可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 小橋陽介個展『NEW BALANCE』

展覧会『小橋陽介個展「NEW BALANCE」』を鑑賞しての備忘録
GALLERY MoMo Ryogokuにて、2025年6月21日~7月12日。

裸体男性、犬、イルカ、ボール、植物などをモティーフに、バランスを主題とした絵画で構成される、小橋陽介の個展。

NEW BALANCE》(1620mm×1303mm)は、画面を4つの矩形に区分けし、それぞれに異なるモティーフが描かれた作品。右下には断崖の突端から身を乗り出し風に吹かれる人物が描かれ、"NEW BALANCE"と書き込まれている(なお、《NEW BALANCE》右側の壁面には、木片の端に風に吹かれる人物を描いた紙を貼り付けた立体作品《Becoming Balance》が設置される)。画面右上には裸の男性の下半身とイルカ、画面左下には海と男性の上半身を蔓状の植物とともに、画面左上には左手の人差指の先で回転する水で出来た球体が配される。植物の生長(2本の蔓により繰り返し)、寄せては返す波、地球(水で出来た球体)の自転、摂取と排泄(人間の上半身と下半身)と、生命のメタファーである水の循環が象徴される。4つのイメージの間は茶色で塗り込まれ、赤、青、緑、黄、オレンジの円、三角形、四角形がところどころに配される。絵画を構成する4つのイメージ相互が幾何学図形に象徴される緩衝材によって微妙な距離を保つことで共存していることが示される。すなわち、次の瞬間にはバランスが崩れてしまうが、それでもまた新たな均衡が生まれること、平衡状態は動的に保たれることを訴えるのである。
《Good Balance》(1620mm×1303mm)は、3つの矩形に画面が区分され、大小の円の詰め込まれるように描かれた部分と三角形の列の層により構成される部分とが、男性が寝そべる部分を支えるように配される。イメージ相互間には大小の赤い円の緩衝材が埋め込むように入れ、やはり動的な均衡が示される。
《手の動き》(1620mm×1303mm)では、画面中央に海にいる人物の離反と和合とを配しつつ、4つに分けられた画面ではそれぞれ手が引っ掻いて世界を改変していく様が描かれる。動的な世界観である。
草に覆われた地面を描く《Green grass》(445mm×416mm)は、地面に草が生え、成長していく中で、相互の草の間でバランスが図られていく。極めて身近な動的な均衡状態の例として、描かれたのではないか。
キー・ヴィジュアル《self-portrait 298》(1620mm×1303mm)は海岸に立つ作家の自画像である。画面の7割は石ころの転がる砂浜を黄色の明暗で、片身替のように上部の残り3割を灰色の海と緑の雲が浮かぶピンクの空とが占める。明暗の対照であるとともに変化でもある。作家は両手を挙げて正面を向いて立つ姿に加え、右から左方向へ歩いて行く姿と、俯いて右脚を前に大きく踏み出す姿とが、異時同図的に表わされる。現在には常に過去と未来とが存在することを示すのだろう。注目すべきは、「片身替」が作者の上半身と下半身とを切断し、連続していない点だ。今という瞬間は過去と未来とは切り離されている。その断絶を表わす。それと同時に、切断にも拘わらず、今は過去と未来と接続する。意識に上ることのない切断と接続の離れ業を平然とやってのける日常。それを支えるのもまた、動的な平衡状態なのだ。

《Dog balance》(1940mm×970mm)は、犬の入った籠と、それを支え、あるいは吊り下げる装置を描いた作品。車輪に支えられた台座に載る正三角形の三角形の頂点に犬の入った籠が位置し、その籠は犬の頭部によって吊されてもいる。犬の頭は斜めの天秤棒のようなものに5つ連なり、下に下がる左端の頭からはさらに7つの頭が真下に連続し、右端の頭からはさらに3つの頭が繋がる。さらに「天秤棒」の左側には猫が、右側には馬(?)が配されている。15の犬の頭部には水色の線で結ばれ、さらに画面下端では犬の頭部のない部分にも真横に伸び、円と星とによって支えられている。《Dog balance》の左右には5点ずつ、それぞれ異なる色で犬の頭部を描いた「Dog」シリーズ(各273mm×220mm)が横一列に並ぶ。《Dog balance》の天秤棒の両端の位置に合わせ、左側の5点の方が低い位置に配されている。
《Open legs(Open your heart)》(1940mm×970mm)は、脚をM字に開いて腰を降ろした裸体男性をバスケットボールとともに表わした作品。ショッキングピンクの画面の上部に水色の正方形を字に、脚をM字に開いた裸体の男性が配される。胴部には山吹色の正方形の中に心臓のイメージが重ねられ、その上から男性の顔が覗く。腕の表現はない。左右の膝の上には青地に赤い斜線の正方形が置かれ、左右の足の裏にはバスケットボールが接する。バスケットボールは画面下部のピンクの領域にも、左右に5個ずつ縦に連ねて並べられる。《Open legs(Open your heart)》の下には、バスケットボール、あるいは野球のボールを模した円盤に絵画を貼り付けた作品が壁に立て掛けられている。「バスケットボール」4点のうち1点は《Open legs(Open your heart)》に比較的近いイメージだが、心臓は描かれず、男性は別の男性の陰茎に肛門を貫かれている(他の3点は、それぞれ2人の男性、野菜、犬がモティーフ)。
《Dog balance》や《Open legs(Open your heart)》は、画面内の個々のモティーフのバランスを超えて、他の絵画とのバランスをも図る、インスタレーションを構成する。

「On symbol」シリーズや、《イルカの滝》(1620mm×1303mm)には肛門性交が描かれる。《Wind In》(333mm×242mm)には森の中で男性が四つん這いで肛門を晒す姿が表わされる。肛門は、女性器とは異なり、口腔から腸へ連続する消化器系の出口である。人間が消化器系という管であることを認識させる。そして、肛門性交は、その出口を入口として反転させる。作家は、その反転の力に期待しているのではないか。肛門を男性器で貫かれるという受動は、男根を腸が呑み込む能動でもある。新しい均衡状態のための、現在の均衡状態を突き破る突破口は、そのような反転の発想にこそあると。

絵画を鑑賞する者は、絵画に見られ、呑み込まれる。