展覧会『弓指寛治「4年2組」』を鑑賞しての備忘録
FOAM CONTEMPORARYにて、2025年6月28日~7月23日。
東京アートポイント計画「多摩の未来の地勢図」の一環として実施される学校連携プログラム「アーティストが学校にやってきた」に参加し、「子どもと戦争」について考えることになった弓指寛治が、昭島市立光華小学校4年2組に転入してクラスメイトともに学校生活をともにする中、零式輸送機の製造、八高線衝突事故、アキシマクジラの発見といった昭島の歴史をリサーチした成果を発表する企画。
入口には、両手を前につんのめったようなガンダムと、無数のフラミンゴの群れが飛翔する様を描いた壁画が飾られる。ガンダムは戦争とフィクションの象徴であるとともに作家の似姿でもあろう。他方、飛翔するフラミンゴは野生(飼育・閉鎖環境下にない)を象徴するとともに作家のクラスメイトたちの似姿である。
校舎を背に広い校庭で遊び、あるいは佇む子供たちの姿を描いた《光華小UNDAUNTED》(610mm×910mm)、作家が子供たちとともに遊ぶ(子供たちに翻弄されている)《こおりおに》(590mm×835mm)など、作家が目にした学校の生活の1齣が描かれる。例えば、クラスメイトとともに教室にいる生徒の1人が黄色い鉛筆削りに鉛筆を挿している姿を描いた《えんぴつけずりはオレの生きがい》(435mm×295mm)には、「このえんぴつけずりすごい/えんぴつさすと絶対左に倒れる」などの吹き出しが近くに付けられて1齣漫画的に仕立てられたものもある。中には、エピソードに纏わる実物資料が添えられているものもある。また、布に刺繍した作品は、作家が体験した印象的なストーリーを取り上げる。ボトルの麦茶をうまいうまいと飲み、母親はお茶を淹れるのが得意だと興奮気味に話す小学生が、ボトルの中身が水だったと打ち明ける作品など、小学生でなければありえないような物語だ。
授業と給食と鬼ごっこの日々の中、戦争を話題にするきっかけを掴み損ねていた作家は、国語の授業においてアンケートを取り分析するという課題で、戦争の話を誰かから聞いたことがあるかをテーマにすることを同じ斑のメンバーに提案し、採用される。「今年は戦後80年です。戦争をおぼえている人もうほとんどいません。テレビでタモリさんが今は戦後ではなく『新しい戦前』なんだと言っていました。日本で戦争のことを知らない人が多くなると、また戦争が始まるそうです。」と調査の趣旨を述べ、アンケート結果の棒グラフ(「きいたことがない」11、「テレビ・先生」8など)と、具体的な話の内容、「このように戦争の話をきいたことがない人が多くいました。みなさんきょうみがわいてきたらかぞくの戦そうのはなしをきいてみてください。」とまとめを模造紙に書き出した。
昭島市は、軍の零式輸送機ダグラスDC-3を製造していた昭和飛行機が所在したが空襲に遭わなかったため、戦時中の施設が多く残っている。また、敗戦直後、八高線の鉄橋で列車同士の正面衝突事故が起こり、疎開先から戻る人や復員兵が犠牲になった。その事故現場はアキシマクジラの化石が見付かった場所に近い。作家はクラスメイトたちと戦争遺構を見学し、紙芝居を仕立てることにした。「自由研究Ⅱ 八高線衝突事故篇」は、終戦で復員した兵士が列車に乗り込みうとうとしていると、列車が橋上で衝突事故を落として大破するという紙芝居。言われるがままに敷かれたレールの上を進んだ結果、悲劇は起きる。自分の目を見開いたとき(気付いたとき)にはカタストロフは既に避けがたいとの教訓である。目だけの描写から衝突する列車、川への落下の結末への急展開が見事である。「自由研究Ⅲ 昭和飛行機篇」では、零式輸送機ダグラスDC-3を、作家の《プレイス・ビヨンド》に登場する南方寶作との関わりで紹介する。この他、ホオジロザメの歯が刺さったアキシマクジラの化石を紹介する紙芝居「自由研究Ⅰ アキシマクジラ篇」が併せて紹介される。
「きのうさ/家でさ/ネットでけんさくしたんだけどさ/カンちゃんのママって死んじゃったの?」「そやよ」「じゃあパパは?」「父さんはずいぶん前に家出てったからおらへんよ」「さいあくじゃん」。壁面に挿入される作家とクラスメイトたちとの間に交わされた言葉は、一緒に学校生活を送ることで得られる関係性を浮き彫りにする。そのやり取りは作家の琴線に触れるだけではない。
「男子ってさぁ/いつになったらバカじゃなくなるの」「中学?」
その日は永遠に来ないかもしれれない。
「ねえカンちゃん」「この絵ってさぁ」「うちらが死んでからも残んの?」
芸術は長く、人生は短し。
学校で笑ってばかりいる作家は、笑うと長生きできると級友に太鼓判を押され、もっと笑わせて長生きさせてやると励まされる。
八高線衝突事故をテーマにした絵画では、雨の中、傘を差したみんなの前に蒸気機関車が高架上を走り出す。宮澤賢治の銀河鉄道の世界である。アキシマクジラをテーマにした絵画では、黄色いアキシマクジラがゆったりと游泳し、ホオジロザメが全てを呑み込むように大きな口を開く。やはり北上川にイギリス海岸を見た宮澤賢治の地質学的想像力を想起せざるを得ない。
校長から依頼された壁画制作のため、作家は5年2組に進級。新しいクラスメイトと旧4年2組のクラスメイトともに作業することになったという。
作家を通じて小学校生活を追体験し、「なんだ、これは!」と思わず岡本太郎的に喫驚し、歴史について考えることができる、ユニークな企画である。
小学生とともに暮らし、感じ、考えることができる能力の持ち主として弓指寛治を起用した「アートフル・アクション」の宮下美穂も凄い。