可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 菅野由美子個展『Boundary Crossing』

展覧会『菅野由美子作品集「もうひとつの空」出版記念展―Boundary Crossing―』を鑑賞しての備忘録
ギャルリー東京ユマニテにて、2025年6月30日~7月19日。

神殿や博物館を想起させる建築空間に配した骨董の器を描いた近作12点(2024-2025)で構成される、菅野由美子の個展。個々の画題は、登場する器が1種類なら「one」、2種類なら「two」…と定められている。同じ器の角度の違えた複数のイメージが表わされている場合でも「one」となる。

《five_17》(273mm×910mm)には、クリーム色の台上に、5点の器が一列に並ぶ。左から順に、底から口縁に向かい拡がる持ち手付きの赤いマグカップ、抽象化された植物文様が胴に現わされたガラスの盃、青い線がアクセントの陶製の白い蓋物、球状の摘まみの付いた小さな蓋付きの陶器の小壺、赤・青・黄の水玉模様の白い陶製の水差である。一見何の変哲もない静物画だが、左の2点と右端の器が右奥に影を伸ばすのに対し、中央とその右隣の器は左奥側に影がある。影の異なる2点の部分だけ背後に台と近い色の壁がなく闇が拡がっているのも、差異を強調するためだろう。
ピンク色の拾い卓(?)に染付の壺や茶碗、水差などが置かれた《nine_3》(1167mm×1167mm)においても、影の向きが異なっている。奥の闇に浮いているようなティーポットだけは真横から描かれ、卓上にあるその他8つの器は全てやや上方からの角度で描かれ、組み合わされている。すなわち一点透視図法ではない。影、浮遊、複数視点の合成が非現実感を生むのである。
《one_45》(915mm×337mm)では、灰青の台に置かれた、胴にオリーヴの描かれたクリーム色の油差しを別角度から描いた2つのイメージが上下に配されている。上側のイメージは、首に"Olio"と記され、5つの実が付いたオリーヴの枝葉が描かれた表が正面を向いて窓台の角近くに置かれ、右手前から光を浴び、背後には闇が拡がる。下側は実が1つ付いたオリーヴの枝葉を見え、壁は右奥に伸び、背後は壁面に覆われている。同じモティーフを単に別角度から捉えたのであれば、相互に壁の存在により見えない構造が敢て選ばれて描かれている。
《one_41》(456mm×333mm)では、白いティーポットが黄土色の台に載せられている。だがイメージは、上部に蓋の部分、先端部に注ぎ口の部分のイメージが重ねられている。それらは同じ器のイメージでありながら、把手の曲り具合や注ぎ口の形が異なり、それぞれの縦横比が違えられている。すると、段差の付いた棚も立体感を現わす陰影が非現実的な平面へと歪んでいくようである。
《one_44》(728mm×728mm)では、一見すると、クリーム色に褐色の幾何学模様が遇われた壺が、灰青の台座に置かれている。だが周囲の台座とはズレており、横方向に扁平したイメージを後から貼り付けたように表わされている。台座の奥の闇には切れ込みの窓があり、積乱雲のような雲が青い空を背景に除く。《two_31》(1167mm×1167mm)では、台座が象牙色となり、白い把手の付いた器とガラスの花器と2つの器を描いているが、器のイメージは貼り付けられたように台座の空間と別であり、また奥の闇の中に雲が覗く開口部がある点で共通する。空(そら)の見える開口部の存在により、器のある空間が入れ籠の構造となっていることが示される。同時に、空(そら)に描かれた雲は移ろいやすい存在の象徴であり、空(くう)を表現する作品ではないか。色即是空である。