展覧会『滝本優美個展』を鑑賞しての備忘録
GALLERY KLYUCHにて、2025年5月24日~6月1日。
パレットナイフでややくすんだ色味の絵具を重ねた抽象絵画11点で構成される、滝本優美の個展。
キーヴィジュアル《stay on》(910mm×727mm)は、画面の大部分をくすんだ青緑が占めている。表面は平滑ではなく絵具が寄って盛り上がった部分、罅割れた部分がある他、パレットナイフを動かした方向によって明るく白んだ部分と暗い濃い色の部分とがある。縁はクリーム色の占める部分がほとんどで、右下の角は"」"状に灰色が配される。左上には青緑色とクリーム色との間に赤みがかったベージュが差し色のように組み込まれている。くすみながらも暗くない青緑には、その凹凸のある絵肌にも拘わらず清涼感があり、淡く渋い色調で統一された画面には落ち着きが感じられる。それが題名"stay on"の由来であろう。他方、色の面同士の隙間からは所々で覗くオレンジなどは、変化のためのエネルギーとなり、画面に活力を与えている。
《stay on》の向かいに位置するのが、やはり画面の大部分をくすんだ青緑が支配する《combine》(273mm×220mm)。上端に鉤括弧状にクリーム色、右下の脇を灰色、下端右側を水色が占める。左下に青丹あるいは岩井茶が覗く。《stay on》よりも小画面ながら、クリーム色の絵具を横方向に押し拡げる動き、あるいは青緑が画面下端から食み出していることなどからより運動を感じさせる。
《playground》(606mm×606mm)は、クリーム色を左下に"L"字状に配し、それと組み合わせるように中央に卵色を置き、上端と右端には鶯色を塗る。パズルのような組み合わせ方から"playground"と名付けることになったのであろうか。あるいは画面右上や右下などに貫入する灰色や、クリーム色の面に穿たれた穴から覗く灰色とクリーム色に遊び心があるからだろうか。色面の間から僅かに見える藍色や赤が表情を豊かにしている。
《wrap》(606mm×606mm)は、中心にある梅幸茶が画面の大部分を占め、その周囲に濃紺、群青色、クリーム色などが取り巻く。梅幸茶は《seam》(180mm×140mm)でも白と画面を二分している。
以上5点の緑系を中心とした絵画が展示作品に統一感を与えている。
会場の一角には、。ジョルジョ・デ・キリコ(Giorgio de Chirico)の形而上絵画に登場する石造建築のアーチを連想させる、灰色の板をアーチ状に穿ったアルコーブのような部分がある。そこには《setack》、《stiff》、《enfold》といういずれもF0号(180mm×140mm)の作品が並べられる。穴の存在は認識可能ながら、穴そのものは物ではない。複数の色面の配置のバランスにより図と地の関係を曖昧にし、画面から食み出す絵具によりイメージと物質との関係を曖昧にする絵画は、形而上学をテーマにした絵画と言える。それらの作品が謎の神殿に奉納されるかのようだ。