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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 髙橋銑個展『条痕板/Streak Plate』

展覧会『髙橋銑「条痕板/Streak Plate」』を鑑賞しての備忘録
Otherwise Galleryにて、2025年4月25日~5月31日。

鉄や銅の破片を大理石の板に取り付け、腐食液の効果により鉄錆や緑青を大理石の表面に流れさせたレリーフ状の「条痕板」シリーズ8点と関連作品・資料とで構成される髙橋銑の個展。

《条痕板 No.4》(414mm×318mm×45mm)の大理石板には、4辺のうち唯一凸凹した上端に鉄の断片が取り付けられている。鉄に腐食液を掛けられ、鉄錆を含む液体が白と灰色の斑の平滑な表面を垂れ落ち、4本の条のうち2本は下端に達する。《条痕板 No.3》(405mm×317mm×54mm)は、上部に取り付けた鉄が小さいのと、大理石板に画面をほぼ4等分する十字の線が刻まれている点で異なる。鉄に掛けられた腐食液は真っ直ぐ垂れ落ちるとともに中央で溜まり、左右に拡がって、また線に沿って真下に落ちる。
《条痕板 No.7》(380mm×482mm×50mm)と《条痕板 No.8》(381mm×467mm×49mm)は《条痕板 No.4》・《条痕板 No.3》に比べ灰色が優った大理石板に長方形の銅板を貼り付け、腐食液を掛けてある。《条痕板 No.7》の大理石板は左下に欠けがあり、右上の角に腐食した銅版がその欠けに向かうように左に傾けて接着され、左下の角から真っ直ぐに緑青が垂れる。《条痕板 No.8》の大理石板は直線で切り出され、中央にやや右に傾けて銅板が取り付けてある。銅板の周囲は二回りほど大きい長方形に削られて白くなり、液垂れはほどんとない。
展示空間に入った際に正面に位置する《条痕板 No.11》(1200mm×600mm×148mm)は、大理石板の背に木の板が取り付けてある点で他の作品と異なる。木の板より二回りほど小さい大理石板は白味が強く、微細な波線が縦に幾条も走る。大理石板の上端中央から、垂直に彫られた筋を通って流れ落ちる茶色い線が大理石の波線と対照をなす。
鉄錆の赤は血液であり生物としての人間を、赤の補色的な色味の緑青は、銅銭(貨幣)や銅線(電話回線)など物や情報を媒介するものとして社会的人間を表すものと解される。なおかつ鉄錆や緑青は腐食液により人工的に短時間で発生させたものである。それに対し、大理石(石灰岩)は生物の遺骸など炭酸カルシウムの堆積により何億年もの歳月をかけて形成されている。大理石もまた生物であり人間と連続(streak)しているのである。そのことに気付くとき、《条痕板 No.11》の震える線に生命を感じずにはいられない。