可能性 ある 島 の

芸術鑑賞の備忘録

展覧会 三瓶玲奈個展『Echoes After Light』

展覧会『三瓶玲奈「Echoes After Light」』を鑑賞しての備忘録
MITSUKOSHI CONTEMPORARY GALLERYにて、2025年7月23日~8月4日。

日常的景観をモティーフに、認識・記憶とイメージ形成とを探究する三瓶玲奈の絵画展。

《瞬間と構造》(500mm×606mm)は、右あるいは左に45度傾いた矩形で画面を覆った作品。矩形の色面はレモン色、オレンジ、緑、灰青などでややくすみ、擦れなどと相俟って、規則的なモティーフの繰り返しをやや曖昧な印象を与えている。レモン色など黄色の色面が光を感じさせる。同題作品《瞬間と構造》(500mm×727mm)では、規則性的な配列が崩され、右に30度傾いた矩形の青や緑の寒色系の色面を上段に、中段から下段にかけては黄やオレンジなど暖色系の矩形を上段の色面と垂直ないし平行に配している。彩度は増している。
《持続する水面》(1940mm×1120mm)では、白味の強いくすんだ赤紫の中に、下から上に向かって緑や白の横方向の描線がごく緩やかに蛇行するように並んでいる。水の溜まった路面に木々や空が映る状況が喚起される。手前に濃い緑の線が蜜に並び、奥(画面上部)に向かうに従って白い線が疎らになる。縦長の画面と相俟って、濡れた路面の奥への連なりが表現されている。南天棒《雲水托鉢図》の画境にも通じようか。同題でサイズの異なる《持続する水面》(727mm×606mm)(同題・同サイズで3点あり、2点は会場内に並べて、1点は通路に向けたウィンドウ内に展示)も同様のテーマであるが、白味の強いくすんだ赤紫が周囲を囲うように配され、水溜まりという水鏡が蜃気楼のような束の間現われるイメージであることが強調され、却って絵画という持続するイメージへ変換されたことが示される。
《光の距離》(1940mm×1120mm)は明暗の異なる黄の色面で画面を埋め尽くした作品。黄色以外に赤系統の色、くすんだ色、さらに寒色を差した《光の距離》(1940mm×1120mm)(同題・同サイズ3点)、白、灰色、青、緑に赤味を差した《光の距離》(333mm×242mm)と比べ、黄系の色で纏められた《光の距離》はより光の強弱を感じさせる。もっとも色(絵具)は塗れば塗るだけ暗くなる。光のように重ねることで明度を増すことはない。絵画の反射光と、PCやスマートフォンの画面の透過光との差異に通じる。反射光の絵画は惑星的であり、彼方からの恒星の光を受けて輝く。だから絵画は光(light)の谺(反響)(echoes)なのだ。
《線を見る》(910mm×727mm)は、臙脂や濃淡の異なる赤褐色などの色面を下段に、中段に白味を帯びた黄色い色面、さらに画面上端に朱色を配した、夕暮れ時の空を思わせる作品。画面中央には白や黄、淡い青などで裂け目のようなものが描き込まれている。塗られた絵具には厚みがあるので、裂け目と表現するのは語弊があるかもしれない。棚引く雲のようでもある。《線を見る》(1620mm×1303mm)(同題・同サイズ2点が並ぶ)は、いくつかの青い矩形状の色面に周囲を囲われたレモン色の色面に白・青・赤などの絵具が横方向に引き延ばされている。数学では、線は長さのみで幅を持たないものとされる。線は不可視の存在である。日常的な感覚では見てしまう線は、言わば幻覚である。線が幻覚でありイデアであるなら絵画もまた幻覚でありイデアである。