可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

映画『見える子ちゃん』

映画『見える子ちゃん』を鑑賞しての備忘録
2025年製作の日本映画。
98分。
監督・脚本は、中村義洋
原作は、泉朝樹の漫画『見える子ちゃん』。
企画は、二木大介。
撮影は、川島周。
照明は、本間大海。
録音は、小川武
美術は、久渡明日香。
装飾は、大熊雄己。
衣装は、宮本茉莉。
ヘアメイクは、田中マリ子と梅原さとこ。
編集は、松竹利郎。
音楽は、提博明。

 

2年C組の教室では、学級委員長の百合川ハナ(久間田琳加)の司会で、学級会が開かれている。議題は第2回茶臼祭での演し物。副委員長の四谷みこ(原菜乃華)が提案されたチュロス、たこやき、お化け屋敷、ダンス、縁日とそれぞれの票数を黒板に書き出した。得票の多かったダンスと縁日で決選投票を行うことに。みこが数えると、15票ずつだった。本当にダンスでいいの? 縁日って浴衣着たいだけでしょ。生徒が言い合っていると、身重の荒井先生(堀田茜)が口を挟む。ちょっと待った。1人多いんだけど。今日1人休みだから29人。みこ、ちゃんと見て数えて。ごめん。ダンスの人! みことハナが一緒に挙手する生徒を数える。15人。縁日の人! みこは15人と数えるが、ハナは14人だった。何で? 恐っ! みこには休みの生徒の席に生徒の姿が見えていた。…本当に29人ですか? 小川さん、休んでるから。ザワザワする教室。静かにして下さい! 縁日の人、もう1回手を挙げて! みこにはやはり1人多く見えた。…14だよ、14。みこが浮かない表情で言う。ダンスになりましたとハナが宣言する。みんないい、と新井先生が引き受けて生徒に話しかける。何をするかが重要なんじゃないの。大事なのは団結、クラスの輪なのよ。
バス。後方の座席に坐ったみこはスマホで、霊、見える、で検索する。表示結果は幻覚だとか脳の誤解だとかいった類。近くの席で大声で通話する他校の女子生徒がいた。みこは彼女の前方に後ろを振り返る女性の姿がぼんやりと見えて動揺し、涙目になった。電話していた生徒はみこの視線に気付き、泣いているのを見て思わず電話を切った。
みこは公園のベンチに坐り、スマホで動画を眺めている。幽霊が見えるようになったらどうすればいいんですか? 司会の問い掛けに専門家らしき男が答える。大したことないですよ。思い切り怒鳴りつければいいんです。いい加減にしろ! ふざけんな! なめんじゃねえ! なんて言うのがいいんじゃないですか。
みこが自宅の傍まで来たときには既に辺りは薄暗くなっていた。電信柱の献花の前に黄色い帽子を被った園児の霊が見えてしまった。みこは通り過ぎる際に、思い切って叫ぶ。なめんじゃねえ! すると男の子の霊が言い返してきた。ナメルナ! みこは悲鳴をあげて駆け出す。男の子はみこの後を追ってきた。自宅の門を潜ると、みこは転んでしまう。どうした? 突然現われた父の真守(滝藤賢一)に驚き、みこは悲鳴をあげる。
みこが玄関を開けると、弟の恭介(川原瑛都)がバットを構えて駆け付けた。どうした、姉ちゃん? ちょっと転んだだけ。軽いんだよ。ダイエットのしすぎだな。父が言う。
怒鳴りつけるのは一番駄目です。逆上させると後をついて来ますから。台所で料理をしながらみこが霊の対処法についての別の動画を見ると、無視して見えてないふりをするよう助言していた。食卓では父親と恭介がテレビを見ている。テレビの前には黄色い帽子を被った男の子が立っていた。ただいま。母の透子(高岡早紀)が帰って来る。ご飯、食べれるよ。唐揚げなんだ。疲れた表情の母は不満を示す。弟はテレビに夢中でみこが差し出したマヨネーズを受け取らない。部屋に霊のいる状況に加え、母親から料理に文句を言われ、弟に無視される状況にみこも気が立つ。恭介、マヨ! みこはテーブルにマヨネーズを叩き付ける。ちょっと、返事しなさいよ。父親が恭介に言う。ありがとう。冷蔵庫のプリン、お姉ちゃんの? 名前書いておかないと食べられちゃうよ。大喧嘩したもんね。去年のこと蒸し返すなよ。

