展覧会『渡辺綾香展』を鑑賞しての備忘録
JINEN GALLERYにて、2025年7月29日~8月3日。
路地の片隅、集合住宅の一隅、公園の遊具など、人のいない住宅地を捉えた絵画で構成される、渡辺綾香の個展。
《カラーコーン》(273mm×190mm)は、夜の住宅街に立つ電信柱の脇に置かれた赤いパイロンを描いた作品。民家のブロック塀の傍に立つコンクリート製の電信柱を回り込むように側溝が設置されている。赤いパイロンは側溝蓋の上に、電信柱に寄り添うように立てられ、街灯により電信柱とパイロンとの影がブロック塀に映る。パイロンは電信柱にぶつからないよう注意を促すものだろうか。道は手前から左奥へ真っ直ぐ延び、右に曲がって延びる。通りに人影は無く、右側の塀の中には植栽が覗くだけで、道の奥の人家にも灯りなどは点っていない。無人の景観である。
《遊具》(158mm×227mm)は、公園に設置されているスプリング遊具を描いた作品。地面から突き出した青い発条に支えられる白い座面、座面に接続された動物を模した赤い板、その板に手摺と足を載せる棒の取り付けられた遊具を斜め後ろから地面を背景に描いている。《遊具》(220mm×273mm)には、右手前にオートバイを模したスプリング遊具(正面に取り付けられ楕円の板が、車輪を挟む2枚の板先が長い耳に見える事と相俟ってウサギの頭部に見える)を、左奥に動物を模したスプリング遊具(おそらくは先の《遊具》のモティーフ)を描いてある。砂場の縁か、右奥には地面に埋まる2つの青い輪が見切れ、青い発条の螺旋と呼応する。薄暗く、誰の姿もない公園である。
《ランプ》(273mm×190mm)には、黄緑の柱に設置されたガラス球に入った電球が描かれる。柱は電球の配線が剥き出しで、柱の左手には剥き出しの配管が複数見える。搬入口か建物内の半地下の駐車場か、殺風景な薄暗い空間である。それでも柱には陽光が射し、電球は点灯されていない。
《植物》(333mm×242mm)は、集合住宅か雑居ビルの共用部の一隅にある主開閉器盤の傍らに置かれた観葉植物(カシワバゴムノキ?)の鉢植えを描いた作品。床の茶色いタイル、壁の白いタイル、主開閉器盤の扉や黄色い防火戸に囲まれた観葉植物は恰も追い込まれているように見える。
《団地》(652mm×530mm)は、団地内の5階建ての集合住宅の裏手を描いた作品。43号棟を示す数字が壁の角に見える。2段になった小さな窓が縦に並ぶ他は壁で覆われ、塔屋に連なる部分や樋などが壁に備え付けられている。裏庭は草や低木で鬱蒼として人が入り込む気配はない。
《夜道》(652mm×530mm)には、満月の夜の住宅街にある行き止まりの路地が描かれる。正面奥の家に向かい真っ直ぐ延びる道の両側に民家が連なる。左側にあるブロック塀の脇にはゴミのストッカーが置かれている。街灯も住宅の電灯も灯らず人気の無い路地を、満月が煌々と照らし出す。
《ハイツ》(333mm×530mm)は集合住宅の1階にある共用階段の辺りを捉えた絵画。辺りは薄暗いが階段室の入口の電灯は未だ点いていない。階段を上った先には黄緑のドアが見えるが、閉ざされている。
《アパート》(410mm×520mm)はベージュの集合住宅の最上階と1つ下の階とを建物の角に向かって見上げるように描いた作品。手前には葉の繁った梢が覗いていることから5~6階建てと思しい。建物の左側にはバルコニーがあり、最上階には洗濯物が干してある。右側には手摺の付いた窓が並ぶ。窓はいずれも暗く人の気配はない。屋上には給水塔が立っている。
《駐車場》(455mm×530mm)には、集合住宅の裏手に停められた青い自動車を描く。裏口の黄色い扉に向かう手摺の付いた階段のすぐ手前に、軽自動車のオフロード四輪駆動車が正面を向いている。近くには植栽も見える。フラッシュを浴びて浮かび上がる車と建物は、ナンバプレートが外されていることと相俟って、廃墟のイメージを喚起する。
《ごみ集積所》(455mm×530mm)は、集合住宅の裏手にある黄色いネットで覆われたごみ集積所を描いた作品。手前の左右に走る道と側溝とに面したごみ集積所は既にゴミが多く出されているのが、上方からの照明に照らし出されている。黄色いネットは閉ざされていない。背後の壁には筋交いが入っている。左手には白いタイル張りの通路があり、白い柱で支えられたピロティーの通路が奥へと通じる。
《電気メーター》(333mm×242mm)は、共同住宅の専有部の壁に世知された分電盤と電力量計とを描いた作品。寂びた有刺鉄線にピンク色のリボンが絡まっている。
《駐車禁止》(318mm×410mm)は、シャッターの降ろされた建物に続く道に置かれた、駐車禁止の表示を取り付けたパイロンを描いた作品。道の手前に黄緑のパイロンが2つ置かれ、それぞれに駐車禁止の表示がある。右手の茶色い建物に沿って側溝が延びる。左手から奥に続く建物の搬入口が道の奥にあり、シャッターが閉ざされている。
《信号機》(273mm×410mm)は、民家の前の横断歩道と歩行者用の信号機とを描いた作品。画面手前の車道に横断歩道の白線が覗く。低いブロック塀の上に鉄製のフェンスを挟んで左手に黄土色の建物、右手には植栽が見える。左側に立つ信号機は止まれの赤を表示している。暗い通りには人も車も気配はない。
いずれも住宅街の景観を描きながら、人の姿がない。窓は暗く、灯りは点されていない。壁や塀、建物の隅は、暗い窓や降ろされたシャッターなどと相俟って、閉鎖性が浮かび上がる。排外主義的な人口減少社会、可能性の無い島の行く末としての廃墟が作家には見えているのではないか。また、パイロンや有刺鉄線は、壁や塀、あるいは横断歩道などと相俟って結果を設けるかのようである。作家は日常的景観の中に他界へ通じる裂け目を捉えている。作家は霊媒(medium)なのだ。お盆が近い今、スプリング遊具は精霊馬にしか見えない。