可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 六無個展『墨彩画展』

展覧会『六無 墨彩画展』を干渉しての備忘録
Oギャラリーにて、2025年4月28日~5月4日。

戯画のような趣の人物、動物、昆虫、あるいは化石を、蛍光色に近い鮮やかな色を差した山水図に動的に表わす、六無(ろくない)の個展。

《漁師と犬》(500mm×2910mm)は網干のよう峰の連なりを背にした水辺の森を描いた墨絵。木々の表現などに図案化が認められる。画面左端前景にはシーソーのように傾く舟に棹をさす漁師と2匹の犬が乗る。1人と2匹の姿は渦巻く描線でデフォルメされ戯画的である。擦れなどにより装われる経年変化は、画面右端に集中して押される数々の落款印により強調される。何より目を惹くのは、古めかした作品をポップに引き立てる、浅葱色の短冊(方形)である。長さや幅の異なる「短冊」は尾根に沿って並ぶ。尾根に沿うと言っても高低に比例するのではなく峰の辺りでは低い位置に押し込まれ、恰も尾根とハーモニーを奏でるかのようだ。画面左端は浅葱色で塗り込められ、「短冊」の色の連続により漁師と犬に視線を誘導する。
《漁楽図》(455mm×650mm)では、図案化された松に覆われた崖が左右に配され、それぞれから激しく浅葱色の水が噴き出す。渓谷を行く舟に立つ漁師が銛を鋭く投げ、それに驚いた9匹の魚が跳ね上がる。水、人物、魚の誇張された表現は漫画の一齣のようだ。
《すばらしい草》(1000mm×650mm)は蛍光色に近い黄緑で叢のある地に、5本の根と5本の茎とを持つ草の図。草は激しく回転していることが青の曲線により示され、
草の上方には1匹の蜘蛛、草の周囲には3匹の蓑虫が吹き飛ばされながらも糸で草に結び付いて離れない。根の周囲には2匹のケラが潜む。虫たちは丸い目を持つ漫画のキャラクターのようである。《すばらしい木》(1455mm×895mm)には青緑の地に2本の木の幹が捻れて伸びる姿が地中に伸びる根も含めて表される。捻る運動を表すS字状の青い線が木の上から斜めに重ねられる。営巣する雀(?)が飛び、駆け回る栗鼠が跳ねる。木の根には土竜や狸の姿がある。《つむじ風の図》(653mm×1000mm)では蜻蛉や枯れ葉を巻き上げる2つの渦が丸い犬(?)の毛を渦状に靡かせ、リズミカルな画面となっている。《水煙図》(910mm×730mm)では渦が薇のように上方に上がっていく。《掬水図》(1455mm×300mm)では両手で掬った水に月が映り、その周囲に渦が生じている。手からこぼれ落ちる水は勾玉のようでもある。
《明月図》(300mm×910mm)は珍しい楕円の画面をくすんだ黄色で塗り、山の連なりの周囲を14の球体が取り囲む。個々の球体には月の満ち欠けが表してある。J字状の赤い線2本を以て回転運動の効果線としている。黄色い楕円の画面自体が15個目の球体、すなわち満月なのであろう。
猿猴図》(500mm×730mm)では、若松の生える円錐に近い形の2つの山が伸び上がり、あるいは縮み沈むと同時に、2つの山を谷(山を裏返した形)が繋ぐ。林檎のような木の実が舞う中、10頭の猿猴空中ブランコを摑むようにぶら下がる。
《青色の掟》(910mm×3510mm)や《山水図》(455mm×650mm)では横方向の線により地層が表され、魚や貝、あるいは鹿など動物の骨(化石)が配される。目に見える地上の存在を支える地下の有り様にも思いを致すよう迫る。他の動きのある作品に比べると静謐な印象を受けるが、地質学的なスケールにより大地を剛体としてでではなく流動的に捉えているのかもしれない。
木で作った円錐などに描画した「仮山」シリーズ、先史時代の装身具である勾玉などを想起させる、考古遺物樹脂粘土による《蛇》も併せて陳列されている。
強いて譬えれば、墨彩画の立石大河亞であろうか。確かな技術で山水図の古画を装いつつ、デフォルメされたキャラクターや動きを伝える鮮やかな効果線など現代的で漫画的な表現を鏤め、独自の世界を起ち上げた作品群は一見して忘れ難く、かつ見飽きない。