 

群馬県。県立高校に通う四谷みこ(原菜乃華)は2年C組で学級副委員長を務める。親友の百合川ハナ(久間田琳加)が学級委員長だ。学級会で茶臼祭の演し物を話し合い、ダンス発表と縁日企画とで決選投票をした際、15票ずつで割れた。だが担任の荒井先生(堀田茜)から休みの生徒がいるから29票になるはずと指摘される。みこがハナと数え直すと、みこには霊が見えていて1人余計に数えていたことが分かる。帰りのバスの車中でも霊を目にしたみこはネットの情報を鵜呑みにして、自宅附近にいた園児の霊に怒鳴りつけ家に連れ帰ってしまう。みこの悲鳴を耳にした父・真守(滝藤賢一)や弟・恭介(川原瑛都)に心配される。17年ぶりに働きに出るようになった母の透子(高岡早紀)は疲れて帰宅して、ハナの用意した食事にも不満を漏らす。翌日、みこはハナの右肩に手が取り憑いているのに気が付く。親戚に不幸があり葬儀に行ったという。ハナは食欲が異常に旺盛になる。みこの霊視能力に気付いた生徒会長・権藤昭生(山下幸輝)から、かつて学園祭の最中に50名もの人たちが犠牲になった土砂崩れがあり、学園祭の時期には地縛霊が活発になると告げられる。写真部の二暮堂ユリア(なえなの)はハナの除霊目的でみこたちに接触するが、ハナは心霊話を極度に嫌い寄せ付けない。みこはハナに運気をアップさせようと神社に誘い、ハナに憑いた右手を祓う。荒井先生が予定より早く産気付き、遠野先生(京本大我)が急遽担任を代行することになった。美男の先生に色めきだつ生徒たち。ハナは遠野先生に頻繁に会いに行くようになる。

霊視能力を身に付けてしまった四谷みこが、霊に取り憑かれ苦しめられる百合川ハナを救おうと、奮闘する。恐怖心を喚起する描写や演出はかなり控え目になっており、ホラー映画が苦手な人でも問題なく鑑賞できるだろう。

(以下では、全篇の内容について言及する。)

二暮堂ユリアは幼い頃から霊視能力があるが、周囲からはかまってちゃんと煙たがられてきた。ユリアの能力の発現は両親を交通事故で失ったことが原因だ。死別した者に対する執着が能力を開花させたのだ。霊視能力は両親を失った孤独感のメタファーでもある。
四谷みこは霊視能力を得てしまう。だが、霊が見えるようになったことは決して口外しない。まして親友の百合川ハナは心霊現象の類を嫌っているので、打ち明けることができない。ハナは霊に取り憑かれやすいタイプで、遠野先生に好意を抱いてから強力な悪霊に悩まされる。遠野先生の母親(吉井怜)が息子に近付く女性に嫉妬し呪うのだ。遠藤先生のマザーコンプレックスは、母親から受けた規律訓練により、母親の眼差しを内面化させたものと言える。遠藤先生の霊は母親の眼差しのメタファーである。また、遠藤先生とハナとの関係は、教師と生徒との恋愛というタブーを表象するものでもある。
何故みこは霊視能力を得たのか。その点が本作の肝である。
ホラーのスタイルで語られるのは、端的に言えば、愛である。愛の対象がその場に存在しないとき、あるいは実体を有しないとき、対象は想起により顕現するために、むしろ遍在化する。
2年C組は茶臼祭にお化け屋敷で参加する。ホラー映画内で生徒たちが幽霊などを演じる、入れ籠の関係になっている。
クロージング・クレジットのダンスは、死者の供養の意味合いもあろう(一種の盆踊り)。
映画自体が幻影であり、映画と心霊現象との相性は良い。