帽子を被る。彼には財力があるわ。私たちに必要なだけのものが。馬の鳴き真似をして、鎖帷子を身につけた王子(Pietro Ragusa)が現われた。攻撃準備完了。王子に伴われてリリが楽屋を出て行く。
顔にパックをしているリリがクラリスと表に出る。公爵夫人は酔いつぶれちゃって。また? そう。それで私たちは馬小屋へ行ったの。お別れの記念の品かと思って。馬を呉れたの? 彼は馬のミルクを味見させたかったの。ええっ! 見返りに最高の種馬をお強請りしたの。いいじゃない。それで彼が私にローマに来なさいって。2人は手に入れた馬を見に行く。
門を叩く音がする。クラリスが出ると少年がいた。何の用? イヴォンヌ・キュリエールさんはいますか? ここにはイヴォンヌっていう人はいないわ。私が対応するわ。馬を見ていたリリが門に向かい、クラリスを下がらせる。馬車からジャン(Sébastien Pouderoux)が降りてきた。ジャンは少年に小銭を握らせて立ち去らせる。見つけるのは訳なかったな。隠れてないもの。やつれたな。頬が痩けてる。母が亡くなったよ。それを伝えにわざわざパリに? 手紙で良かったのに。遺産を忘れてるだろ。引き継いでくれないと。母が亡くなっても面倒を見るとでも思ったのか? 娘は求婚者たちにも気に入られるさ。
リリは部屋から門を眺める。娘のティナ(Rafaëlle Sonneville-Caby)が馬車から苦労して降り、クラリスに布を被せられると手を引かれて入って来た。リリは動揺する。
クラリスが衣装を持って入ってくる。仕立屋が来てたの。すぐに知れ渡るわ。1週間もすれば新聞に載る。1週間の猶予ね。旅行の支度をするわ。
リリはティナを連れてクラリスとともにローマに向かう。
1900年。リリ・ダレンジ(Leïla Bekhti)はパリで歌手として人気を博していた。ところが知的障害のある娘ティナ(Rafaëlle Sonneville-Caby)の養育を任せていた義母が亡くなり、ジャン(Sébastien Pouderoux)に引き取らされる。隠し子はすぐに露見しリリから贔屓が離れることは疑いない。リリに熱をあげるイタリアの王子(Pietro Ragusa)からローマに誘われたことを渡りに船とパリを去った。リリは、ジュゼッペ・モンテサーノ(Raffaele Esposito)の知的障害児教育研究所にティナを厄介払いしようとする。現場を取り仕切るマリア・モンテッソーリ(Jasmine Trinca)から寄宿舎に空きがないと言われ、リリはティナを通所させる他無かった。マリアはイタリアで最初に大学で医学を学んだ女性の1人で、障害児教育の開発に無給で打ち込んでいた。母のように結婚で自由を失いたくないとジュゼッペと籍を入れなかったため、彼との間に出来たマリオの養育をローマ近郊にある農家のジョルジャ(Georgia Ives)に任せていた。私生児では世間体が悪いとジュゼッペはマリオの引き取りは頑なに拒絶した。ティナの通所に付き添ったリリが退屈凌ぎに弾いたピアノに児童たちは思い思いに身体を動かした。マリアとジュゼッペは音楽を教育に取り入れることにする。
(以下では、全篇の内容について言及する。)
歌手のリリ・ダレンジは経済力のある男性に依存して豊かな暮らしを謳歌している。ある日、娘のティナに障害があったためにリリを離縁したジャンが現われ、母が亡くなった以上養育できないとティナをリリに引き渡しに来た。パトロンを得るには私生児の存在は秘匿しなければならない。リリは自らの熱烈なファンである王子を頼りローマに移る。ジュゼッペ・モンテサーノの知的障害児教育研究所に預けようとするが寄宿舎に空きがないと、通所させることになった。リリは研究所に通ううち、献身的に障害児教育に当たるマリアに感化される。ピアノ演奏で障害児の教育にも貢献する。リリはマリアが無給であると知って衝撃を受け、裕福なベツィ(Nancy Huston)を紹介する。
マリアはジュゼッペとの結婚を頑なに拒否した。自らの母親が父親に従属し、満足に学業を行えなかったことから、結婚は女性にとって足枷にしかならないと見抜いていたのだ。ジュゼッペは私生児は体裁が悪いのでマリオを引き取ることはできないと言う。
マリアは大学で女子学生を相手に講義をする機会を得る。知識は罪深いことではなく、女性は学びにより無知から解放されるべきだと論じる。女性は生・性・死を知っており、むしろ社会は母性を基盤に構築されるべきだと訴える。マリアは女子学生に対して人体解剖を行い物議を醸す。マリアが男性社会にメスを入れたことを暗示する。
障害のある子供たちがジュゼッペの研究所の入所者を演じることで、子供たちが様々な課題をクリアし、あるいは思いのままに振る舞う姿が活写されている。