可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 本多翠個展『bloom』

展覧会『本多翠展「bloom」』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2025年7月15日~20日

切り絵のように抽象化した植物などのモティーフを鮮やかな色味で厚みのある木枠に張ったキャンヴァスに描き出した作品、渋みのある色の布を繋いだ画面に植物などのモティーフを縫い合わせた作品、及び絵画のモティーフを立体化した焼物から成る、本多翠の個展。

《fledging》(225mm×180mn)は、レモン色のテーブル上のサボテンの鉢植えや花瓶などを表わした作品。画面下半分が卓で、左側に肘を曲げ手を持ち上げるような格好の緑のサボテンが白い花器に植えられている。右側には卓の奥側に壺が置かれる他、手鎌に向かって、淡い藍色の影、群青のギザギザ、ピンクの格子などが配される。画面の上半分は片身代わりのように、藍・青・水色といった青系統のパッチワークのようなイメージとなっている。右側にはCEマークの"E"のような形、左手には星が淡いピンクで浮き上がる。切り絵のように単純化した形、平面的な描法、テキスタイルを連想させるイメージの挿入など、アンリ・マティス(Henri Matisse)の作品を連想させる(因みに、赤い背景に白い花瓶に活けられた様々な花を活けた《A vase in red》(370mm×290mm)、あるいは円卓、花瓶の花、星空の窓を自在に配し、側面の画布の月の満ち欠けも楽しい《moonlight magic》(300mm×220mm)などは切り絵タイプとは異なるマティス好みの作品である)。キャンヴァスは厚みのある木枠に張られ、正面から上下左右にも絵が拡がっていく。なお、本作品中の「サボテン」は、画面の上下を繋ぐ働きをしている他、灰白色の陶器《portrait no.1》(80mm×35mm×100mm)に立体化されることで、画面の内外をも接続している。
《summer breeze》(250mm×400mm)は、画面右側に黒地に青い水玉模様の布の上に花瓶、長靴、サボテンが配され、それらに迫るように画面左側から深い緑の植物が先をくるっと巻いた枝を伸ばす。画面左側に縦に伸びる帯状の緑色の上には水色の菱形を連ねた装飾が重ねられ、画面手前に暗い寒色系の色が集められている。それに対し、画面奥側は屋外か、日差しを浴びた芝生や池や木立、さらには青空のイメージが拡がる。広重の《名所江戸百景 亀戸梅屋舗》の画面手前を覆う梅の木ほど大胆ではないが、枝先の巻いた植物が躍り出ることで屋内外や明暗といった2つの世界を貫き、風を呼び込む。
《greeting》(180mm×225mm)の画面左側には、レモン色に赤い十字が並ぶ布の上に置かれた緑の花瓶が配される。「布」の下側にはピアノ鍵盤のような白と黒の縞がある。画面右側には花を付けた植物や輪を連ねるような蔓、"w"型の花が水色、エメラルドグリーン、うぐいす色のパッチワークの中に散らばる。画面上端はピンク色の帯に白味のある群青の菱形が連なる。本作品中の"w"型の花は茶色の陶器《portrait no.6》(100mm×40mm×65mm)に仕立てられている。
《good thing》(370mm×560mm)には、ピンクにオレンジの菱形並ぶ布の上に黄色い花を咲かせる青い植物(?)を主たるモティーフとして、ピンクや白、あるいはオレンジの花(?)、黄にピンクの格子の布の上に鶯色の器(?)などが配される。レモン色の比率が高い画面で、6本の腕を持つような青い「植物」が引き立てられる。ところどころに挿入される弧や輪の線は、ピンクやオレンジの「花」と呼応して、青い「植物」を踊らせるようだ。
《Blankets on the Grass》(600mm×750mm)は、オレンジ、黄土色、折れ線を連ねたピンク、青緑と緑の縞などのパッチワークのような画面に、ピンクの花を付けた植物、壺、輝く星などを配した作品。上端には十字の文様を並べた縁飾りのような描き込みがあり、志野茶碗のような吊るしの文様、波を思わせる水色のジグザグ模様がある。さらに画面中段には、水滴が落ちる様が表わされ、画面下には黄褐色や青の壺が置かれている。天からの雨水を地が受ける様子の象徴的表現であろう。そして、黄色に輝く星の連なり(《portrait no.4》(115mm×20mm×50mm)で立体作品化)は植物に与えられる光エネルギーである。水と光とで植物が成長していく様が表現されている。
山吹、ピンク、茶の布を繋いだ画面に植物のイメージなどを縫い付けた《ever there》(254mm×205mm)、藍、紫、灰色の布に花器に活けた花などを貼り付けた《starfall》(254mm×204mm)、赤、茶の布に壺や即物を表わした《welcome》(254mm×203mm)は、布のパッチワークであり、切り絵的作品である。とりわけ《starfall》における矩形から連続する山を切り抜いた端切れなどは、マティスの切り絵に通じるものがある。
絵画・切り絵の両者に共通して見られる地のパッチワーク的表現は、それぞれの生命の認識する世界、いわば環世界(Umwelt)の絡まり合う、この世界を表現する。そして、個々の世界を跨ぎ越して植物などが伸び拡がっていくこと、越境こそ、作家の主張ではなかろうか。絵画のモティーフが陶器として画面を飛び出すのも、その証左である。