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芸術鑑賞の備忘録

展覧会 ジェイリン祝重個展『ASLEEP AMID THE FLOWERS』

展覧会『ジェイリン祝重初個展「ASLEEP AMID THE FLOWERS」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY b.TOKYOにて、2025年6月2日~7日。

ジェイリン祝重の絵画展。

《The Little Donkey》(1727mm×910mm)は、紺色の地に金色の花を表わした壁を背景に、背に赤い傘を差したロバの姿を表わす作品。宝石や房飾りなどで飾られたロバは草地の上に立ち、周囲を花や木々が囲む。《Blackbuck》(455mm×380mm)は黄緑の花頭窓から姿を現わすインドカモシカを描く作品。インドカモシカの特徴的な角にペンダントが掛けられ、首には金の飾りが嵌められている。周囲を花々が飾る。豊かな装飾と屋内外の曖昧な状況を描くのが作家の特徴で、《We are all under the same stars》(1620mm×1300mm)では、寝椅子に座るピンク色の龍とその脇で赤い絨毯に坐る犬とが見つめ合う姿を描かれるが、周囲を様々な鉢植えの植物が飾り、植物文様を施した黄緑の壁の外には満天の星空が拡がる。

《Parasaurolophus》(318mm×410mm)は、台上のガラスケースの中にパラサウロロフス(Parasaurolophus)を捉えた女性の胸像。同様に、《Therizinosaurus》(318mm×410mm)は、テリジノサウルス(Therizinosaurus)の入ったガラスケースを手で抑える女性の胸像である。右向きか左向きか、ケースを抑えるのが右手か左手か、緑の背景に赤い台と赤い背景に緑の台など、差異はあるが対の作品である。白亜紀に存在した恐竜は、残された痕跡から世界を起ち上げる想像力の象徴であろう。星空(宇宙)に浮かぶ断片かした土地の上にいる翼竜を描く《pterodactyl》(273mm×220mm)は、時間感覚を地質学的スケールから天文学的スケールへと拡大し、人間の延いては生物の刹那的性格を浮き彫りにして、人間と恐竜とを同時代的に捉えさせる。

第3に、作家は、山羊と魚のキメラを描く《capricorn》(273mm×220mm)ように、別々のモティーフを組み合わせることで生まれる効果を追究している。

《Daydream》(1300×1620mm)は、浴室で獣足の浴槽に浸かる人魚を描いた作品。豊かな黒い縮れ毛を持つ人魚は、青い鱗で覆われた下半身を浴槽から出している。浴槽の周囲には籐籠、鉢植え、織物のバスマットなどが置かれる。浴槽の左側は、下側に緑のタイルなどを貼った緑色の壁で、水道栓とシャワーが取り付けてある。正面は花唐草の模様の描かれたピンク色の壁で、花頭窓は孔雀を描いた扉で閉ざされている。天井から吊された鉢植えや鳥籠が右上に覗く。華やかな装飾や鉢植えの植物はやや暗めの色合いにより落ち着いた雰囲気を醸す。面白いのは床の近くを魚たちが泳ぎ廻ることだ。閉ざされた浴室は海中でもある。ここで、浴槽の表面は焼いた箔(?)により古びた表現になっている点に注目したい。古い浴槽を支えるのは別途取り付けられたと思しき、金色に輝く獣足である。古い浴槽に別のモティーフを組み合わせることで、人と魚とを結び合わせた人魚のいる浴室を生み出している。人魚の姿勢は、ジャック=ルイ・ダヴィッド(Jacques-Louis David)の《レカミエ夫人の肖像(Portrait de madame Récamier)》(1800)に通じるとも言える。ならば、同作とそのパロディー――レカミエ夫人を棺桶に置換した――であるルネ・マグリット(René Magritte)の《遠近法:ダヴィッドによるレカミエ夫人(Perspective : Madame Récamier par David)》(1951)から、人魚と古い浴槽へと展開させたとも解釈できる作品である。レカミエ夫人2作で印象的な、垂れ下がる白いドレスは、浴槽の縁に掛けられた紺色のタオルによって水へと転換し、溢れる想像力が浴室に魚を泳がせる。その水は宇宙へと連なっているに違いない。