展覧会『林於思「如是我聞」』を鑑賞しての備忘録
東京画廊+BTAPにて、2025年7月5日~8月9日。
景観の中に人物や生き物を配した水墨画「幻友[图帕]」シリーズ11点、水滸伝をモティーフにした戯画的な「水滸[水浒]」シリーズ6点、動物をモティーフとした白描画「線人」シリーズ5点で構成される、林於思[Lín Yúsī]の個展。
《幻友 12》(340mm×460mm)は瀧に龍の姿を表わした作品。画面左側は岩壁が覆い、右半分に青い落水(あるいは紺色の闇)が占める。細い桃色の龍が落水の右下から円を描きながら伸び上がり頭を右に向ける。画面左端の岩壁の影には細い落水が光を浴びて白く光る。その光が光沢を放つ鱗を持つ龍を想起させたようだ。《幻友 4》(610mm×870mm)は靄の立ち籠める中、巌頭に1本の松樹が枝を伸ばす。翼を持った鹿のような動物(麒麟?)が岩端に現われ、白い衣を纏う男性が宙空に浮かぶ。険しい岩壁に屹立する松に聖性や君子の姿を見出している。《幻友 6》(645mm×690mm)は霧の中から突き出す巌頭の周囲を飛び回る騎馬の人物と赤い瑞鳥とを描く。恰も磐座の注連縄のように、騎乗の禿頭の男は青い帯を岩端の周囲に靡かせる。奇岩を神聖視する眼差しが瑞鳥を呼び寄せる。《幻友 5》(960mm×890mm)は、瀧の手前に聳える青い岩壁の上の松樹と、騎龍の人物とを表わした作品。青い龍に乗った人物が松の方に向かって降りてくる。瀧の化身であろう。《幻友 11》(400mm×535mm)は靄の懸かる岩山の中、2つの巌頭の間から姿を現わした鳳凰を現わす。所々に羽毛を持つ緑の瑞鳥は、長い尾羽を垂らして宙空に飛び上がり下界を見下ろす。《幻友 21》(865mm×695mm)は渓谷に切り立つ2つの巌頭に橋を架けるように跨ぐ白龍と、そのの背に坐る天女の姿を表わした作品。紺碧をした渓流の流れはその深みを感じさせるとともに、白龍と黄色い衣を纏った天女の姿を一層輝かせて見せる。《幻友 8》(632mm×485mm)は巌頭に寝そべり近くの崖に咲く梅花を眺める獅子の姿を描く。獅子舞の獅子を思わせるやや扁平な頭部をした獅子が岩肌に顔を押し付け、やや下にある岩に立つ梅の花をじっと見詰めている。崖の切れ目から射し込む光が、獅子の姿を幻視させたと思しい。《幻友 2》(695mm×453mm)は渓流に立つ白鹿に乗った人物を表わす。周囲には気流が渦を巻いて拡がる。《幻友 1》(695mm×450mm)は飛翔する鳳凰の背に乗った人物を描く。周囲は渦を巻く気流が一帯を覆っている。《幻友 10》(385mm×620mm)には靄の懸かる岩山の中から炎に包まれた白い龍が現われる。《幻友 7》(685mm×690mm)は切り立つ岩の尖端に坐る人物と、近くの巌頭に立つ緑の馬とを描く。
「幻友」シリーズは、深山幽谷を画面に表わし、その景観に相応しい君子・仙女や瑞獣・瑞鳥を表わしているらしい。景観の切れ目や射し込む光などに応じ、キャラクターとその振る舞いとが描き分けられている。
「水滸」シリーズは、『水滸伝』のエピソードを3頭身の登場人物による1コマ漫画に仕立ててある。刀を持った女性に縛られ引きずられる男を描く《家内の暴威》(230mm×350mm)、刀を前に膝を抱えて坐り込む男を描く《宝刀を売る》(230mm×350mm)など、微笑ましい場面が描かれる。『水滸伝』を知っているとより楽しめそうだ。
「線人」シリーズは、動物を擬人化した白描画。《線人 47》(230mm×170mm)では衣装を纏った兎と岩の上の鴉との邂逅を描く。玉兔と金烏であろう。もっとも、その他は《線人 57》(230mm×170mm)の巨大なトウモロコシを抱える熊(?)や《線人 56》(230mm×170mm)の熊(?)を背負う鹿など、下敷きとなるエピソードが判然としない。本展タイトルの「如是我聞」には、作家が幼少期に大人に語ってもらった物語や伝説が下敷きになっていることも含意されており、「線人」シリーズもまた、中国の物語・伝承に詳しい者には馴染みの場面である可能性が高い。