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芸術鑑賞の備忘録

展覧会『九州派イン東京地方 第1期「齊藤秀三郎の軌跡」』

展覧会『九州派イン東京地方 第1期「齊藤秀三郎の軌跡」』
Mikke Galleryにて、2025年4月27日~5月4日。

桜井孝身をリーダーとして1950年代中庸から1960年代にかけて活動した前衛美術集団「九州派」を取り上げる企画(キュレーションは山口洋三)。2期構成の第1期では、九州派のメンバーだった齊藤秀三郎について、代表作であるキャベツをモティーフとした銅版画を中心に展観する。

《無題》(970mm×1303mm)(1965-70)は黒、茶、朱、白の絵具を幅の広めの絵筆で荒々しく塗り付けた、作家の動作を感じさせる作品。《無題》(1167mm×910mm)(1967-70)は白く塗り込めた画面に赤を中心紫、青、茶、黄などの配されている。よく見ると文字や数字などが描き込まれている(転写されている?)のが分かる。《輝くハート(分析的)》(1968)は5という数字を囲うように青い線で描いたハートを描いた下段と、ハートに手形を押した左上の部分、青、黄、赤などで塗り分けた右上の部分で構成されている。《実験》(1455mm×1200mm)(1970頃)は、下半身に機械が接合された類人が浴槽のような箱の中に仰向けになっっている姿が上下に描かれる。作家の身体の運動を画面に定着させた作品、文字や数字あるいは記号を導入した読み解きを誘う抽象画から、具体的なイメージの組み合わせによる文明批評へと展開している。
展示室の入口にキャベツの葉を描いた《作品8401》(1984)が展示されている。作家は1984年から銅版画に着手したと言い、そのタイトルから嚆矢となった作品らしい。キャベツは以降、作家にとって主たるモティーフとなる。本展でも大半はキャベツを描いた銅版画(メゾチント)である。《作品8401》は言わば作家の名刺代わりであったのだ。キャベツを描いた作品のほとんどに自動車などの機械部品が組み合わされている。《作品9002(ハート)》(490mm×390mm)(1990)などタイトルから明らかなように、パイプや配線が大小の血管として心臓(heart)に見立てられている。《実験》の猿と機械のように、キャベツと機械によってサイボーグ化する人間を諷刺するのである。心臓はともかく、脳のほとんどは既にスマートフォンに代替されてしまっているのである。メゾチントの漆黒は静謐で、《作品9202》(680mm×690mm)(1992)の円形の枠組みの絡め取られたキャベツは宇宙に浮かぶ地球のようだ。人間がサイボーグ化しただけではない。地球もまた人工的な環境に変じてしまった。人口に膾炙する前から「人新世(Anthropocene)」を直観していたのである。版画ではなく、アクリル絵具による近作《作品2501》(750mm×910mm)や《作品2502》(780mm×850mm)でもキャベツと機械の組み合わせである。もっとも、キャベツの葉も、周囲(図に対する地)もメタリックな灰色となり、もはや自然というものが幻想であることが示されている。102歳の現役作家、畏るべし。